iPS細胞からあごの骨を再現 研究

iPS細胞からあごの骨を再現 研究

2025/07/03 (木曜日)

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世界初!ヒトiPS細胞から顎骨オルガノイドを作成「ミニチュアの臓器」何がすごいのか

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世界初!ヒトiPS細胞由来顎骨オルガノイドの意義と展望

2025年7月2日、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の池谷真准教授らのチームは、世界で初めてヒトiPS細胞から「顎骨オルガノイド」を作製することに成功したと発表した。顎骨は顔面骨の中でも特殊で、中胚葉由来ではなく神経堤細胞由来の外胚葉性間葉細胞を介して膜内骨化により形成される。本研究では、ヒトiPS細胞からまずHOX遺伝子を発現しない神経堤細胞を誘導し(図1)、これを第1咽頭弓のmdEM細胞へと分化させることで、顎骨の三次元構造を模したオルガノイドを構築した。

1. 顎骨オルガノイド作製の技術的工夫

  • ヒトiPS細胞を立体凝集体化して神経堤細胞を高効率に誘導。
  • 神経堤細胞をmdEM細胞へと分化させ、膜内骨化プロセスを再現。
  • オルガノイド培養は動物由来成分不使用の完全化学合成培地で実施。

この手法により作製された顎骨オルガノイドは、マトリックス中で石灰化が進み、骨芽細胞・破骨細胞・骨細胞の三主要細胞型を含有する成熟骨組織に発展することを示した。さらに、マウスへの移植実験では、オルガノイド内にホスト由来の血管が侵入し、生体内で骨組織として機能することを確認している。

2. 骨形成不全症モデルへの応用

希少疾患である骨形成不全症(Osteogenesis Imperfecta, OI)患者由来iPS細胞から同様に顎骨オルガノイドを作製。OIモデルではオルガノイド内の骨組織が未成熟かつ脆弱であることを再現し、疾患病態モデルとして有用性を実証した。CRISPR/Cas9によるコラーゲン遺伝子変異修復後には正常な骨オルガノイドが得られ、創薬スクリーニングや遺伝子治療評価のプラットフォームとなる可能性が示された。

3. 顎骨オルガノイドの意義と他研究との比較

  • 従来技術との違い:多能性幹細胞から膜内骨化を再現したオルガノイドは世界初。これまでの骨オルガノイドは中胚葉起源の長管骨モデルが中心だった。
  • 類似例:肝臓・腸管・脳などの内胚葉・神経外胚葉オルガノイド研究は進むが、骨オルガノイドは極めて難易度が高く、本成果は骨再生医療分野のブレークスルーと言える。
  • 他国の動向:米国ハーバード大学などではMSC(間葉系幹細胞)を用いた骨チップ/小島移植モデルがあるが、本研究のiPSベース三次元モデルはヒト疾患モデリングに優れる。

4. 再生医療・創薬への展望

顎骨オルガノイドは、以下の応用が期待される:

  1. 生体外での顎骨再生治療用移植片の作製プラットフォーム
  2. 骨形成不全症や顎骨骨髄炎など疾患モデルによる創薬スクリーニング
  3. iPS細胞を用いた個別化医療でのオーダーメイド治療法開発
  4. 医学生・歯科学生向けの教育用三次元骨組織モデル

5. 技術的・倫理的課題

臨床応用に向けては、以下の課題解決が必要である:

  • オルガノイドの大型化と十分な血管化促進技術の確立
  • 長期安全性(腫瘍化リスク等)の評価
  • 製造プロセスのGMP対応とスケールアップ
  • iPS細胞系統ごとの品質・機能の一貫性担保
  • 倫理的ガイドライン整備(胚性・組織工学の境界線議論)

まとめ

ヒトiPS細胞から顎骨オルガノイドを作製した本研究は、膜内骨化を初めて三次元再現し、顎骨疾患モデルおよび再生医療応用の新たな道を切り拓いた。従来骨オルガノイド研究が内胚葉・中胚葉系組織に限られていた中で、本成果は外胚葉系由来組織のオルガノイド化に成功した世界初の例であり、今後の創薬・再生医療・個別化医療に大きなインパクトを与えるだろう。

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