英小説家 フォーサイスさん死去
2025/06/10 (火曜日)
総合ニュース
英小説家フォーサイスさん死去 「ジャッカルの日」「戦争の犬たち」
英国の小説家フレデリック・フォーサイス氏が2025年6月8日、ロンドン郊外の自宅にて消化器系疾患のため逝去されました。享年87。代表作『ジャッカルの日』や『戦争の犬たち』で世界的ベストセラー作家となり、冷戦期から現代に至る国際政治の緊迫を描くリアリスティックな筆致で知られていました。その死を受け、世界中の読者や関係者が追悼の意を表しています。
フォーサイス氏は1938年8月25日、当時イギリス領インドのインジャウルに生まれ、第二次世界大戦後に英国へ帰国。ケンブリッジ大学でフランス語と政治学を学んだ後、1960年代初頭にはロイター通信やBBCでジャーナリストとして活躍しました。取材で東欧諸国や中東地域を訪れた経験が、その後の小説における緊張感溢れる国際舞台の描写に大きく活かされました。
1971年発表の長編デビュー作『ジャッカルの日』は、フランス大統領ドゴール暗殺を企むプロの暗殺者「ジャッカル」と、対抗策を練るフランス警察の頭脳戦をスリリングに描いた作品です。詳細な政治状況分析や手順を克明に描写し、「ノンフィクションを超えた臨場感」と絶賛され、発売後すぐ世界各国で1,000万部以上を売り上げる大ヒットとなりました。ジョン・シュレジンジャー監督、エドワード・フォックス主演で映画化もされ、緊張感あふれる映像化が成功を収めました。
続く1974年刊『戦争の犬たち』は、西アフリカの架空国家を舞台に反乱軍を支援しようと暗躍する傭兵部隊を描いた傑作です。主人公フォークナー率いる傭兵たちの荒々しい戦術と心理戦を通じて、「戦争の本質は金と権力の争奪である」というテーマを容赦なく突きつけました。経済的誘因や国際政治の裏取引を緻密に描き、後の政治スリラーにも大きな影響を与えました。
フォーサイス氏は『オデッサ・ファイル』(1972年)でナチス戦犯追跡を、『雨のシーソーゲーム』(1975年)で石油利権をめぐる陰謀を、『アフガン』(2006年)でソ連侵攻後のアフガニスタン内戦を描くなど、社会的・政治的リアリティを追求し続けました。いずれの作品も膨大な取材と情報収集に裏打ちされた精緻なプロットと、登場人物の人間味あふれる描写が特徴です。
「ノンフィクションの手法で書かれた小説」と評されたフォーサイス作品のスタイルは、後続のスパイ・テロリズム小説や軍事アクション作品に大きな影響を与えました。特に、計画段階から実行までを詳細に追うドキュメンタリータッチの物語展開は、多くの作家が模倣し、サスペンス小説の新たな潮流を作り出しました。
フォーサイス氏は生涯にわたり、英米両国の文学賞に数多くノミネートされ、ロシア政府から戦後平和貢献者として表彰を受けるなど、国際的評価も高かった。日本でも数度にわたり来日講演を行い、熱心なファンとの交流を重ねたことで知られています。
晩年は執筆ペースを落としながらも、時事コラムの寄稿や新進作家の指導に力を注ぎました。2023年には回顧録『僕の取材ノート』を刊行し、若い世代にジャーナリスト精神と執筆のノウハウを伝授しました。遺された原稿と取材資料は、欧州各地のアーカイブに寄贈される予定です。
フォーサイス氏の訃報は英BBC、米ニューヨーク・タイムズ、仏ル・モンドなど世界の主要メディアが速報。各国元首や著名作家から「世界文学に燦然と輝く巨星を失った」との追悼コメントが寄せられています。日本国内でも出版社主催の追悼イベントや作品特集が今後相次いで開催される見込みです。
政治・軍事小説の分野で革新をもたらし、「現代のコンスタンティン・カヴァフィス」とも称されたフレデリック・フォーサイス氏。その緻密なプロットと躍動感あふれる筆致は、多くの読者に国際情勢への深い洞察を与えました。氏の遺した作品はこれからも世界中で読み継がれ、その影響力は永遠に失われることはないでしょう。
コメント:0 件
まだコメントはありません。