「高揚成分」の菓子食べ飛び降り
2025/06/19 (木曜日)
ネットで購入の「高揚する成分」入りクッキー、食べた男子大学生が建物から飛び降り救急搬送
2025年5月、山梨県甲府市内の大学キャンパス近くのビルで、20歳代の男子大学生が「高揚する成分」が入ったクッキーをネットで購入し、食べた直後に異常行動を起こし建物から飛び降りる事件が発生しました。幸い命に別条はなかったものの、打撲や骨折などの重傷を負い、病院に救急搬送されました。山梨県警の薬物検査では違法な成分は検出されなかったといいますが、学生本人や遺族、キャンパス関係者に大きな衝撃と不安を与えました。
被害に遭った大学生は、授業の合間にスマートフォンで「合法 高揚 成分 クッキー」と検索し、通販サイトで数百グラム入りの商品を数千円で購入。届いたクッキーを自室で数枚食べた直後、礼拝堂の2階廊下で急に立ち上がり、「天まで昇るような気分だ」と叫んで窓から飛び降りました。通報を受けた救急隊が駆け付け、近隣病院に搬送。意識はあったものの、大腿骨骨折など複数の骨折で長期入院を余儀なくされました。
今回問題となったクッキーには、「覚醒作用」「高揚感」「気分改善」などを謳う成分が配合されており、健康食品やサプリメントと同様に「合法」として販売されています。しかし、こうした商品は製造元や成分分析が不透明で、実際に何が配合されているか消費者には分かりません。海外製品の並行輸入や個人輸入代行を通じ、法規制の及ばない“グレーゾーン”で流通しているケースが後を絶ちません。
日本では、麻薬や向精神薬などの「指定薬物」は厳しく規制されていますが、合成カフェイン誘導体や一部の植物由来成分などは個別に指定されておらず、合法食品として販売可能です。2024年施行の改正薬機法では、新たに疑わしい合成成分を迅速に指定薬物に追加できる仕組みが導入されましたが、現状では追いつかず、新成分が次々と市場に投入されています。行政の後手に回る規制体制が、消費者の健康被害を拡大させる温床となっています。
高揚をうたう成分入り食品を摂取すると、不安感の増強や幻覚、パニック発作など精神的な症状が現れることがあります。身体的には心拍数の増加、血圧上昇、脱水症状などが報告されており、重篤な場合は意識消失や自傷行為を招く恐れがあります。医療機関では、原因成分が特定できないために適切な処置が遅れるケースもあり、救急科医や精神科医の間では「未知のサプリ症候群」と呼ばれる新たな診断群が問題視されています。
これまでにも「合法ハーブ」と呼ばれる茶葉や粉末状の製品で健康被害が相次ぎ、2014年の指定薬物追加や2019年の一斉回収などの事例がありました。しかし、成分が速やかに指定されず、新たな化合物が後追いで指定対象となる「イタチごっこ」が続いています。消費者庁や厚生労働省はリスク情報をウェブで公開していますが、一般消費者への周知不足が指摘されており、学校や地域での啓発活動も不十分です。
今回の事件は、ネットで簡単に入手できる「高揚する成分」入りのグレーゾーン商品がいかに危険かを示す警鐘です。法規制だけでなく、消費者教育を強化し、販売側の情報公開義務や検査体制の整備を急ぐ必要があります。未知の化学成分による健康被害を防ぎ、安全な消費環境を築くため、行政・事業者・教育機関が一体となった取り組みが求められています。
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