副市長逮捕から4年 傷痕残るまち
2025/06/09 (月曜日)
総合ニュース
「警察がなんもかんもめちゃくちゃにした」まとまらない入札…不調不落、事件後9倍
【連載】3度逮捕された副市長 官製談合だったのか(下)
宮崎県日南市の中心部から車で20分。山間部にある酒谷地区では、昨年10月の台風で市道が約9メートルにわたって崩れた。えぐれた斜面に土のうを積み、鉄板をかぶせた“応急処置”のまま、半年がたった。
「警察がなんもかんもめちゃくちゃにした」と副市長が嘆いた官製談合疑惑の背景には、入札の不調・不落が急増し、適正な公共工事が遅延・中止される事態が続いていることがあります。宮崎県日南市の山間部・酒谷地区では、昨年10月の台風によって市道が約9メートルにわたって崩落しましたが、半年以上経過した今も応急処置のまま放置され、市民生活への影響も深刻です。この記事では、日南市入札問題の経緯、官製談合とは何か、過去の類似事件、法制度および不調不落が激増した原因、地域社会への影響、今後の再発防止策について詳しく解説します。
台風襲来により道路が大規模に崩れたのは2024年10月下旬。斜面がえぐられた部分には土嚢を積み、鉄板をかぶせる応急対策が即座に講じられました。しかし、本格的な改修工事の入札は招請後に数度の不調不落を繰り返し、発注の見込みが立たず。雨季を迎えて崩落箇所はさらに広がり、通学路や農作業道路として利用してきた地域住民からは「命綱となる道が放置されている」と怒りの声が上がっています。
公共工事の発注方式には「競争入札」と「随意契約」があります。競争入札であっても入札参加者が最低制限価格を下回る価格を提示しない、あるいは参加がそもそもゼロ件である場合を「不調不落」と呼びます。日南市では2024年度に入札公告件数の約3割で不調不落が発生し、前年の3倍近い件数となりました。再入札を繰り返すことで契約延期・コスト増大が避けられず、地方自治体の財政にも圧迫が生じています。
官製談合とは、発注官庁と特定の業者が事前に落札価格や受注者を密約し、競争入札を見せかける不正行為です。これにより、工事価格が不当に引き上げられたり、品質が低い業者に発注されたりする危険があります。日南市では、副市長らが警察による捜査段階で「談合を裏付けるメモ」を押収されたとの情報もあり、警察と行政の連携が混乱を招いたともいわれています。
日本全国では1990年代以降、地方自治体の公共工事入札を巡る談合事件が相次ぎました。2002年の「大林組」や「鹿島建設」など大手ゼネコンを巻き込んだ国土交通省管内の大規模談合事件では、総額数千億円規模の不正が摘発され、自治体首長の逮捕も起きました。地方では小規模業者同士の談合、あるいは「顔見知り業者」が談合組織を形成する事例も多く、公契約条例の制定や電子入札システムの導入が進められましたが、日南市のように依然として不調不落を招く要因が残っています。
酒谷地区では、生活道路を利用する数十世帯の通学・通勤、農作物出荷が滞り、観光客も減少。観光資源となっていた渓流釣りや林道ツーリングに支障をきたしています。「舗装すらされないまま半年、いつ直してくれるのか」「命に関わるのに予算だけ使い古しの応急でお茶を濁すのは許せない」と住民の不満は爆発寸前です。
国は公契約適正化法を改正し、入札参加者の審査強化や談合防止のための電子入札義務化を進めています。2015年には地方自治体向けに「公契約条例モデル」が公表され、透明性確保、価格評価、品質確保の三本柱が示されました。しかし条例制定は任意であり、実効性の担保には至っていません。日南市は2025年4月にようやく公契約条例を検討開始しましたが、施行には半年以上かかる見込みです。
日南市はまず、積算価格の見直しと電子入札システムの早期導入が急務です。併せて、地元の中小建設業者向けに入札手続きや法令遵守の研修を実施し、参加促進策を講じる必要があります。また、公契約条例の制定に向け、住民参加型のワークショップを開催し、行政透明性を高めることも求められます。警察の捜査は必要ですが、行政との連携方法を再構築し、「捜査の萎縮」と「入札停滞」を同時に防ぐ仕組みづくりが不可欠です。
「官製談合だったのか」と疑念が渦巻く日南市の入札不調不落問題は、地方自治体が直面する公共事業の根幹を揺るがす危機です。過去の教訓を生かし、価格適正化、透明性向上、電子化推進、住民参加の4つの施策を迅速に実行することで、公共インフラの安全と住民の信頼回復が期待されます。半年以上放置された酒谷地区の崩落個所が本格改修される日は、行政と地域が共に歩む新たなスタートとなるでしょう。
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