1人数万円給付 自民公約の方針
2025/06/10 (火曜日)
現金1人数万円給付、自民が参院選で公約に…「所得5割増」「GDP1000兆円」目標も
自民党は9日、夏の参院選の公約に物価高対策として国民1人当たり数万円の現金給付を盛り込む方針を固めた。財源は税収の上振れ分を活用する方向だ。所得制限を設けるかどうかは今後詰める。所得制限を付けない場合は、受け取りを辞退できるようにする案も出ている
2025年6月9日、自民党は夏の参議院選挙に向けた公約案として、物価高騰への緊急対策として「国民一人あたり数万円の一律現金給付」を盛り込む方針を固めました。財源には2024年度の税収上振れ分を充当し、赤字国債発行は行わないとしています。給付にあたっては所得制限の有無を調整中で、制限を設けない案では「辞退方式」の導入も検討されています。本稿では、この現金給付構想の詳細とその背景・歴史、財源と政策効果、国内外の類似事例との比較、批判や課題、さらには今後の展望を総合的に解説します。
自民党案では、参院選後に補正予算を編成し、給付対象を「すべての日本国民」とする一律給付を想定。給付額は1人当たり2万円~5万円程度が検討されており、総額は約10兆円規模に上る見込みです。給付時期は2025年度上半期中とし、迅速な支給を図るため、地方自治体の住民基本台帳とマイナンバーを照合し、銀行振込またはマイナポイントによるチャージ方式を併用する案が浮上しています。
所得制限については、低所得層に集中支援を行うことで財源効率を高める「所得上限あり」案と、行政負担や給付漏れのリスクを避ける「一律給付」案の双方が議論されています。後者を採用する場合、申請時に「受け取り辞退」を選択できる仕組みを設け、財源を真に必要とする層に再配分するアイデアも検討中です。
日本における国民一律の現金給付は、新型コロナウイルス危機下の2020年に「特別定額給付金(一人10万円)」として実施されたのが直近の大規模事例です。1998年の消費税率3%→5%引き上げ時には「勝ち組・負け組対策」として一世帯2万円程度の給付が検討されたものの、最終的には食料品に対する軽減税率制度で落ち着きました。
金融危機時の欧米諸国では、2008年のリーマン・ショック後に米国が現金給付を含む景気刺激策(通称「グリーンニュー・ディール」)を実施し、欧州諸国でも一時的な「臨時給付金」制度が採用されました。日本でも給付金は「緊急時の経済対策」として定着しつつありますが、恒久的な「ベーシックインカム」とは一線を画し、あくまで臨時的措置として位置づけられてきました。
日本の消費者物価指数(CPI)は、2022年以降、世界的なエネルギー・原材料高騰と円安の影響で上昇傾向が続いています。2025年前半の前年比物価上昇率は約3.5%に達し、家計の可処分所得実質が縮小する「スタグフレーション」懸念が顕在化しました。とくに食料品や光熱費、住宅賃料など必需品価格の伸びが家計に重くのしかかり、低・中所得層では生活防衛のための緊急支援が不可欠とされています。
こうした背景で、政府・自民党は「構造的な賃金対応や中長期的な物価抑制策と合わせて、即効性のある給付で家計の下支えを図る」ことを狙いとし、かつ「財政規律を保った上で実施可能な政策手段」として税収上振れ分の活用を選択しました。
2024年度当初予算に対して税収は法人税や所得税の好調で上振れ見込みが約8兆円に達すると予測されており、これを給付財源に充当するとしています。赤字国債発行を避けることで、長期金利や為替市場への影響を抑制し、同時に財政健全化のシグナルを市場に送る狙いもあります。
ただし、税収上振れは一過性の要素も含み、将来的には消費減退や景気後退で税収が目減りするリスクも孕んでいます。5月時点の財政収支見通しでは、2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は依然赤字が継続するとされており、ガバナンス強化や歳出抑制策を別途講じる必要があります。
米国では2020年と2021年の二度にわたり一人当たり最大1,400ドル(15万円程度)の「経済刺激チェック」を実施し、消費支出や貯蓄率の増加に寄与しました。欧州連合(EU)でも域内の経済支援策の一環として、一部加盟国は給付金支給を行い、感染拡大とインフレのダブルパンチに対応しました。
一方、中国や韓国では給付対象を低所得世帯に絞る形の「選択的給付」を実施し、財政効率を高める方式をとりました。給付条件を厳格にすることで、高額所得層への不公平感や財源不足リスクを抑制しつつ、効果の高い層に資金を集中させる狙いです。
所得制限を設ける場合、年収500万円未満や住民税非課税世帯など条件を設定し、財源効率化と給付の公平性を両立させる議論があります。しかし、所得申告の手続き煩雑化や漏れ・誤配のリスクが高まるほか、中間層からの反発も予想されます。
一律給付とする場合は、申請不要の自動給付を基本としつつ、受け取り辞退の方式を選べる仕組みを導入する案が有力です。辞退分は再配分財源に回すことで、本当に必要とする層へ追加支援が可能となります。ただし、辞退率の予測や再配分の透明性確保が課題です。
現金給付は短期的な対応策にすぎず、中長期的には賃金・社会保障・税制など構造改革を通じた生活水準の底上げが不可欠です。具体的には、
などがセットで実行されなければ、給付金の効果は持続せず、家計防衛にはつながりません。
自民党は6月中旬に党内で最終調整を行い、財務省・内閣府と給付額・条件を詰めて6月末までに詳細を公表予定。その後、参議院本会議で補正予算案を提出し、早期審議・成立を目指します。野党側は消費税減税や給付条件の厳格化を要求する構えで、参院選論戦の主要争点となる見込みです。
給付決定までの手続きを迅速化するため、住民基本台帳とマイナンバーの連携強化、自治体システムへの負担軽減策も検討されています。政局的には、与党内の財政規律派と経済対策派の綱引きが鮮明化し、党内調整が焦点となります。
自民党が打ち出す「全国一律現金給付」は、物価高対策として即効性を期待できる一方、財政健全化や中長期的な構造改革とのバランスが問われます。給付額や所得制限の有無、辞退方式といった制度設計の詳細が決定的要素となり、参議院選挙の争点として国民の注目を集めるでしょう。給付と同時に、賃金引き上げや社会保障充実など本質的な生活支援策の実行が不可欠です。短期的な選挙対策に留まらない、持続可能な経済運営と暮らしの安心を両立させる政策パッケージが求められています。
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