中国の推し活 ファンの過熱行動
2025/06/28 (土曜日)
総合ニュース
地下アイドルが浸透する中国ではファンによる「推し活」も盛んだ。小規模なライブハウスや劇場で活動する地下アイドルは直接交流する機会が多く、ファンを魅了。過熱したファンがアイドルを中傷したり個人情報を暴
中国でも日本発の「地下アイドル」文化が浸透し、北京や上海など大都市のみならず、地方都市の小規模ライブハウスや市民劇場でも多くのアイドルグループが活動を展開している。観客との距離が近く、直接会話や写真撮影ができる形態が若者を中心に支持され、「推し活」(お気に入りのアイドルを応援する活動)として定着しつつある。
中国で地下アイドルが注目を集め始めたのは2015年前後で、SNSプラットフォームの成長に伴い、小規模グループが動画配信やライブコマースでファンを獲得したのが契機となった。当初は数人程度のメンバーで構成されるセルフプロデュース型が主流だったが、2018年以降は事務所プロデュースの「偶像養成所」モデルも参入。特に湖南省長沙市の「透明教室とパラレルガール」などは、毎週のライブに加え、月1回のファン交流イベントで安定的に動員を伸ばしている(埼玉新聞):contentReference[oaicite:0]{index=0}。
推し活はアイドルへの投げ銭、グッズ購入、イベント参加だけでなく、SNSでの拡散や個人企画のファンアート投稿など多岐にわたる。ファンのコミュニティはWeibo(微博)やDouyin(抖音)などのプラットフォーム上で形成され、メンバーの誕生日にはオンラインでの祝福活動や、応援広告の掲出が行われるのが一般的だ(新潟日報):contentReference[oaicite:1]{index=1}。
一方で、熱量が高すぎるファンがアイドルをめぐるSNS上の対立を煽り、相手陣営のメンバーを中傷したり、アイドル本人や事務所スタッフの個人情報をネット上に暴露するケースも表面化している。特にライブチケット転売を巡るトラブルや、過去のスキャンダルを掘り起こして嫌がらせを行う「アンチ活動」が社会問題化しつつあり、アイドル側からプライバシー侵害の損害賠償請求が提起される例も出てきた。
中国当局は2023年の「未成年保護法」改正で、夜間の未成年者の動画視聴制限や個人情報保護強化を打ち出したが、アイドルファンコミュニティへの直接的な規制は後手に回っている。WeiboやDouyinは自主的に「アンチ行為」や「悪質コメント」の通報機能を強化し、検閲アルゴリズムで嫌がらせ投稿を削除する体制を整備中だ。また、Fan Ticket(公式ファンチケット)制度の導入により、転売規制と本人確認を厳格化する試みも進められている。
小規模ライブでは握手会やチェキ撮影など、アイドルと1対1で話せる機会が多く、「感謝された」「目を見て励まされた」との体験がファンのロイヤルティを高めている。しかし同時に、アイドル側の精神的負荷も増大。運営事務所やメンタルケア専門家は、過度なプレッシャーやプライベート空間の侵害から守るため、スタッフによる入退場管理やSNS上の本人アカウント運用の支援を導入し始めている。
ライブ会場のある地区では、飲食店やカフェとコラボした「推し活プラン」、周辺ホテルの「応援宿泊セット」など、地域経済を巻き込んだビジネスモデルが広がる。一部地方都市では、アイドル文化を核とする観光プロモーションが成功し、若年層の消費を喚起している例もある。ただし、一過性のブームに終わらないためには、行政と商店街が連携し、文化イベントとしての質を担保する必要がある。
日本の地下アイドル文化はAKB48以降の「会いに行けるアイドル」が起源とされ、中国ではより双方向的コミュニケーションが重視される傾向にある。音楽プロデューサーの陳さん(北京在住)は「日本はアイドル産業の成熟度が高いが、中国はSNSとライブが直結しやすい土壌がある」と指摘。また、韓国K-POPとの差別化を図るため、中国発の地下アイドルグループが東南アジア進出を試みる動きも見られる。
中国で地下アイドルと推し活文化が拡大する背景には、SNSプラットフォームの普及とライブ会場の多様化がある。一方で、ファンの過熱した中傷行為や個人情報の暴露など、プライバシー侵害と精神的負荷の問題が顕在化している。プラットフォーム運営企業は自主的なモデレーション強化や法令遵守を求められ、アイドル事務所はメンタルケア体制と運営ノウハウを蓄積する必要がある。行政は未成年者保護や個人情報保護の観点から規制を検討しつつ、文化産業振興のバランスを取ることが求められる。今後は、日本や韓国のアイドル産業との連携を深めながら、東南アジア市場を視野に入れた国際展開を進め、サステナブルなエンタメ文化として確立していくことが次の課題と言える。
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