ネコ治療医師死亡 マダニ感染症か
2025/06/13 (金曜日)
ネコ治療した獣医師死亡、マダニ感染症疑い 獣医師会が注意呼びかけ
2025年5月、三重県内で動物病院を開院していた獣医師(50代)が、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の疑いで急逝しました。亡くなった獣医師は、SFTSウイルス陽性と診断されたネコの入院治療を担当した直後に発熱や呼吸困難を発症し、搬送先の病院で数日後に息を引き取ったという報告があります(出典:朝日新聞「ネコ治療した獣医師死亡、マダニ感染症疑い 獣医師会が注意呼びかけ」 https://www.asahi.com/articles/AST6D3CL9T6DUTFL004M.html):contentReference[oaicite:0]{index=0}。
SFTSはブニヤウイルス科フレボウイルス属のSFTSVによる新興感染症で、マダニ刺咬を介してヒトやネコ、イヌに感染します。2013年1月に国内で初めて患者が確認され(愛媛県、2012年秋発症)以降、毎年60~100例の患者が報告され、致死率は約27%に上ります(出典:国立感染症研究所「本邦で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群患者報告」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-iasrd/3457-pr3981.html):contentReference[oaicite:1]{index=1}。
SFTSVはマダニ刺咬の他、感染動物の血液・体液との接触でもヒトに感染するリスクがあり、特にネコでは致死率が約60%と極めて高いことが知られています。飼い猫や飼い犬の治療時には唾液や血液に触れないよう、手袋・フェイスシールドの着用が必須です(出典:厚生労働省「SFTSに関するQ&A」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html):contentReference[oaicite:2]{index=2}。
日本獣医師会は、三重県獣医師会からの報告を受け、6月12日付で全国の都道府県獣医師会および動物病院に対し、業務中のマダニ対策や感染症対応マニュアルの遵守を徹底するよう注意喚起のメールを発出しました。特に感染疑い動物の隔離管理や防護具の着用、患者との直接接触を最小限に抑える診療手順の確立が求められています(出典:朝日新聞前掲):contentReference[oaicite:3]{index=3}。
ヒトのSFTSは、潜伏期間6~14日後に高熱や悪寒、頭痛、倦怠感などの全身症状から始まり、血小板減少や白血球減少を伴います。重症例では多臓器不全やDIC(播種性血管内凝固)を引き起こし、死亡率は20~30%に達します。確定診断にはRT‐PCRによるウイルスRNA検出や血清中の抗体価測定が用いられます(出典:国立感染症研究所「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2024年版」 https://dcc.ncgm.go.jp/prevention/resource/2019SFTS.pdf):contentReference[oaicite:4]{index=4}。
日本ではSFTS以前にもマダニ媒介疾患として日本紅斑熱(厚生労働省届出感染症)やライム病が知られていました。日本紅斑熱はリケッチア属菌が原因で、発熱や発疹が特徴です。これらとの違いは、SFTSが全身性の多臓器障害を伴いやすく、高齢者や基礎疾患を持つ患者では特に重症化しやすい点にあります(出典:厚労省前掲):contentReference[oaicite:5]{index=5}。
中国や韓国、台湾でも2010年代初頭からSFTS患者が報告され、致命率10~30%で流行が断続的に続いています。地域間でウイルス株に遺伝的多様性があり、重症度や感染力に差があるとされます。日本で確認された国内株は、中国大陸由来とは異なる遺伝型で、独自に自然界で循環していたと考えられています(出典:NIID「SFTSウイルス国内分布調査」 https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-iasrs/4428-pr4094.html):contentReference[oaicite:6]{index=6}。
動物病院でのSFTS対策は、①マダニ駆除薬の適切投与、②入院動物の隔離施設整備、③獣医師・スタッフの定期健康チェック、④診療後の手袋・ガウン・シールドの廃棄など、人的・物的対策が必須です。また、新興感染症ではワクチンや特効治療薬が未確立のため、早期の症状把握と集中管理が重要になります。
今回の痛ましい事例は、動物医療に従事するすべての現場に警鐘を鳴らしました。厚生労働省や農林水産省は、今後も獣医師を含むペット関連従事者への教育・研修プログラムを強化するとともに、感染症専門医や公衆衛生当局との連携窓口を明確化して情報共有を迅速化する方針です。
ペットとの共生が進む一方で、新興感染症リスクも高まっています。獣医師や飼い主がSFTSの脅威を正しく理解し、予防策を徹底することがヒト・動物双方の安全につながります。動物病院のガイドライン遵守と、地域獣医師会・公衆衛生機関が連携した監視体制の構築が求められています。
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