スペイン、防衛支出でNATOに例外措置要求 GDP比5%目標「約束できない」
2025/06/20 (金曜日)
19日付のルッテNATO事務総長宛ての書簡でサンチェス氏は「スペインや他の加盟国にとって5%の目標は、中間層への増税や社会保障の削減なしでは達成不可能」と指摘。「スペインは首脳会議で具体的な支出目標を約束できない」とし、各国の実情に沿った対応を求めた。
スペインはNATO諸国で防衛費のGDP比が最も低く、現行目標の2%に今年ようやく到達した。ルッテ氏はロシアの脅威に備えるため、加盟国の防衛費を3
2025年6月19日付で、スペインのペドロ・サンチェス首相はマーク・ルッテNATO事務総長宛てに書簡を送り、加盟諸国に防衛費を国内総生産(GDP)比5%まで引き上げるという新目標提案に強く反対の意向を示しました。サンチェス氏は「中間層への増税や社会保障削減なしに達成は不可能」と断じ、スペインとして首脳会議で具体的な支出目標を約束できないと表明しました。この書簡は、ロシアの脅威に備えるには防衛費の増額が必要だと主張する米国側の圧力と、国民負担の均衡を重視する欧州諸国の間で揺れるNATO内の緊張を象徴するものです。
NATOは2014年のウェールズ首脳会議で「加盟国は防衛費をGDP比2%以上に維持すべき」という最低限の目標を採択しました。しかし、2024年時点でこの基準をクリアしている国は半数程度にとどまり、一部では積極的に増額を進める一方、予算制約や国民の反発を理由に目標達成を先送りする状況が続いてきました。
2025年にオランダのマーク・ルッテ首相がNATO事務総長を兼任して以降、米国政府からの強い要請を受け、同盟全体の防衛能力を抜本的に強化するために「GDP比3.5%を純粋な防衛費、さらに1.5%をサイバー防衛やミサイル防衛、人道支援など『広義の安全保障関連支出』として計5%とすべき」との目標を打ち出しました。この提案は、2030年までに段階的に到達する案として提示され、同盟諸国に一体感を求める狙いがありました。
スペインは過去数年、景気低迷と高い失業率に対応するため社会福祉支出を拡充してきました。2024年末にやっとGDP比2%を達成したばかりであり、軍事予算の急激な増額は社会保障や教育、医療予算を削減するか、大規模な増税を行うしか選択肢がありません。サンチェス首相は「国民の生活を犠牲にすることなく、持続可能な安全保障を構築する必要がある」と指摘し、5%目標はスペイン国民の支持を得られないと強調しました。
フランスやポーランドはロシアへの抑止力強化の立場から一部の増額を支持していますが、ドイツやイタリアは財政再建の途上であり、段階的アプローチを主張しています。スペイン国内では与党からも「防衛強化は理解するが社会保障の後退は認められない」との声が多く、野党からは「政府はNATO義務を軽視している」との批判も上がっています。このためサンチェス政権は、国内支持を維持しつつ同盟内での交渉を如何に有利に進めるか模索しています。
6月下旬に開かれるハーグ首脳会議では、全加盟国の合意が必要な問題を巡り、スペインの書簡は強い影響力を持ちます。5%目標を見直すか、または「安全保障関連支出」の定義を再検討するかが議題に上がり、米国と欧州諸国の力関係が改めて試される場となるでしょう。
サンチェス首相の書簡は、NATOが「単なる数値目標」ではなく「各国の実情に応じた貢献」を重視すべきとの主張です。防衛力強化と国民負担の適正化という相反する要請を両立させるためには、同盟内での柔軟な枠組みや多層的な支援体制を構築することが不可欠となります。ハーグ首脳会議でどのような合意が形成されるかが、今後の欧州安全保障の命運を左右する鍵となるでしょう。
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