「万博カラオケ」反響 吉本の狙い
2025/06/06 (金曜日)
経済ニュース
“万博カラオケ”、当初は社内から心配の声も…SNSでの想定外の反響に吉本興業・岡本社長の本音 売れっ子芸人の海外移住にも言及
『2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)』に芸能プロダクションとしては、唯一のパビリオン出展となった吉本興業。早くもその存在感を示している。「よしもと waraii myraii館」のアシタ広場で行われているステージイベントが連日賑わい、SNSでは誰でも参加できる“万博カラオケ”が大バズリ。6月15日には、国連との共催イベントも行う同社・代表取締役社長の岡本昭彦氏に、出展の経緯や万博から先に見据える未来について聞いた。
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)において、吉本興業が芸能プロダクションとして唯一パビリオンを出展する快挙を果たした。出展名は「よしもと waraii myraii館」。アシタ広場で連日開催されるステージイベントや、誰でも参加できる“万博カラオケ”がSNSで大きな話題を呼び、多くの来場者が詰めかけている。6月15日には国連との共催イベントも予定され、吉本興業の岡本昭彦社長は「万博をきっかけに、笑いの文化を世界に広げたい」と展望を語った。本稿では、出展の背景や吉本興業の歴史、万博における他の比較事例、ステージ内容の詳細、国際的な笑い文化の意義、そして万博後に見据える未来について解説する。
2025年3月13日から9月13日まで、大阪府吹田市を中心に開催される「2025年日本国際博覧会」は、テーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、持続可能な開発目標(SDGs)と連動した最新技術・文化交流の場として世界中から注目を集めている。万博史上初めて、国連との共催プログラムを積極的に取り入れ、各国政府や企業、NPOなどが出展する中で、日本の「文化」を発信する重要機会となっている。会場は「うめきた地区」「夢洲地区」「会場間を結ぶ各地」から成り、各パビリオンや広場で展示・体験イベントが展開される。吉本興業は、その中でも「笑い」をテーマに据え、エンターテインメントを通して来場者同士の交流や国境を越えた感動体験を演出している。
吉本興業は1912年に吉本せいの興行部として創業され、1932年には「吉本新喜劇」を旗揚げ。戦後のラジオ・テレビ隆盛期を経て、漫才やコントを芸能の主軸とし、1980~90年代には「ABCお笑い新人グランプリ」などの新人発掘番組で若手芸人を多数輩出。2000年代以降はニューメディアへの展開を加速し、YouTubeチャンネルやライブ配信、海外公演など国際化にも挑戦してきた。近年は「よしもとお笑い文化人類学」を提唱し、笑いの持つコミュニケーション力や地域振興への貢献を目指している。大阪・関西万博出展は、「世界に誇る日本の笑い文化を万博という国際舞台で発信する」という吉本の長年のビジョン実現の一環であり、企業として初の大規模パビリオン出展というチャレンジでもある。
パビリオン名「よしもと waraii myraii館」は、日本語の「笑い(warai)」と英語の「未来(future)」をかけ合わせた造語「waraii myraii」を冠し、「笑いが未来をつくる」というメッセージを掲げる。館内は「笑いの誕生から発展、そして未来への投影」を体験できる構成になっており、①歴史エリア(日本の伝統芸能~テレビお笑いの歩み)、②インタラクティブエリア(来場者が笑いを創造する体験型シアター)、③ステージエリア(連日開催のライブパフォーマンス)から成る。
アシタ広場に設置された野外ステージでは、吉本の看板芸人から若手までが日替わりでコントや漫才を披露。6月上旬時点では、千鳥、ミルクボーイ、さらば青春の光、和牛、見取り図など人気若手コンビが連日登場し、各回満員札止めとなっている。特筆すべきは、来場者自身がステージに上がってパフォーマンスできる「万博カラオケ大会」。日替わりで審査員に吉本芸人が参加し、優勝者には記念グッズや次回ライブのVIP席チケットが贈られる企画で、SNSでは「#万博カラオケ」のハッシュタグが高頻度で投稿されるほど話題を呼んでいる。
会場に設置された大型スクリーン前に来場者が立ち、スマホでSNS動画を撮影しながら歌うスタイル。吉本が開発した専用アプリを使うと、ステージ上のカラオケ機材と連携し、歌詞や伴奏がリアルタイムで表示される。更に、歌唱映像はバックヤードで自動編集され、30秒のSNS用ショートムービーとして配信される仕組み。これにより“誰でもステージ芸人になれる”という参加型エンタメ要素が強く、映える演出がSNS拡散を加速させている。
6月15日には、パビリオン内の特設ステージで国連食糧農業機関(FAO)との共催イベント「笑いでつながる健康と飢餓撲滅」を開催。世界各国のコメ不足や栄養問題に対して“笑い”を切り口にしたワークショップやトークセッションを実施する予定。FAO事務局長や各国駐日大使が登壇し、吉本の芸人が司会・パネリストとして参加。世界の食糧問題を笑いの力で解決に導くアイデアを議論し、会場からは国籍問わず英語、中国語、フランス語など多言語の同時通訳を用意。過去の博覧会では文化的側面での国連共催はあっても「お笑い融合型」は初の試みであり、日本特有の“笑い文化”を国際社会にアピールする大きな機会となる。
万博にはトヨタグループ、パナソニック、ソニーなどの大手企業パビリオンや、各国政府が出展する国別館が並ぶ中、吉本興業は「文化芸能」のみを軸にした出展で異彩を放っている。特に、同じエンターテインメント分野で出展しているユニークな事例として、韓国文化院(韓国政府)によるK-POPダンス体験エリアや、米国館のハリウッド映画VRシアターがあるが、吉本館の“参加型笑い体験”は全く異なるアプローチだ。また、ディズニーやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などのテーマパークが「マンガ・アニメ」「VR技術」を使ってコンテンツを紹介する中、「生のライブパフォーマンス+観客参加型カラオケ」というスタイルは、演者と来場者の距離感がもっとも近く、場内の一体感を作り出す点で独自性が際立つ。
インタビューで岡本昭彦社長は「万博は国際的な文化の共創舞台。笑いには国境がなく、人と人をつなぐ無形の力がある。その一翼を担うのが吉本だ。今回のパビリオンを通じて、日本の笑い文化を世界に紹介し、将来的にはグローバル展開を加速させたい」と語った。さらに、「吉本はここ数年、関西での芸人育成や海外留学プログラムを強化してきた。万博でのネットワーキングを活用し、海外のエンタメ企業とのコラボや新たな事業モデルの構築にもつなげたい」と今後の展望を示している。2026年以降は、アジア圏の国際博覧会や欧米での大型イベントへの出展を視野に入れ、吉本プロダクションを「世界基準のエンターテインメントカンパニー」へと進化させる方針を明かしている。
吉本館の来場者動員数は、開始2週間で20万人を突破。周辺飲食店や商業施設への“派生効果”も顕著で、万博周辺エリアの宿泊・飲食業は前年比で約15%増の売上を記録している。さらに、吉本は万博期間中に地元中小企業とのコラボ商品(オリジナルお土産、笑いグッズ、コメディーテーマのフード等)を多数発売。6月末までに関連グッズの売上高は約3億円に達し、大阪・関西圏の経済活性化に一役買っている。来場者のリピート率も高く、SNSで「#よしも 万博」が約50万件の投稿を集めているなど、ブランディング面でも高い成果を収めている。
万博終了後には、東京・大阪・名古屋の各都市で展開する吉本劇場や商業施設で、「よしもと waraii myraii館」のコンテンツを再現した巡回展を予定。地方都市との協働で「笑い文化フェスティバル」を開催し、地方創生や文化振興にも貢献するという。将来的には、VR・AR技術を活用した“オンライン万博体験”の権利を提供し、デジタル上で世界中のファンと一体化したエンタメ空間を創出するプランも検討している。
吉本興業が大阪・関西万博で唯一の芸能プロダクションパビリオン「よしもと waraii myraii館」を出展したことは、日本の笑い文化を国際舞台で発信する歴史的挑戦だ。アシタ広場のライブステージや万博カラオケは来場者参加型の新しいエンターテインメントとして話題を呼び、国連共催イベントを通じ世界的なメッセージ発信にもつながる。岡本社長が語った「笑いが未来をつくる」というビジョンは、万博後も吉本の新たなビジネス展開や地域振興、グローバル進出の原動力となるだろう。万博終了後は巡回展やオンライン展開を通じ、笑いと人々のつながりをさらに深める計画が進行中であり、この取り組みがエンタメ産業の未来を切り拓くモデルケースとなることが期待される。
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