世界遺産が損傷 ウ大統領が露非難

世界遺産が損傷 ウ大統領が露非難

2025/06/11 (水曜日)

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国際 遺産ニュース

[キーウ 10日 ロイター] - ウクライナのゼレンスキー大統領は毎晩のビデオ演説で、ロシアの攻撃により首都キーウの歴史地区にある世界遺産の聖ソフィア大聖堂が損傷したと非難した。

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ロシア軍の攻撃による聖ソフィア大聖堂の損傷とその意義

2025年6月10日未明、ロシア軍の無人機や巡航ミサイルによる攻撃がウクライナ首都キーウ市内を襲い、市の歴史地区にあるユネスコ世界遺産、聖ソフィア大聖堂が被害を受けた。大聖堂の外壁に大きな亀裂が入り、屋根の一部瓦礫が落下。深夜の攻撃を受け、地元警察と消防隊が出動して初期消火と避難誘導を行い、その様子はロイター通信で世界に伝えられた。

聖ソフィア大聖堂の歴史的背景

聖ソフィア大聖堂は11世紀初頭、キエフ大公国のヤロスラフ賢公が建設を命じた東スラヴ建築の傑作である。ビザンティン様式を基調に、黄金のモザイクやフレスコ画で装飾された内部は当時の東欧文化の結晶とされ、キリスト教東方教会と文化交流の象徴的存在だった。13世紀のモンゴル侵攻、大火、地震などを免れ、長い年月を経て現在に至る。

世界遺産登録と危機遺産リスト入り

1990年、聖ソフィア大聖堂は「キーウの聖ソフィア大聖堂と関連修道院群」の名称でユネスコ世界文化遺産に登録された。しかし2022年の全面侵攻開始以降、戦禍の危険が増し、2023年には「危機遺産リスト」に追加。文化財の保護と修復を求める国際的な支援が呼びかけられ、各国から資金や専門家が派遣された。

被害の概要とウクライナ政府の対応

被弾箇所は外壁の一部と屋根のスレート瓦にとどまったが、爆風で近傍の壁画やステンドグラスにひび割れが生じた可能性が高いと文化省が発表。ゼレンスキー大統領は翌晩のビデオ演説で「文化遺産への攻撃は人類の心への攻撃だ」と非難し、国際司法裁判所への提訴を視野に入れた調査を指示。文化財保護の専門家チームを結成し、被害調査と今後の修復計画策定を急いでいる。

過去の文化財破壊事例との比較

20世紀以降、戦火による文化財破壊は世界各地で繰り返されてきた。シリア・パルミラ遺跡(2015年)、イラク・モスルのニムルドやモスクア・アル=ヌーリ・モスク(2017年)など、意図的な破壊も後を絶たない。聖ソフィア大聖堂の場合は偶発的な爆撃とみられるが、被害の甚大さと世界遺産という性格から、早期の修復と再発防止策が求められる。

修復に向けた技術的・財政的課題

修復にはまず詳細な被害調査が必要で、レーザースキャンやドローン撮影による三次元モデルの作成、非破壊検査技術を駆使して、構造的健全性と表層装飾の損傷度合いを評価する。これらの技術はノートルダム大聖堂火災後やイラク遺跡修復で実用化された実績があるが、継続的な資金確保が最大の障壁となる。ウクライナ政府はG7各国に緊急支援を要請し、ユネスコや国際財団による復旧基金設立が急務だ。

平和と文化財保護の国際的課題

文化財保護は戦後復興の象徴的課題であり、フィレンツェ大聖堂の修復やワルシャワ旧市街再建の成功例に学ぶべき面が多い。戦禍後の再建には地域住民の参画と長期的な文化継承教育が欠かせず、ウクライナでも修復作業を通じた地域コミュニティの再活性化が期待される。また、攻撃の国際法上の違法性を問う動きも、文化遺産の保護に新たな法的焦点をあてる契機となる。

結論:文化遺産の保護は平和の礎

聖ソフィア大聖堂の損傷は、単に物理的建造物の被害にとどまらず、世界共通の歴史的・精神的価値への攻撃といえる。今後、ウクライナと国際社会が一体となり、法的措置と文化財修復を迅速に進めることで、未来世代への歴史継承と平和意識の喚起につなげる必要がある。

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