トランプ氏、「イスラエルとイランが停戦合意」とSNSに投稿「世界から称賛される」とも
2025/06/24 (火曜日)
【ワシントン=坂本一之】トランプ米大統領は23日、自身の交流サイト(SNS)に、「イスラエルとイランの間で完全な停戦が合意された」と書き込んだ。
トランプ氏は、イスラエルとイランの交戦の「終結は世界から称賛されるだろう」と述べ、停戦期間中はイスラエルとイランの双方が「平和的な態度を保つ」と指摘した。
2025年6月23日、ドナルド・トランプ米大統領は自身の交流サイト(SNS)にて、「イスラエルとイランの間で完全な停戦が合意された」と投稿しました。トランプ氏は「終結は世界から称賛されるだろう」「停戦期間中は双方が平和的な態度を保つ」とも強調し、あたかも二国間交戦が収束したかのような声明を発信しました。(出典:産経新聞2025年6月24日)
しかし、イスラエルとイランは正式に国交もなく、直接的な〝交戦〟状態にはありません。近年、中東地域ではイスラエルがイラン支援のシリア・ヒズボラを空爆する攻撃や、イランがイスラエル領へのドローン攻撃を行う「限定的報復」が断続的に続いているものの、両国政府間で停戦合意文書が交わされた事実は確認されていません。トランプ氏の書き込みは、現状を過大に誇張したものと受け止められています。
1979年のイラン革命以降、イスラエルとイランは外交断絶状態にあります。イラン政府は「ユダヤ国家を認めない」との立場を堅持し、イスラエルはイランの核開発計画を最大の安全保障上の脅威と位置づけてきました。2002年にはイスラエルのシャロン首相が国連総会で「砂漠の核保有国」とイランを名指し批判。以後、国際社会はイラン核合意(JCPOA)や米国の一方的離脱(2018年)を経て緊張を繰り返しています。
2015年に成立したJCPOA(包括的共同行動計画)では、イランの核開発を一定期間凍結し、制裁緩和を見返りにする枠組みが合意されました。しかし2018年5月、トランプ政権は一方的に離脱し、再制裁を発動。イランは核開発を再開し、地域の「代理戦争」は激化。イスラエルはイラン支援勢力への空爆を強化し、両国の緊張はむしろ高まっています。
2025年に入ってからも、シリア領内やイラク領内に駐留するイスラエル・イラン支援部隊同士の小規模衝突が頻発。イラン製ドローンや巡航ミサイルがイスラエル領内に飛来し、イスラエル空軍は報復空爆を実施しています。しかしこれらは「限定的・象徴的」な軍事行動にとどまり、公式停戦協議は一度も開催されていません。
トランプ氏は2024年大統領選での再選を視野に、外交実績をアピールしたいと見られます。2019年の「アブラハム合意」では中東のアラブ諸国とイスラエルの国交正常化を実現した実績がありますが、イランとの停戦合意は全く別次元。書き込みは「実績誇張」の一環とも分析され、根拠なき平和宣言が有権者向けのメッセージとして発信された可能性があります。
欧州連合(EU)は声明で「トランプ氏の言及には根拠がなく、現地情勢を正確に把握した上で発言を」と牽制。国連事務総長も「停戦には正式な交渉が必要」と指摘しました。中東和平プロセスに関与する米国の専門家からも「単なる希望的観測」「現実を混乱させる無責任なコメント」と厳しい意見が相次いでいます。
一方、1988年のイラン・イラク戦争終結時には、国連安保理決議に基づく停戦監視団が派遣され、正式な停戦合意文書が存在しました。また、1994年のイスラエル・ヨルダン和平では両国首脳が署名式を実施し、国際法上の枠組みが明確化されています。トランプ氏の書き込みには、このような「公式文書」「国際監視機関」の存在が一切伴わない点で大きな違いがあります。
真の停戦には、イランとイスラエル双方による直接交渉、国連やEUの仲介、第三国の保証が不可欠です。代理戦争状態にあるシリアやイラク、レバノンの武装勢力も停戦協議に巻き込む必要があり、関係国・機関が一堂に会して包括的な安全保障枠組みを構築しなければなりません。
中東情勢の不安定化は、原油価格高騰や邦人退避リスクを通じて日本にも直接影響を与えます。日本政府は一連の動きを注視し、外務省を通じて在留邦人に注意喚起を続けています。また、エネルギー供給網の多角化や戦略石油備蓄の見直しを図るとともに、国際社会と連携した平和構築プロセスへの関与が求められます。
トランプ氏の「停戦合意」ツイートは瞬時に拡散し、中東和平への期待感を演出しましたが、現実との乖離はあまりにも大きいと言わざるを得ません。平和構築には、政治的意図を超えた地道な外交交渉と国際的監視体制の構築が不可欠です。私たちは真偽を見極め、冷静かつ現実的な議論を行う責任があります。
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