米大統領「マスク氏正気失った」
2025/06/07 (土曜日)
総合ニュース
【ワシントン共同】トランプ米大統領は6日、ABCテレビの電話インタビューで、政権の目玉法案を巡って対立した実業家マスク氏を「正気を失った男」と呼び、早期の関係修復に否定的な見解を示した。蜜月を演出してきた米大統領と世界有数の大富豪の確執に注目が集まる。
トランプ氏は、マスク氏と電話で関係修復を模索する可能性があるとの報道を巡り、対話に「興味はない」とした。
マスク氏の企業と米政府は軍事や宇宙などの分野で巨額の契約を結んでおり、関係悪化の影響は多方面に波及しそうだ。
昨年の大統領選で多額の献金を通じてトランプ氏の返り咲きを支えたマスク氏は、第2次政権発足後は要職を任された。
連邦政府の縮小などを強引な手法で進めたことに政権内外で批判が出ても、トランプ氏は擁護。マスク氏が最高経営責任者を務める電気自動車大手テスラが不買運動に直面した際には、トランプ氏が車を購入し、話題もつくった。
だがマスク氏が、大規模減税の延長を柱とする政権の法案を批判したことを契機に、2人の関係は悪化。マスク氏は5月下旬に政権を離れた。
2025年6月6日、トランプ米大統領はABCテレビの電話インタビューで、これまで“蜜月関係”を演出してきた実業家イーロン・マスク氏について「正気を失った男」と厳しく非難し、関係修復には興味がないとの見解を示した。マスク氏は昨年の大統領選で多額の献金を通じトランプ氏を支援し、第2次政権発足後には政府の要職も務めたが、減税法案を批判したことをきっかけに両者の確執が表面化した。マスク氏が率いるテスラやスペースXは米政府との契約が多岐にわたり、両者の関係悪化は軍事宇宙開発やEV市場にも波紋を呼ぶ可能性がある。
イーロン・マスク氏は2020年大統領選に際し、SNS上でトランプ陣営を支持する発言を繰り返し、多額の献金も行った。トランプ氏は勝利後、マスク氏を「政府効率化部門」の座に任命し、連邦政府の“無駄削減”や宇宙政策策定に助言を求めた。また、テスラ車が一部で不買運動に直面した際には、トランプ氏自身がテスラ車を購入して話題づくりを図るなど、両者は公私にわたって緊密な関係を築いていた。
政府とマスク氏の企業が結ぶ契約は、スペースXの有人月飛行計画や、テスラへの連邦クレジット交付、自動運転技術実証実験のための公道利用許可など多岐にわたり、両者の「Win‐Win」関係はメディアでも繰り返し賞賛された。
転機となったのは、トランプ政権の目玉である大規模減税法案をマスク氏がSNSで批判したことだ。マスク氏は、法人税率のさらなる引き下げが「富裕層と大企業にだけ利益を偏らせる」として、政府の政策運営を鋭く批判。これに対しトランプ氏は「恩知らず」「正気を失った」と強い言葉で反論し、両者の対立構造は決定的となった。
マスク氏が政権の延長を批判したことで、大統領は同氏の企業に対する政府補助金や契約の見直しを示唆。これにより、市場ではテスラ株価が急落し、一時18%超の下落を記録、時価総額で20兆円超が吹き飛ぶ騒動に発展した。
両者の関係悪化が波及する分野は多い。スペースXはNASAや国防総省からの巨額ミッションを手がけており、両者のギクシャクは宇宙開発スケジュールに影響する可能性がある。また、テスラは電気自動車市場のリーダーとして国内工場の拡張計画を進めており、政府の補助金プログラムから外される懸念も指摘されている。
さらに、米中競争激化の中、マスク氏の企業が中国で展開する電池・自動運転事業にも注目が集まる。トランプ氏が中国に対して「経済的な威圧」を強める政策を進める一方で、マスク氏は中国市場の重要性を繰り返し強調し、両者のスタンスは真逆の構図を描いている。
大統領と大企業経営者の“蜜月→確執”は過去にも見られた。ロナルド・レーガン政権では、コンピュータ企業IBMのルパート・マードック氏が政府情報システム入札に絡む発言で関係が悪化し、一時入札から排除される騒動が起きた。また、ビル・クリントン政権下ではマイクロソフト社長ビル・ゲイツ氏への独占禁止法調査が行われ、ゲイツ氏は「政府による過度な介入」と批判した。このように、政権と産業界リーダーとの間には対立と協調が繰り返されてきた。
トランプ氏が「関係修復に興味はない」と公言したことで、両者の対立はしばらく続く見通しだ。今後注目されるポイントは以下の通り。
トランプ大統領とイーロン・マスク氏の確執は、単なる“個人間のもつれ”を超え、国家安全保障や宇宙政策、未来のエネルギー市場を揺るがす重大な政治経済事案となっている。両者の対立がどこまで深刻化するかは、2025年後半から2028年の大統領選に向けた米国内の政治動向と密接に絡む見通しだ。今後も両者の発言や政策動向がウォッチされることになるだろう。
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