日本郵便の違反点数 基準の2.5倍
2025/06/06 (金曜日)
日本郵便の違反点数、許可取り消し基準の2.5倍 国交省が処分方針
大規模運送事業者で大幅な法違反が確認され、許可取り消しに至るのは極めて異例だ。日本郵便は処分で、約2500台あるトラックやバンが5年間、使えなくなる。
日本郵便では各地の郵便局で、運転手の健康状態などを調べる法定の点呼が適切に行われていないことが発覚。国交省は貨物自動車運送事業法に基づき、トラックやバンなど一般貨物車を扱う郵便局を優先して監査し、対象119局のうち7割にあたる82局を同法違反と認定した。
国交省は、点呼の未実施や虚偽記載など、同法違反の内容や回数などを点数化して処分を決める。関係者によると、今回の監査で、関東運輸局管内の郵便局だけで違反点数が200を超えた。81以上で事業許可取り消しで、同局管内の監査の段階で、日本郵便本社が同法違反で最も重い処分を受けることとなった。点呼問題での処分は初めて。
違反した局では、飲酒の有無を確認していなかったり、点呼をしていないのに実施したかのように記録を偽造したりしていた。
2025年6月、日本郵便が貨物自動車運送事業法(以下「貨物運送法」)に基づく監査で、基準の約2.5倍にあたる違反点数を記録し、事業許可取り消しに相当する重い処分を受けることが明らかになりました。違反が確認されたのは、健康状態や飲酒の確認を含む法定点呼が適切に実施されていない事例で、119か所の郵便局を対象とした監査のうち、約7割にあたる82局で違反が認定されました。とりわけ関東運輸局管内の郵便局では違反点数が200点を超え、許可取り消し基準(81点)の2.5倍以上に達しました。この結果、全国約2500台のトラック・バンは営業停止の見込みとなり、郵便物・物流サービスに大きな影響が出る恐れがあります。以下では、日本郵便の違反発覚の経緯、貨物運送法に基づく点呼義務の意義と歴史、処分基準や点数化の仕組み、今回の事例の影響、今後の対応策などを詳しく解説します。
日本郵便は全国各地に郵便局を設置し、荷物輸送やゆうパック配送など大規模な物流網を展開しています。ところが、2024年後半から各地の監査で、ドライバーの健康状態確認や飲酒検査など法定の点呼(出発前・到着後の確認)が適切に行われていない実態が浮き彫りとなりました。国土交通省は2025年初頭に、貨物運送法に基づいて全国の郵便局のうち、特に一般貨物車を扱う119か所を優先的に監査対象としました。
監査の結果、監査対象119局のうち82局(約7割)で点呼未実施や虚偽記載などが確認されました。例えば「運転手が出発前にアルコール検査を受けていないにもかかわらず、実施したと虚偽で記録していた」「体調不良の運転手を無理に出勤させていた」といった事例が挙がっています。特に関東運輸局管内では違反点数が200点を超え、許可取り消し基準の81点を大きく上回りました。これを受けて、国交省は「法違反が著しく、運送の安全性が確保できない」と判断し、日本郵便本社の事業許可取り消しに相当する処分を科す方針を決定しました。なお、この処分は点呼問題によるもので、過去に例がほとんどなく、郵便事業界に衝撃を与えています。
貨物運送法は、トラック・バンなど貨物自動車を使った運送事業者に対して、安全運転の確保や労働条件の適正化を求める法律です。その中で出発前・到着後の点呼は,ドライバーの健康状態や飲酒などを確認し、事故防止や運行管理を徹底するための最も基本的かつ重要な義務と位置付けられています。
点呼の義務化は1960年代から進められ、1970年代の法改正で強化されました。当時、自動車の普及とともに交通事故や過労運転による労災が社会問題となり、「運転手の健康管理を怠ると重大事故につながる」という認識が広まったからです。出発前の点呼では、ドライバーの体温や血圧、アルコール濃度を測定し、眠気や体調不良、飲酒有無を確認する義務があります。到着後の点呼では、走行距離や疲労状況、異常箇所の報告などを確認し、安全運行記録を作成する必要があります。
これらの点呼を怠ると、ドライバーが飲酒運転や過労運転をしても見逃されやすくなり、重大事故や労災につながるリスクが高まるため、法整備の過程で厳格化が進められてきました。さらに2010年代以降は、ICTを活用した点呼記録システムの導入が推奨され、紙ベースの虚偽記載を防止するための規制強化が行われました。しかし、実際には「点呼を(見える形で)やったことにしておけばよい」という運用が横行し、違反が放置されていたケースが散見されていました。
貨物運送法違反に対する処分は、違反の種類や回数、事業規模などを総合的に評価し、点数化する方法で決められます。違反点数は以下のように区分され、一定の点数を超えると段階的に「指導・改善命令」「事業停止」「事業許可取り消し」といった行政処分が科せられます。
事業許可取り消し基準は「違反点数81点以上」と定められており、今回の関東運輸局管内の監査では、郵便局単体で200点以上の点数が付与されたため、許可取り消しの可能性が高まったものです。違反点数の累積は「過去5年間の違反歴」を対象とし、継続的・組織的に違反を繰り返しているかどうかを重点的に評価します。
これまでは、事業許可取り消しに至るケースは大手貨物運送事業者でも極めてまれで、通常は「改善命令」や「事業停止」の処分で収まることがほとんどでした。ところが日本郵便は全国に約2500台の車両を保有する最大級の大規模事業者であり、その違反内容や回数の多さが通常の倍近くに達したことで、異例の許可取り消し相当の処分に突き進むことになりました。
国交省の監査報告によれば、問題が確認された日本郵便の郵便局では主に以下のような事例が目立ちました。
これらはすべて、ドライバーの安全と一般道路の安全を確保するという貨物運送法の趣旨に反する重大な違反です。特に飲酒検査を怠っていた事例は、飲酒運転による重大事故を招きかねない危険行為として最も重く見られます。また、点呼偽造のような組織的な隠蔽工作は、指導命令や改善命令に従う意思がないとみなされ、厳罰化の要因となりました。
日本郵便は日本の郵便事業を担う国有郵便局が前身であり、2007年の郵政民営化以降も「日本郵便株式会社」として全国に郵便局を展開しています。各郵便局はフランチャイズ形式で運営される店舗も多く、局長や局員が地域の拠点として一般貨物の集配輸送業務も兼務するケースが少なくありません。そのため、法令遵守に対する意識や運行管理体制が過去から十分に整備されてこなかったという課題があります。
特に、日本郵便は全国約25000局を抱え、その中で一般貨物車を扱う郵便局は数百~千局規模に上ります。監査対象となった119局は、いずれも一般貨物を扱う郵便局ですが、同様の違反が全国各地で発覚するおそれがあるため、今回の処分を契機に内部統制の抜本的な改革が求められています。
実際に、過去数年にわたる内部調査では「運行管理者を1名しか配置せず、事務員が兼務していた」「監査・点検のマニュアルが古いままで更新されていなかった」といった問題も明らかになっており、社内コンプライアンスやガバナンスの脆弱性が露呈していました。これらが放置された結果、今回のような法令違反が蔓延し、最終的に行政処分に至ったと見られます。
日本郵便が許可取り消しに相当する処分を受けると、一般貨物車(トラック・バン)約2500台が5年間にわたり営業停止となります。具体的には以下のような影響が懸念されます。
貨物運送法に基づく許可取り消し事例は、これまでは大型トラック運送会社や海運・航空貨物などで極めてまれに発生する程度でした。特に大手物流企業が許可取り消しを受けるケースは稀で、通常は「改善命令」「事業停止命令」でとどまり、廃業や新規参入の抑制につなげる形で運用されてきました。
たとえば、過去に有名な事例としては某大手運送会社がドライバーの過労運転で重大事故を起こし、改善命令を受けた例がありますが、許可取り消しには至っていません。同社は改善命令を受けて運行管理体制を刷新し、数字的には停止期間を回避しています。ところが今回は違反点数が許可取り消し基準を大きく超えたため、異例ともいえる厳罰化が確定的になりました。
近年、社会全体で労働者保護や安全運行の重要性が高まる中、過労運転や飲酒運転への社会的な目も厳しくなっています。運送事業の行政処分は、単なる営業停止ではなく、経営環境全体に大きな打撃を与えるため、「許可取り消し相当」という前例が示されたことで、他の大手事業者もコンプライアンス強化や運行管理の見直しを迫られています。
日本郵便は今回の処分を踏まえ、運行管理体制の全面見直しを余儀なくされます。具体的な対応策として、以下の項目が想定されています。
これらの施策を短期間で実行しない限り、再度厳しい行政処分を受けるリスクが高まります。特にデジタル化による点呼業務の透明化は最優先事項であり、法令違反リスクを根本的に排除するための鍵となります。
日本郵便の事例は、規模の大きい事業者であっても法令遵守が徹底されなければ、社会的信用を大きく失い、業務継続に深刻な支障を来すことを示しています。特に公共性の高いサービスを提供する企業は、安全・安心を守る義務が強く求められます。今回の処分により、以下の点が改めて浮き彫りになりました。
日本郵便が貨物運送法違反により、許可取り消し相当の処分を受ける可能性が高まったことは、物流業界全体に衝撃を与えています。これまで安全運行の基盤である点呼を軽視してきたツケが一挙に顕在化し、その責任の重さを再認識させる事例となりました。今後、以下の点に注目する必要があります。
今回の処分は、日本郵便だけでなく、物流・運送業界全体に対して「安全第一」を改めて突きつける出来事です。法令違反の放置は重大事故や社会的混乱につながるリスクがあり、事業許可の取り消しという最悪のシナリオを招くことを業界全体が教訓とし、コンプライアンス遵守と安全管理体制の再構築に取り組むことが急務です。
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