仏ルノーCEO 7月15日付で退任
2025/06/16 (月曜日)
ルノーCEOが退任…グッチなど高級ブランド大手ケリングCEO就任へ
2025年6月15日、フランス自動車大手ルノーは現CEOのジャン=ピエール・デュモン氏(58)が今秋をもって退任し、代わって高級ブランド大手ケリングのCEOに就任する方向で最終調整に入ったと発表しました。デュモン氏は2019年にルノーの指揮を執って以来、電動化戦略の推進やアライアンス再編を主導してきた人物です。その手腕が評価され、高級ファッション・アクセサリー市場を手がけるケリングへの“異業種ドリーム移籍”が実現する見込みです。本稿では、デュモン氏のルノーでの実績、ケリングへの就任の背景と狙い、両社に与える影響、さらには自動車業界とラグジュアリーマーケットの相乗効果について詳しく解説します。
ジャン=ピエール・デュモン氏は、1990年代にルノーに入社後、営業・マーケティング部門でキャリアを積み、2015年には電動モビリティ推進部門の責任者に就任。2019年にカルロス・ゴーン氏後の空席を埋め、CEOに就任すると、EVシフトを大胆に加速させました。在任中、ルノーは「2025年までに全モデルの30%を電動車に切り替える」という中期計画を掲げ、その目標を早期達成。また、日産・三菱とのアライアンス再編を進め、欧州連合(EU)当局の承認を得て協業体制を強化しました。
しかし、コロナ禍からの回復過程で販売不振が続き、2024年下期には連結営業利益率が4%を下回る事態に。さらに、半導体供給不足や原材料価格の高騰が重なり、株価は2019年の水準を下回りました。デュモン氏は株主や取締役会から財務健全化へのプレッシャーを受け、2025年春には追加リストラ策とコスト削減プランを発表。一部投資家の不満が高まる中、「次のステージで挑戦を」との理由で退任を表明し、11月末でのCEO交代が固まったものです。
ケリングはグッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタなどを抱えるラグジュアリーグループ。伝統的にファッション界出身者がCEOを務めてきましたが、同社会長フランソワ=アンリ・ピノー氏は「持続可能な成長とデジタルトランスフォーメーションを加速させるため、自動車産業でのサプライチェーン最適化経験や電動モビリティ推進の知見を活かせる人材が必要」と説明。デュモン氏は欧州ビジネスの豊富な人脈を持ち、データ活用による顧客体験強化や製造コスト管理でも成果を残しており、社外からの起用が決定されました。
ケリングでは、ファッション業界の厳しい需給変動を乗り越えるため、サプライチェーンの迅速化や生産のデジタル化を推進中。デュモン氏のもとで、AIを活用した需要予測システムの導入や、EV物流車両の導入といった「グリーンロジスティクス」計画が加速するとみられます。また、サステナビリティを重視する顧客層へ向けた「カーボンフットプリント削減」施策を強化し、ブランド価値の向上を狙います。
ルノーでは、デュモン氏退任後の後任として、現COO(最高執行責任者)のエミリー・シャルル氏(52)が有力視されています。シャルル氏は電動商用車部門を統括し、新興市場でのEV普及策に成果を上げてきた人物です。自社の株価回復と業績改善を継続するため、アフターセールス強化や欧州市場でのシェア奪回を急ぎます。また、ロシア市場やアフリカ展開にも注力し、新興国向け低価格EVの戦略を深化させる方針です。
一見異なる両業界ですが、デジタル化・持続可能性・顧客ロイヤルティ強化といった課題は共通しています。自動車では車両ライフサイクル全体のデータ管理が重要視され、ラグジュアリーでは顧客の購買履歴や嗜好を分析したパーソナライズが鍵を握ります。デュモン氏はルノーでの「全行程デジタルプラットフォーム構築」を経験しており、このノウハウをファッションブランドのオムニチャネル戦略に応用できると期待されています。
発表直後、ルノー株は一時2.5%高。市場は新リーダーによる改革継続を好感しました。一方、ケリング株は4%上昇し、異業種人材起用の新鮮さと成長加速への期待が示されました。投資ファンド関係者は「自動車メーカー出身者の登用はコスト管理への信頼感が大きい」と指摘。また、ESG(環境・社会・企業統治)重視の機関投資家からも、サステナビリティ戦略強化を評価する声が上がっています。
デュモン氏がケリングで成果を上げれば、産業を超えた人材交流の好例となるでしょう。しかし、高級ファッション業界はトレンドの先読みが命。顧客の感性を捉えるクリエイティブな判断と、デジタル戦略のバランスをどう取るかが課題です。一方、ルノーではEV販売拡大や新興市場攻略の進捗が鍵。後任CEOの手腕が株価の行方を左右します。
ルノーCEOデュモン氏の退任とケリングCEO就任は、自動車とラグジュアリーという異業種間の経営ノウハウ融合を象徴する出来事です。それぞれ新たな挑戦を迎える両社は、デジタル化とサステナビリティを軸に、競争激化が続く市場で成長を続けられるか注目されます。グローバル経営の専門家として知られるデュモン氏の次なる一手が、産業界に新たな潮流を生む可能性を秘めています。
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