ドイツ、志願者不足なら徴兵制 ロシア抑止のため軍拡充 ピストリウス国防相が検討表明

ドイツ、志願者不足なら徴兵制 ロシア抑止のため軍拡充 ピストリウス国防相が検討表明

2025/06/24 (火曜日)

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ピストリウス氏は総兵力18万人の連邦軍を25万~26万人に増員する必要があるとし、志願者を増やすため兵士の給与や住環境の改善に努める考えを強調。予備役も約20万人態勢へと倍増させる方針を掲げた。

18歳の若者に書簡を送って志願の意思の有無を確認する見通しだとも述べた。男性には回答を義務付け、女性は任意とする。十分に志願者が集まらなかった場合に備え、2011年に事実上廃止された徴兵制を一部の若年層

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はじめに

2025年6月22日、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は公共放送ARDの番組で、連邦軍(Bundeswehr)の大幅な拡充と予備役の倍増を盛り込んだ法案の検討を表明しました。現在18万人の現役兵力を25万~26万人に増やし、約10万人の予備役を約20万人に引き上げる必要があると訴え、志願者確保策として兵士の給与・住環境改善や、志願意志を問う18歳書簡の送付などを打ち出しました。志願者が集まらない場合は、2011年に廃止された義務的徴兵制を一部復活させる方針も示しています。【出典:産経新聞2025年6月24日】

現状の課題:志願者不足とロシアの脅威

2022年のウクライナ侵攻以降、ロシアに対する抑止力強化が急務となった外交・安全保障環境の変化を背景に、ドイツはNATO内での軍事的役割拡大を求められています。しかし、現行の18万人体制では即応部隊や後方支援の維持が難しく、将来的な部隊展開余力が不足。加えて、若年層の志願者数が伸び悩む中、兵役の負担感や勤務条件の厳しさが離職率を高める「人手不足」が深刻化しています。

給与・住環境の改善策

ピストリウス国防相は、志願者の増加には給与水準の引き上げが不可欠と指摘。現状の月給約1,500ユーロを引き上げるとともに、兵舎や家族住宅の建て替え、配偶者就労支援や子育て環境の整備を進め、「軍人を職業として選び続けられる職場環境」を構築する考えを示しました。これにより、定着率の改善と志願者拡大の相乗効果を狙います。

予備役倍増の狙い

予備役は現在10万人程度ですが、同国防相はこれを約20万人に倍増する方針を掲げました。訓練頻度や報酬制度を見直し、予備役登録者が民間勤務と両立しやすいスケジュール管理やスポンサー制度(雇用主への補償)を導入。緊急時の迅速動員能力強化を通じ、戦時・危機対応体制の厚みを増すことを目指します。

書簡による志願意志確認

ピストリウス氏は18歳の若者全員に国から書簡を送付し、「兵役志願の意思」を確認する見通しを明らかにしました。男性には回答を義務付け、女性は任意とする案です。これにより、志願者数を精緻に把握し、広報・募集活動を個別に強化。回答率が低い場合は、徴兵復活を含む追加策を検討する構えです。

徴兵制復活案の検討

ドイツは1956年に義務的徴兵制を導入し、2011年に当時のメルケル政権下で平和憲法志向の一環として廃止しました。しかし、今回の提案では「志願者が不足した場合に限り」、一部の若年層に対する義務的徴兵(Kurz Wehrdienst)を復活させる制度案を検討。対象期間や履修義務、免除条件など法案化に向けた具体的議論がこれから本格化します。

歴史的背景:徴兵制とプロ志願制の変遷

ドイツ連邦共和国は1956年の連邦軍創設時から1973年まで義務徴兵を実施。その後も北大西洋条約機構(NATO)との整合性を図りつつ、社会的議論を経て2011年に完全廃止しました。プロ志願制への移行後は、兵役期間や義務年限を撤廃し、比較的安定した職業軍人制度を維持してきましたが、ウクライナ戦争を契機に再び「市民の防衛への関与」が問われています。

他国との比較:フランス・スウェーデンの徴兵制度

近隣のフランスは2001年に徴兵を廃止し、代わりに成人教育プログラム「Journée Défense et Citoyenneté(日仏市民防衛デー)」を実施。スウェーデンは2010年に徴兵廃止後、2017年に再導入し、男女ともに対象となる選抜制徴兵を行っています。ドイツの部分的徴兵復活案は、これら諸国と同様に、全市民の国防参加と社会統合を両立させる試みと見ることができます。

今後の見通しと課題

  • 法案提出時期:2025年末までに連邦議会(Bundestag)で審議入りを目指す。
  • 財源確保:増員に伴う人件費・施設整備費用を2026年度予算概算要求に設定。
  • 世論動向:徴兵復活への賛否は世代間対立を生む可能性。若年層や女性の理解を得る広報戦略が鍵。
  • 実務的運用:徴兵復活に必要な管理システムの再構築や人員配置、教育訓練計画の整備。

まとめ

ピストリウス国防相の提案は、ウクライナ侵攻後の安全保障環境の大転換を背景に、ドイツ連邦軍と予備役の規模を抜本的に強化するものです。志願者確保策や徴兵制の一部復活を軸とした法案の行方は、NATO内でのドイツの防衛責任を再定義するとともに、国内外の政治・社会に大きな影響を与えることになるでしょう。

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