水泳授業 中止や委託が進む背景
2025/06/09 (月曜日)
総合ニュース
なかのかおりジャーナリスト、早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員6/9(月) 7:01(写真:イメージマート)学校の水泳授業が始まる時期だ。近年では、温暖化により気温が高すぎて水泳授業が中止になったり、学校のプール施設の老朽化等の影響で、水泳授業のあり方も変わっている。
暑くなると、水難事故の報道が増える。保護者が「子どもが水に慣れ、ある程度は泳げるようになってほしい」と望んでも、学校に期待し
6月に入り、多くの小中学校で水泳授業が始まる時期を迎えました。かつては夏の風物詩とも言えたこの授業ですが、近年は気候変動による酷暑の影響やプール施設の老朽化により、中止や実施方法の見直しが相次いでいます。保護者からは「子どもが水に慣れ、泳力を身につけてほしい」という期待が大きい一方で、安全確保の難しさや施設維持の課題が浮き彫りになっています。
日本の学校で水泳授業が本格的に導入されたのは戦後まもない1950年代。当時は体力向上と衛生観念の育成を目的に、各地でプールが整備されました。1960~70年代の経済成長期には、学校プールは児童生徒の必須学習施設として位置づけられ、学習指導要領にも明記されました。
近年の日本では猛暑日が年間数十日を超える地域が増加し、気温40℃近い日も珍しくありません。高温状態での屋外授業は熱中症リスクが高まりやすく、水泳授業中の児童生徒の健康管理が大きな課題となっています。文部科学省は「気温35℃以上で中止」「WBGT値(暑さ指数)に応じた実施判断」を学校に求めていますが、判断基準の運用には自治体ごとのばらつきがあります。
全国の公立学校プールの多くは建築後30年以上が経過し、漏水や塗装の剥離、循環ポンプの故障など、施設劣化が深刻です。老朽化対策には大規模改修や更新費用が必要ですが、地方財政の厳しさから優先度が下がり、結果的に休止や廃止に追い込まれるケースも散見されます。
夏になると全国で児童生徒の水難事故が報じられます。レジャー中や河川・海辺での事故が多いものの、学校プール内でも監視の不備や体調不良による事故が発生しています。内閣府によると、子どもの水難死亡事故の約3割が遊泳時、2割がプールで起きており、指導者の配置やAED設置、水質管理など多面的な対策が求められています。
水泳は全身運動としての有用性に加え、遭難時の自己救助力を養う点でも重要です。また、協調性や自己管理能力を育む教育機会としても評価されています。コロナ禍で自粛が続いた期間を経て、改めて安全な形での水泳教育再開が期待されています。
東京都内の一部区では、屋内温水プールを夜間開放し、空調管理が整った環境で授業を行う取り組みを開始。自治体と連携してプール施設を地域開放し、学校以外の時間帯にも利用を促すことで維持管理費の捻出につなげています。また、オンライン教材を活用した事前学習で技術理解を深め、プール内での指導時間を効率化する工夫も広がっています。
水泳授業の持続には、施設改修費用の確保と安全基準の統一的運用が不可欠です。政府・地方自治体は予算措置の拡充とともに、防災教育や健康教育と統合した水泳授業のあり方を見直す必要があります。併せて、指導者研修や保護者向けの安全マニュアル配布など、関係者全体でリスクを共有し、安心して学べる環境整備を進めることが求められます。
水泳授業は日本の学校教育における重要な一環ですが、気候変動や施設老朽化という新たな課題に直面しています。子どもたちの健康と安全を最優先に考えつつ、水泳技能の習得と水難防止教育を両立させるための不断の工夫と行政・地域社会の連携が、これからの水泳授業を支える鍵となるでしょう。
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