レアアースで脱中国工程表 G7案
2025/06/11 (水曜日)
レアアース「脱中国」工程表の策定、G7合意案判明…各国の「溝」露呈回避へ首脳宣言は見送る方向
レアアース(希土類元素)は電気自動車や風力発電、スマートフォンなど最先端製品に不可欠な重要資源です。世界の供給能力は約200万トン/年で、そのうち中国が約60%を生産し、精製面では90%以上を握っています。中国政府は輸出規制や優遇税制を駆使し、非市場的手法で市場をコントロールしてきた実績があり、他国のハイテク産業に圧力をかける「戦略兵器」としての側面を持っています。
2010年、中国はレアアースの輸出割当量を大幅に削減すると発表し、価格は数倍に高騰しました。これを受け、日本、欧州連合、米国は世界貿易機関(WTO)に提訴し、中国の措置が自由貿易原則に反すると認定されました(2014年)。この経験から、安易な「脱中国」策はサプライチェーン全体を揺るがしかねないことが痛感されました。
カナダ・サミット(6月15~17日)に向け、G7がまとめた原案では、重要鉱物分野での中国依存から段階的に脱却する「工程表」の策定が打ち出されました。主な項目は次の通りです(読売新聞オンライン報道を基に整理)。
当初、工程表の正式確認を含む首脳宣言を計画していましたが、最終案では宣言自体を見送る方向です。その理由として、以下の点が指摘されています。
これらの利害調整が難航し、正式な宣言で「脱中国」を高らかに掲げるメッセージを出せないまま、工程表のみが「合意案」として先送りされる形です。
G7は過去、通信インフラ(5G)や半導体(米欧「Chip 4」)などでも中国依存リスクを巡る枠組みを試みましたが、いずれも中国との経済関係を断ち切るほどの強い宣言には至っていません。特に半導体では、米国が自国投資・補助金政策を主導し、日韓台は協調の一方、依存非依存の線引きが曖昧でした。
日本は2022年に「重要鉱物戦略」を閣議決定し、レアアースやコバルトの回収・精製能力を強化する基金を創設しました。また、オーストラリアのリンカーン鉱山や米国モンタナ州の当該鉱山に出資する官民ファンドを設立中です。欧州も2023年に「Critical Raw Materials Act」を採択し、戦略鉱物の国内供給拡大を義務化しています。
工程表の実効性を担保するには、各項目で予算・法整備・技術移転の具体的スケジュールが求められます。また、国内外企業の脱中国投資には時間とコストがかかるため、中間的な調整メカニズムや、中国側との協調維持策も併せて検討する必要があります。さらに、中国の報復措置を想定したリスク管理計画を事前に策定しておくことが欠かせません。
G7による「脱中国」工程表は、初の鉱物サプライチェーン多国間協調の枠組みとして評価できますが、首脳の公式宣言が見送られたのは各国間の利害調整の困難さを示しています。今後、工程表を合意文書とするか、各国が個別措置を強化していくかが注目されます。グローバルな供給網改革の行方は、ハイテク産業の競争力維持と安全保障上の信頼確保に直結する重要課題です。
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