日本製鉄、USスチール買収手続き完了と発表 米政府に黄金株発行も「経営自由度は確保」
2025/06/18 (水曜日)
日鉄、USスチール買収「大統領同意なしの生産や雇用移転不可」米商務長官
2025年6月18日、日鉄(日本製鉄)は米鉄鋼最大手のUSスチール買収に向けた交渉を進めていると報じられる中、アメリカのゴーテズ商務長官が「大統領の事前同意なく、買収後の生産移転や雇用移転は認められない」との厳しい姿勢を示しました。本件は日米双方の産業政策、雇用維持、国家安全保障をめぐる複雑な利害が絡み合う大型M&Aであり、米政権の裁量次第で成否が左右される可能性があります。本稿では、買収の経緯と狙い、米当局の条件の背景、過去の類似事例との比較、日米両政府の対応、国内外の業界インパクトを詳しく解説します。
日鉄は2025年初頭からUSスチールとの間で買収交渉を開始。世界的な鉄鋼過剰生産や環境規制強化を背景に、生産設備の統合とコスト削減による国際競争力強化を狙っています。USスチールは原料調達網や北米市場での強固な販路を持ち、買収により日鉄はグローバル上位3社の一角を目指す構想です。
ゴーテズ商務長官は6月17日の議会証言で、「買収にあたっては、米国内の労働者の生活や地域経済への影響を十分に考慮し、大統領の事前同意なしに操業拠点や雇用を海外に移転することは認められない」と述べました。背景には、国内製造業の空洞化防止と、買収後に工場閉鎖・人員削減が相次いだ事例への反省があります。
過去にも海外企業による米鉄鋼資産買収事例はあり、2016年のロシア大手アルセロールミタルによるAK Steel買収では、保有設備の統合で一部工場を閉鎖した結果、雇用削減に対する反発が激化し、買収後の統合効果が限定的となりました。米当局はその反省から、今回の日鉄案にも雇用維持条項を厳格に求めています。
日本政府は、外為法に基づく対外直接投資の事前届出をUSスチール側と調整中。経済産業省は「両国の雇用維持と技術移転に関する理解が得られるよう支援する」とし、日米経済調整協議(JAEC)でも本件が重点議題となっています。一方、米国側は国家安全保障上の審査を担うCFIUS(対外投資委員会)にも本案件を付託する見通しです。
日鉄によるUSスチール買収は、北米鉄鋼市況に大きな波風を立てる可能性があります。統合後は原料調達の一元化や設備効率化を通じたコストリーダーシップの確立が期待される一方、合意条件による米国内雇用維持コストの増大は、想定以上の財務負担となることも考えられます。今後は米政権の姿勢、CFIUS審査の行方、両社の統合計画が焦点となるでしょう。
日鉄・USスチール買収の成否は、米当局の雇用維持条項や大統領同意の要件をクリアできるかにかかっています。日米両政府の産業政策と地域経済保護の調整がいかに行われるかが、グローバル鉄鋼再編の行方を左右する一大試金石となるでしょう。
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