性別暴露で提訴された市議 釈明
性別暴露で提訴された市議 釈明
2025/06/10 (火曜日)
芥川賞作家、李琴峰氏の性別暴露で提訴された女性市議が釈明「生来の女性を守ろうと…」
はじめに
2025年6月、芥川賞作家である李琴峰（イ・キンポン）氏の性別を暴露したとして、地方議会議員の女性が名誉毀損やプライバシー侵害を理由に提訴された件は、大きな波紋を呼びました。被告となった女性市議は、「生来の女性を守ろうとした」と釈明していますが、一体どのような経緯があり、どのような法的・社会的問題が取り沙汰されているのでしょうか。本稿では、事件の詳細から、性別暴露（いわゆる“アウトイング”）の問題点、プライバシー権と表現の自由のバランス、トランスジェンダーの権利保障の歴史的背景、国内外の類似事例、今後の課題と展望までを詳しく解説します。
１．事件の経緯と概要
李琴峰氏は2024年に芥川龍之介賞を受賞し、文壇で注目を集めていた作家です。李氏は自身がトランスジェンダーであることを公表し、多くの作品でジェンダーやアイデンティティをテーマに執筆してきました。
ところが2025年5月、ある市議会の会合で女性議員が「李氏は本来女性ではなく男性だった」と発言。会議録やSNS投稿を通じて瞬く間に拡散され、李氏は名誉とプライバシーの侵害を訴え、市議を相手取って損害賠償請求と出版物差止請求を東京地裁に提起しました。
２．“アウトイング”の問題点
「アウトイング」（outing）とは、当事者の同意なく性自認や性的指向を公表する行為です。トランスジェンダーやLGBTQ+当事者が自分の情報をコントロールする権利を脅かし、差別や偏見の対象となるリスクを高めます。また、プライバシー権（憲法13条）や自己決定権（同13条・25条）を侵害する行為として、国際人権規約でも問題視されています。
３．プライバシー権と表現の自由のはざま
日本国憲法においては「表現の自由」（憲法21条）と「個人の尊重・プライバシー権」（憲法13条）が並立します。本件では、被告市議の政治活動・議会発言としての正当性と、李氏の人格的利益保護との調整がポイントです。裁判所は過去の判例で、個人情報の公開が公共の利益に資さない場合、プライバシー権を強く保護すべきと判断しています（最高裁平成22年7月13日判決など）。
４．トランスジェンダーの権利保障の歴史
戦後日本では、性同一性障害（現・性別違和症）に関する法律が2003年に成立し、診断要件を満たす者には戸籍上の性別変更が認められるようになりました。しかし、戸籍法の要件や医師の診断を巡る課題、性別欄変更に伴う差別問題は依然解決しておらず、国連などから日本政府への勧告が続いています。社会的にもトランスジェンダーに対する理解が進む一方、アウトイングによる被害が後を絶たないのが現状です。
５．国内外の類似事例
- 米国でのアウトイング訴訟：俳優イアン・ドリーズ氏が同性愛を無断で暴露されたとして出版社を提訴（2004年）
- 英国での肖像権・プライバシー権裁判：ダイアナ妃の写真公開巡る訴訟（宗教団体事件）
- 日本での性同一性障害当事者保護裁判：公務員採用試験での性別認定問題（岡崎裁判、1998年）
いずれも当事者の同意なしに公開された個人情報が、人格権侵害として争われた事例であり、本件もこれらの延長線上で捉えられます。
６． 法的対応と裁判手続き
李氏側は、民法第709条（不法行為）や第710条（損害賠償）に基づき、不法行為の差止めと慰謝料請求を行っています。また、出版物差止請求では著作権法第28条に準じ、会議録やSNS投稿の削除を求めています。これらの手続きは、証拠開示手続きや仮処分申請を経て、2025年内の結審を目指す見込みです。
７．社会的反響とメディアの役割
報道機関は「表現の自由」を優先する論調と、「プライバシー保護」の必要性を訴える論調に分かれています。SNS上では「許されざる差別的発言」「言論弾圧だ」と激論が交わされ、政治家のジェンダー問題への感度が問われる事態となっています。メディアには、事実確認の徹底と当事者への配慮ある報道が求められます。
８．今後の課題と提言
- 性別や性的指向の取り扱いについて、議会ルールやガイドラインの整備
- 議員研修でのLGBTQ+理解促進プログラムの導入
- プライバシー権保護のための法改正検討（アウトイング行為の明文化禁止）
- トランスジェンダー当事者支援窓口の設置と相談体制の強化
- メディア倫理ガイドラインでの差別発言防止規定の明示
まとめ
芥川賞作家・李琴峰氏の性別を無断暴露した女性市議の訴訟は、性自認とプライバシー保護、表現の自由とのせめぎ合いを浮き彫りにしています。議会発言という公的行為だからといって、個人のアイデンティティ情報を無制限に扱えるわけではありません。法制度と社会意識の双方でトランスジェンダーの人権を尊重し、アウトイング行為を防止するための仕組み構築が急務です。
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