ハメネイ師暗殺計画 米大統領反対
2025/06/16 (月曜日)
(ブルームバーグ): イランの最高指導者ハメネイ師を殺害しようとするイスラエルの計画について、トランプ米大統領が反対の意向を示したことが、米当局者の話で明らかになった。
2025年6月、米国の当局者の話としてブルームバーグが報じたところによると、ドナルド・トランプ前大統領は、イスラエル政府内で検討されていたイラン最高指導者アヤトラ・アリー・ハメネイ師を標的とする暗殺計画に強く反対する意向を示していたことが明らかになりました。本稿では、当該計画の経緯、トランプ氏の判断に至った背景、米イスラエル関係及び中東情勢への影響、法的・倫理的問題などを総合的に解説します。
2025年春、イスラエル国内の一部政治・軍事関係者の間で、イランの最高指導者ハメネイ師を暗殺対象とする作戦案が再浮上しました。これまでも両国間では核開発やテロ支援等を背景に摩擦が繰り返されてきましたが、最高指導者を狙うという極秘作戦は、国家間の対立を極限に高める行為として慎重論が支配的でした。
ブルームバーグの情報筋によれば、この作戦案はイスラエル国防軍(IDF)およびモサド(国家情報局)の上層部で初期検討段階にありました。具体的には、無人機によるハメネイ師の車列襲撃や、特殊部隊による精密狙撃などが候補に挙がっていたとされています。しかし、作戦の最終承認を得るには米国の協力・承認が不可欠であり、その過程でトランプ前大統領が強く反対の姿勢を示したというのが今回の報道の核心です。
報道によれば、トランプ氏は現職時代から「中東地域での全面的な戦闘行為は避けるべき」との立場を貫いており、特にイランの指導者に直接的な軍事攻撃を仕掛けることは、地域全体の大規模な軍事衝突につながる可能性があると警戒していました。トランプ氏が大統領だった2020年、米軍はイラン革命防衛隊の司令官カセム・ソレイマニ師をバグダッドでのドローン攻撃で暗殺しましたが、その直後にイランによるイラク国内米軍基地へのミサイル攻撃が行われ、一歩間違えば全面戦争に発展しかねない緊張状態となりました。
当時の経験を踏まえ、トランプ氏は「最も効果的な対応策は経済制裁と外交圧力を併用すること」であり、ハメネイ師暗殺は「逆効果である」と判断。さらに、イラン国内では最高指導者への攻撃を口実に核開発やテロ活動をエスカレートさせる論調が強まり、弾劾や国際的非難を受けるリスクが高いと懸念したといいます。
米国とイスラエルは長年にわたり安全保障で緊密に連携してきました。米国はイスラエルの最大の武器供与国であり、核合意離脱後もイランに対する圧力を維持する点で協力しています。ただ、トランプ政権下でソレイマニ司令官暗殺を承認した一方、ハメネイ師暗殺には強い拒否感を示したことで、両国間の信頼構築に微妙な亀裂が生じた可能性があります。
バイデン政権以降、米国はイランとの核合意再建に一定の意欲を見せる一方、イスラエル側は強硬姿勢を維持しており、このずれが今回の計画浮上につながったとも分析できます。イスラエル側が「米国の同意なしに実行することは困難」と判断した背景には、米国製兵器や情報支援への依存度の高さがあると言われています。
国家元首や政府高官を標的とする暗殺行為は、国際法上「武力行使」と見なされる可能性が高く、国連憲章第2条4項で定める「武力による威嚇又は行使の禁止」に抵触する恐れがあります。また、事前の国際的承認や安全保障理事会の決議がないまま行われれば、違法性が強く疑われることとなります。
倫理的にも、死傷者が拡大するリスクや、ミサイル迎撃や空爆による民間人被害が避けられない点から、人道的見地で大きな問題が指摘されるでしょう。過去には米英によるリビア・カダフィ政権転覆や、イラク戦争での大量民間人死傷が国際的非難を浴びましたが、ハメネイ師暗殺計画も類似の批判を免れないと考えられます。
ハメネイ師はイランの最高権威であり、宗教的・政治的に絶大な影響力を持ちます。彼の暗殺はイラン国内で「殉教」的扱いを受け、後継指導者の下でも反イスラエル・反米世論が急速に高まるでしょう。これにより、シリア・レバノンのヒズボラやイラク内の民兵組織が武装活動を活発化させる可能性があります。
地域内では、湾岸諸国がイランに距離を置く一方で、一部のシリア政府やイエメンのフーシ派はイラン寄りの立場を強めるなど、混迷がさらに深まる恐れがあります。国際的には、石油価格の急騰や難民・移民の大量流出といった副次的被害も懸念されます。
トランプ氏は政権復帰を目指す中で、中東政策における「攻撃的抑止」と「経済制裁の両立」を重視するとみられます。もし再び大統領となった場合、イラン核合意再建の可能性は低く、経済制裁強化を軸にイランの核・ミサイル開発を封じ込める戦略を展開するでしょう。
一方で、イスラエル側は引き続き「待ったなし」の安全保障環境に置かれており、米国との協調を維持しつつ、自前の迎撃能力強化やサイバー戦力投資を進めると予想されます。暗殺計画の陽の目は見送られたものの、「暗殺可能性」を背景とする抑止効果を狙う駆け引きは続くでしょう。
ブルームバーグ報道により浮き彫りになった、トランプ前大統領のイラン最高指導者暗殺計画への反対意向。現実に計画が実行されれば、中東情勢をさらに混乱させるとともに、国際法や倫理上の大きな問題を引き起こす可能性がありました。米イスラエル間の緊密な軍事協力関係の中で、最終的に「慎重論」が勝ったことは、両国の戦略的バランスを如実に示すものと言えます。今後も、中東の不安定要因としてイラン・イスラエル関係は国際社会の最大関心事であり続けるでしょう。
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