大川原冤罪 国と都が上告断念検討
2025/06/07 (土曜日)
「大川原化工機」(横浜市)への違法捜査を東京高裁判決で認定された東京都(警視庁)と国(東京地検)が、最高裁への上告を断念する方向で検討を始めた。上告理由が見いだせないなどと判断したとみられる。
「大川原化工機」(横浜市)への違法捜査を東京高裁判決で認定された東京都(警視庁)と国(東京地検)が、最高裁への上告を断念する方向で検討を始めた。上告理由が見いだせないなどと判断したとみられる。複数の関係者への取材でわかった。
上告の期限は11日。上告をしなければ、計約1億6600万円の賠償を都と国に命じた判決が確定する。
大川原化工機の社長ら3人は2020年、軍事転用可能な噴霧乾燥機を許可なく輸出したとして、外国為替及び外国貿易法違反の疑いで逮捕・起訴された。だが、地検は初公判直前の21年、許可が不要だった可能性があるとして起訴を取り消した。
高裁は5月28日の判決で、地裁に続き、一連の捜査の違法性を全面的に認めた。公安部や東京地検が社長らの説明を踏まえて追加実験をしていれば、不正輸出ではなかったと判断できたと認定。さらに、「不正輸出」の判断基準として公安部がつくった独自解釈の妥当性も否定し、逮捕や起訴に「合理的な根拠を欠いていた」と結論づけていた。
東京都と国(東京地検)が「大川原化工機」事件をめぐる最高裁への上告を断念する方向で検討を始めた。上告期限の6月11日までに上告しなければ、東京高裁が5月28日に命じた都と国への約1億6600万円の賠償判決が確定する。事件は、同社社長ら3人が噴霧乾燥機の「無許可輸出」の疑いで逮捕・起訴されたものの、地検が起訴直前に取り消し、地裁・高裁で一連の捜査が違法と認定された冤罪裁判である。
大川原化工機は横浜市を拠点とする化学機器メーカー。2020年、同社製噴霧乾燥機が「軍事転用可能」として外国為替及び外国貿易法違反(無許可輸出)の疑いで社長ら3人が逮捕・起訴された。しかし、同機には滅菌・殺菌機能がない可能性が高く、逮捕後の取調べで社長らがその機能の欠如を説明できたことから、東京地検は初公判直前の2021年7月に起訴を取り消した。
2023年12月、東京地裁は「公安部や地検が社長らの説明を踏まえた追加検証を怠り、法的根拠を欠くまま逮捕・起訴した」として、都と国に約1億6000万円の賠償を命じた。具体的には、社長らの説明にもとづく外部専門家の意見聴取や実機実験を行えば規制対象外と判断できたにもかかわらず、捜査機関が恣意的に独自基準を適用し、虚偽の調書を作成していた点が問題視された。
高裁は地裁判決を支持し、以下を確認した。
これらを総合し「逮捕・取調べ・起訴はいずれも違法」と断じ、約1億6600万円の賠償を確定させた。
同法では「軍事転用可能な機器」の輸出に許可が必要と定めるが、「滅菌・殺菌機能の有無」が規制要件の焦点となる。本件では社長らの説明で「機能なし」と断定できたにもかかわらず、公安部は省令趣旨を拡大解釈し「研究用にも転用可能」と独自基準を適用。裁判所は「法文の厳格解釈を怠った」として、捜査の法解釈ミスを根本的な問題と認定した。
日本の裁判所が捜査行為を「違法」と認定するには、以下の要件が必要とされる。
本件ではこれらすべてが認められ、「公安部・地検が注意義務を怠り、恣意的捜査を行った」と断罪された。
過去の代表的な事例として次のものがある。
いずれも「捜査機関の法解釈ミス」や「手続きの恣意的運用」が原因であり、本件も同様の構図である。
警視庁と地検は「上告理由が見いだせず、最高裁審理では覆す可能性が低い」と判断し、上告を見送る方針。上告しなければ賠償判決は6月11日付けで確定し、国と都の支払い責任が法的に確定する。これにより、捜査機関は初めて産業安全保障分野の規制事件で大規模な賠償責任を負う例となる。
本件を契機に、捜査手続きの透明化と厳格化が求められる。
これら施策により、権力濫用の抑止と被疑者の権利保護を両立させることが急務である。
冤罪事件の賠償命令確定は、日本の司法・捜査制度全体に対する信頼回復の重要な転機となる。捜査機関は市民からの信頼に応えるため、透明で適正な手続運用を示し続けなければならない。また、企業側は規制対応のための法令チェック体制や専門家意見の積極的活用を強化し、不当な捜査被害を防ぐ努力が求められる。
「大川原化工機」事件は、捜査機関の法解釈ミスと手続き運用の甘さが招いた代表的な冤罪事案である。東京高裁判決の確定を機に、捜査手続きの透明化、取調べの適正管理、法解釈の外部監視といった抜本的改革が必要となる。国と都の賠償責任確定後は、司法・市民・企業が連携して制度改善を進め、同様の悲劇を二度と起こさない体制構築が急務である。
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