国宝・金銅製矛鞘に前例なき発見

国宝・金銅製矛鞘に前例なき発見

2025/06/10 (火曜日)

記事画像(PC版)

総合 遺産 発見ニュース

【新発見】沖ノ島で出土した国宝「金銅製矛鞘」X線で調査→矛に施されていたのは象嵌(ぞうがん)「匹敵する類例がない」

引用元はこちら

イントロダクション

2025年6月10日、福岡県宗像市の沖ノ島で1970年代に出土し国宝に指定された「金銅製矛鞘」が、最新のX線CT調査でその実体をあらわにした。鞘に納められた鉄製の矛を非破壊で透視した結果、全面に金象嵌(ぞうがん)が施されていたことが明らかとなり、「匹敵する類例がない優品」と評価されている(出典:FBS NEWS NNN)。

沖ノ島の歴史的背景と世界遺産登録

沖ノ島は4世紀後半から9世紀にかけて大和政権による国家的祭祀が行われた聖地で、島全体が宗像大社の「沖津宮」とされてきた。2017年には「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群としてユネスコ世界文化遺産に登録され、その考古学的・宗教的価値が国際的に認められている。祭祀の際に奉納された武器・鏡・装飾品など出土品は約4,200点に及び、日本古代の交易網や宗教観を物語る貴重な資料である(出典:宗像・沖ノ島世界遺産公式サイト)。

金銅製矛鞘の出土状況と構造

この金銅製矛鞘は1970年代の学術調査で発見され、全長約30センチの金銅製外装の内部に、長さ1メートル近い鉄製の矛が納められていた。鞘表面は腐食や付着物のため細部が不明瞭とされていたが、保存状態が良い内部構造は初公開に近い状況だった。従来の顕微鏡観察では見えなかった細かな装飾の有無を探るため、非破壊で内部観察が可能なX線CTによる再検証が求められていた(出典:朝日新聞デジタル)。

X線CT調査で判明した金象嵌の施文

文化庁の補助により2024年夏から実施されたX線CT調査では、鞘に納めたまま矛の金属密度差を三次元的に解析。断面画像には、鉄製矛の表面一帯に金属片が埋め込まれた痕跡が鮮明に浮かび上がり、金象嵌であることがほぼ確実視された。象嵌文様は鳳凰を囲む亀甲繫文(きっこうけいもん)や唐草文を連想させ、製作には高度な金属加工技術と美意識が用いられていたと考えられる(出典:FBS NEWS NNN)。

象嵌技法の意義と類例の希少性

象嵌は母材に溝や穴を刻み、そこに金・銀など異質金属を埋め込む工芸技法で、中国・朝鮮半島でも古くから知られる。日本では青銅鏡や刀剣の装飾例があるものの、鉄製矛全面への大規模象嵌は過去に例がなく、他地域の出土品とも比較して卓越した技術水準を示す。今回の調査で成果を上げた非破壊CT解析は、今後の国内外の金属製祭祀具研究に大きな指針を与えることになる(出典:朝日新聞デジタル)。

大和政権の祭祀と国家権力の象徴性

古代日本において沖ノ島は、航海安全や海上交易の成功を祈念する国家的祭祀の場とされた。矛や刀剣などの武具奉納は、天皇権威の下で有力豪族がその力を示す儀礼行為と位置づけられ、大和政権の統合力を内外に誇示する役割を担ったとされる。金象嵌の精緻な装飾は、そうした権力構造と宗教的威厳を兼ね備えた文化的産物と言える(出典:國學院大學公開講座資料)。

比較事例:七支刀のX線CT調査

類似の非破壊調査例として、奈良・石上神宮所蔵の国宝「七支刀(しちしとう)」がある。2019年に行われたCT解析では、鉄剣表面の金象眼(ぞうがん)の文字や装飾が従来より鮮明に再現され、鋳造年代や製作者の解明に成果をもたらした。矛鞘の象嵌調査にもこの手法が応用され、文様の正確な形状や製作過程の推定が可能となっている(出典:朝日新聞デジタル)。

公開予定と今後の研究展望

宗像大社は2025年6月14日から、金銅製矛鞘を特別公開する予定だ。高解像度CTデータは研究機関と共有され、象嵌に用いられた金属の組成分析や、製作技術の国際比較研究が進められる見通しである。また、沖ノ島出土金属製品約4,200点を対象としたCT調査プロジェクトが計画され、古代祭祀文化の全容解明に向けた取り組みが本格化する。

結論

今回のX線CT調査により、国宝・金銅製矛鞘は単なる出土品から「技術力と美意識が融合した文化財」へと評価が一段と高まった。大和政権の国家祭祀を物語る象嵌装飾は、日本古代史の新たな一章を開く発見と言える。今後のさらなる分析と公開が、沖ノ島祭祀文化の深い理解につながることが期待される。

コメントを投稿する

コメント:0

まだコメントはありません。

関連タグ

カテゴリー

タグ