山手線トラブル 工具選択ミス原因
2025/06/06 (金曜日)
総合ニュース
山手線運転見合わせの原因は「工具の選択ミス」による施工不良 JR東日本
先月、JR山手線で、断線した架線が列車のパンタグラフに当たり一部が曲がったため、長時間、運転を見合わせたトラブルで、JR東日本は6日、施工時の作業員のミスによる架線設備の施工不良が、原因だと明らかにしました。
先月、JR山手線の外回りを走る列車で、パンタグラフの一部が、断線して垂れ下がった架線に当たって曲がっているのが見つかったため山手線は長時間、運転を見合わせました。
これまでに、架線に電流を流す装置と架線の接続が不十分だったため、断線したことがわかっていましたが6日、JR東日本は、施工時の作業員のミスによる、施工不良が原因だと明らかにしました。
JR東日本によりますと、委託先の会社の作業員が、施工時に使用する工具の種類を間違ったため、金具と架線の接続部が十分に圧縮できていなかったということです。
JR東日本は、トラブル後、山手線や京浜東北線などの同様の接続部50か所を、緊急点検しましたが、不具合は確認されなかったということです。
記事に関する報告
2025年5月、JR東日本の山手線外回りで、断線した架線が走行中の列車のパンタグラフに当たって一部が曲がるトラブルが発生し、約2時間にわたり運転見合わせとなりました。原因は、施工時に作業員が使用する工具の種類を誤り、架線を支える金具と架線本体の接続部が十分に圧縮されず、接触抵抗が大きくなって電流が流れづらくなったことによる架線の断線でした。JR東日本は同様の工事が行われたその他の接続部50カ所を緊急点検し、不具合は確認されないとして安全確認を完了したと発表しています。
山手線は、東京23区の都心部をほぼ円形に結ぶ全長約34.5kmの環状路線であり、年間利用者数は数億人に及ぶ日本最大の通勤・通学路線です。東京都心の主要駅(東京・有楽町・新橋・品川・渋谷・新宿・池袋など)を結び、他路線や新幹線との乗り換え需要も高く、平日のラッシュ時には1回あたり約3分間隔の運行を行っています。通勤・通学だけでなく観光客の移動手段としても欠かせず、交通インフラとしての安定性・信頼性が強く求められます。したがって、わずかなトラブルでもすぐに運転を見合わせると首都圏全体に大きな混乱をもたらします。
実際、過去にも沿線の設備故障や人身事故などで部分的な運転見合わせが発生していますが、今回のような架線断線によるパンタグラフ破損トラブルは稀です。山手線は高頻度運行を行うため通常は短時間で復旧しますが、今回のように夜間の点検でも発生を見逃すほどの微妙な施工不良が潜んでいる事例は、保守体制の見直しを迫る警鐘となりました。
電車は架線(架空電車線)からパンタグラフを介して電力を受け、電動機を回して走行します。架線は鋼線を電線で覆った構造で、一定区間を支柱やトラス構造物に掛け渡し張力を保ちつつ、電気を流す仕組みです。パンタグラフは車上で伸縮する金属製機構で、架線に確実に接触しながら電気を集電するよう設計されています。
架線と金具、支持金具との接続部には電流の流れる端子やクランプ金具が用いられます。工事時には専用工具を用いてクランプを所定の圧力で圧縮し、架線が確実に保持されるよう締め付ける必要があります。適切な圧着が行われないと、電気抵抗が増大して局所的な過熱が生じ、最終的には架線断線に至ることがあります。断線した架線が垂れ下がるとパンタグラフに引っかかり、変形や破損を引き起こすため、安全運行ができなくなります。
2025年5月下旬、山手線外回り電車のパンタグラフの一部が曲がっているのが発見され、当該線区は運転見合わせとなりました。JR東日本は当初、断線原因として「架線に電流を流す装置と架線本体の接続部の締め付けが不十分で、接続抵抗が大きくなったため、局所的に架線が発熱して断線した可能性が高い」と発表していました。その後、断線箇所の詳細な調査の結果、施工時に使用する工具の選択ミスが判明しました。
委託先の会社の作業員が、圧着(圧縮)用の工具として使用すべき専用圧着工具ではなく、似た形状ながら適切な圧力が得られない汎用工具を使用してしまい、金具と架線の接続部が十分に圧着されていなかったのです。そのため、架線が電流を適切に受け渡せず、クランプ部に電流が集中。絶縁部分が加熱し、数日後に架線そのものが断線しました。結果として断線個所の下を通過した電車のパンタグラフが垂れ下がった架線にぶつかり、パンタグラフが変形・破損し、安全上運転を継続できなくなったという流れです。
今回の施工不良は、作業手順書やマニュアル上は「専用圧着工具を使用する」ことが明記されていたにもかかわらず、現場の作業員が誤った工具を使ってしまった点が最大の要因です。背景には以下のような事情が考えられます。
JR東日本は、今後同様の事故を防ぐため、委託先業者に対して工具の管理・貸与状況の報告義務を強化するとともに、現場監督者による毎日のツールチェックを義務づける方針を示しています。また、施工後の架線締結部については外観確認だけでなく、圧着力を定量的に測定する検査機器を導入し、施工品質の確保を図る考えです。
架線断線トラブルは過去にも発生しており、特に施工や点検の手順ミスが引き金となる例が報告されています。以下では、代表的な事例をいくつか挙げて解説します。
2018年秋、京浜東北線沿線で架線が断線し、数時間にわたる運転見合わせが発生しました。原因は、架線を吊るワイヤーを固定する金具が緩んでいたことで、架線が大きくたわみ、パンタグラフと干渉して断線した点でした。この金具の緩みは、施工直後の締め付け不良と定期点検時の締め付け確認不足が重なったためであり、「施工時に一度正しく止めたら終わりではなく、定期的にトルクを測定して確認する」ことが重要とされました。
2020年冬、東海道線のトンネル内で架線が断線し、パンタグラフが破損する事故が発生。原因は老朽化した架線と金具が腐食で劣化し、過去の補修工事で使用された部品に互換性不良があったためでした。保守作業担当部署が「互換部品は同一規格だから問題ない」と誤認した結果、強度不足の部品が使われ、長年月で疲労破断に至りました。この事例は「部品選定時にカタログスペックだけで判断せず、現場環境を考慮した検証が必要」という教訓を残しました。
2023年5月、九州新幹線で架線のスペーサー部品が外れ、架線同士が接触して断線する事故が発生しました。これは新幹線特有の高スピード走行に耐えうるよう架線張力を高めた結果、スペーサー部品に想定以上の力がかかり、金属疲労で破損したためでした。ここでは「高張力環境下の部品寿命評価」が甘かったことが問題視され、「実際の張力・振動環境を再現した評価試験の実施」が対策として講じられました。
今回のような施工不良を防ぐためには、「作業員教育の徹底」「適切な補修・点検機器の導入」「現場管理の強化」が欠かせません。具体的な取り組み例は以下のとおりです。
今回の事故を受けてJR東日本は、以下のような具体的な再発防止策を打ち出しました。
今回のトラブルで山手線が2時間近く運転見合わせとなったことで、都心の通勤・通学ダイヤに大きな影響が出ました。夜間にもかかわらず利用客は振替輸送に殺到し、品川~新宿間の京浜東北線や中央快速線などでも混雑が発生しました。翌日以降、山手線沿線の各駅には謝罪文と沿線図を掲示し、「迂回ルートのご案内」「今後の対応状況」を掲示しましたが、利用者からは「構内アナウンスが遅い」「代替輸送の情報が分かりにくい」といった声も上がり、JR東日本にはダイヤ復旧後の利用者フォロー強化が求められました。
今後、JR東日本は架線設備の老朽化や高負荷運転による影響も注意しながら、保守体制の改善を急ぐ必要があります。また、工具の選択ミスや点検漏れといったヒューマンエラーをいかに防ぐかが今後の大きな課題となるでしょう。デジタル技術を活用した品質管理や遠隔監視システムの導入は、今後ますます重要性を増すと考えられます。
さらに、利用者に対しては運行トラブル発生時の情報提供の迅速化や振替輸送の利便性向上が求められ、JR東日本と都営地下鉄や東京メトロなど他事業者との連携強化が不可欠です。山手線は首都圏の大動脈であり、今回のような施工不良での運転見合わせを二度と起こさぬためには、技術面だけでなく組織全体で安全文化を醸成していく取り組みが肝要です。
山手線で発生した架線断線トラブルは、施工時に工具を誤って使用した作業員のミスによる品質管理の甘さが原因でした。山手線という極めて重要な路線でのトラブルは、単なる一時的な運行見合わせにとどまらず、首都圏の鉄道ネットワーク全体に大きな影響を与えます。今後は、工具管理や作業員教育、デジタルツールによるチェック体制などを強化し、再発防止策を徹底することが不可欠です。また、利用者への情報提供や代替輸送の利便性向上を図り、安全性と信頼性を確保するために、JR東日本と関係事業者が一体となって取り組む必要があります。今回の事例から得られる教訓を次世代の保守・点検体制に反映させることで、山手線をはじめとする鉄道インフラの安全・安定運行を末永く実現していくことが期待されます。
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