発車時に死角 幼児犠牲の事故続く
2025/06/16 (月曜日)
3歳以下の死亡事故「発進時」74%、死角に子ども…幼児検知できる装置設置を義務化へ
近年、住宅街や駐車場で、車の「発進時」に巻き込まれる子どもの死亡事故が相次いでいます。警察庁の統計によれば、3歳以下の幼児が車両にひかれて死亡するケースのうち約74%が、運転者が発進時に後方や側方の死角にいた子どもに気づかず起きています。この深刻な事態を受け、政府は全ての乗用車に「幼児検知装置」の設置を義務化する検討に入りました。本稿では、事故の実態と要因、義務化の背景と制度設計のポイント、導入がもたらす効果と課題を詳しく解説します。
警察庁が2023年にまとめた「子ども巻き込み交通事故」のデータによると、発進時に起こる死亡事故は全体の過半数を占め、なかでも駐車場や自宅の前など、日常生活圏で発生するものが多いことがわかりました。事故現場の映像解析では、運転席から見えない後方の死角に、歩行中の子どもや駐車車両の陰に隠れた幼児が入り込み、気づくのが遅れた例が目立ちます。
特に3歳以下の幼児は身長が低く、後方確認ミラーやバックカメラの映像にも映りにくいため、運転者の視界に入らず、高い巻き込みリスクにさらされます。幼い子どもは急に飛び出すこともあり、ブレーキを踏む余裕がなくなってしまうケースも少なくありません。
現在、多くの新型車には後方確認用のバックカメラや全周囲モニター、パーキングセンサーが標準装備されつつあります。しかし、これらは静止物には有効でも、急に動く小さな幼児を確実に検知するには限界があります。映像の遅延や死角補完の不十分さ、音だけでは距離感がつかみにくいといった問題が指摘されており、実効的な「幼児安全対策」とは言い難いのが現状です。
こうした背景を受け、国土交通省と警察庁は2024年度末から、各国の導入事例や最新技術を調査。欧州では赤外線センサーやミリ波レーダーを組み合わせた「歩行者検知システム」を義務化している国もあり、その効果が高いことが確認されています。国内の事故削減を図るため、日本も同様の装置を全ての乗用車に義務化する方針を固め、2026年夏以降の新型車から順次適用する案が有力視されています。
幼児検知装置は、赤外線やミリ波レーダー、AI画像解析を組み合わせ、車外の人や動物、障害物をリアルタイムで識別します。走行中や発進時に幼児を検知すると、警告音やディスプレイ表示、さらには自動ブレーキを作動させることで重大事故を未然に防ぎます。メーカー試算では、1台あたり約3万円~5万円程度の追加コストが見込まれますが、大量導入による部品調達コスト低減や補助金制度の活用で負担を抑制する仕組みも検討されています。
欧州連合(EU)は2022年から新車に「排気エミッション規制」と並び、「歩行者・自転車検知システム」の装着を義務付けています。導入後2年で、都市部での発進時事故による死亡者数が約15%減少したという報告もあり、日本国内でも同程度の効果が期待できるとしています。
義務化に向けた課題としては、以下の点が挙げられます。
一部の自治体では、子育て世帯を対象に、幼児検知装置の購入補助制度を開始。民間のタクシー・バス事業者も、早期導入によって安全運行をアピールし、利用者の信頼向上を図っています。また、自動車保険会社は、装置装着車向けに保険料割引を検討するなど、多方面で支援策が広がりつつあります。
3歳以下の幼児が巻き込まれる車両事故の多くが「発進時」に起きている現実は、車社会における新たな安全対策の必要性を強く示しています。幼児検知装置の義務化は、子どもの命を守る切り札となり得る一方、導入コストや技術基準、社会的理解の醸成など、課題も少なくありません。政府・自治体・企業・消費者が協力し、安全機能の普及と、交通マナーの向上を同時に進めることで、将来の悲劇を防ぎたいものです。
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