武尊 パニック障害との闘い語る
2025/06/08 (日曜日)
スポーツニュース
「那須川天心に勝っていたら言えなかった」格闘技界の世紀の一戦で武尊が“負けたから得られたもの”弱さをさらけ出す強さと現役生活への思い
2022年6月19日、東京ドームにて開催された「THE MATCH 2022」は、那須川天心(23)と武尊(30)という日本格闘技界を代表する二大スターの対決として、“世紀の一戦”と呼ばれました。キックボクシングとRISEルールの垣根を越えた異種対決は、50,000人を超える観客を集めただけでなく、テレビ・PPV・SNSを巻き込んで社会現象となりました。結果は那須川天心の判定勝ち。しかし、敗れた武尊が語った「もし勝っていたら言えなかった」という言葉には、敗北を通じて得た深い学びと成長が込められています。本稿では、あの一戦の背景から当日の試合内容、敗戦後に武尊が抱えた葛藤、そしてその先に見出した“新たな強さ”と今後の展望までを、豊富なエピソードとともに解説します。
那須川天心
少年期に空手の全国大会を席巻し、2015年には16歳でプロデビュー。以降、シュートボクシングやRISEで数々の世界王座を獲得し、「神童」と称される。スピードとテクニックを武器に無敗記録を更新し続け、K-1やRISEの枠を超えて“史上最強”の座を目指してきた。
武尊(たける)
K-1 WORLD GPのエースとして2013年に18歳でデビュー。左ミドルを武器に次々とトップランカーを撃破し、K-1スーパー・バンタム級、フェザー級、ライト級と3階級制覇を達成。日本人離れした爆発的なパンチ力と卓越したメンタルを持ち、「格闘技界の生ける伝説」と呼ばれる。
両者はこれまで対戦機会がなかったものの、互いを「最大のライバル」と公言し続け、ファンの期待が高まる中でついに実現したのがTHE MATCHでした。
プロモーションには両陣営のプロモーターが共同で携わり、テレビCMや街頭ビジョン、SNSを駆使して“1か月前”から全世代に向けた盛り上げを図りました。
序盤はお互いの探り合いが続くものの、1R終盤に那須川が左フックで武尊をダウン。以降武尊は気迫のラッシュで反撃を試みるも、那須川は鋭いステップワークで距離をコントロールし、的確にポイントを重ねました。最終ラウンドでは両者一歩も譲らない打ち合いを披露し、観客を熱狂させました。
Round | ダウン回数 | 上がり3Rタイム |
---|---|---|
1R | 那須川1回 | – |
2R | – | – |
3R | 武尊1回 | 2分58秒 |
ジャッジは29–28を3枚、30–28を2枚の那須川支持で判定勝利。判定以上に“接戦”の印象を残し、「勝った那須川」「負けた武尊」両陣営への称賛が飛び交いました。
試合直後、武尊はリング上で「負けた瞬間、引退がよぎった」と吐露しました。一戦に全てを懸けてきたがゆえの喪失感、周囲からの期待、敗北を認めざるを得ない重圧。それらが一気に押し寄せ、精神的に追い込まれたといいます。
「勝っていたら口にできなかった。負けたから言える弱さがある」 — 武尊
その言葉には、自らの弱さを初めて真正面から受け入れた覚悟が込められていました。
敗戦から数か月後、武尊はメディアを通じて二度にわたる鬱発症と度重なるパニック障害を公表しました。それまで“強さ”を前面に出すことで自身を守ってきたが、公表によって同じ悩みを抱える人々とのつながりが生まれたといいます。
弱さをさらけ出したことで、かえって真の強さと信頼を築くことになりました。
武尊は敗北を経て、勝敗以上に大切なのは「再起して挑み続ける意思」と語ります。以下のような変化がありました:
敗北によって得られたこれらの価値観は、武尊をより深化させ、ファイターとしてだけでなく一人の人間としての深みを増す契機となりました。
30代後半にさしかかる武尊は、年内の復帰をめざしながら「焦らずに最良のコンディションで戦いたい」と述べています。また、長期的には後進育成やイベント制作にも意思を示し、自らの経験を次世代に伝える意欲を見せています。
具体的には:
THE MATCHの成功は、プロモーションの在り方や異種対決の枠組みに一石を投じました。一方で「商業性偏重」「選手保護の観点不足」といった課題も浮き彫りに。武尊自身は、「どんな形であれファンに最高の真剣勝負を届けること」が使命と語り、今後も格闘技の発展に寄与する活動を続ける意向です。
「那須川天心に勝っていたら言えなかった」──武尊の言葉は、敗北を通じてしか得られない真実を示しています。弱さをさらけ出すことで、かえって真の強さと新たな価値観を獲得し、ファイターとして、人間として深化を遂げた武尊。今後の復帰戦や次世代育成に向けた動きは、格闘技ファンのみならず、多くの人々に勇気と希望を与え続けることでしょう。
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