米騒動「誤解だらけ」農家の本音
2025/06/12 (木曜日)
コメ騒動は「誤解だらけ」 農業インフルエンサーが訴える農家の本音
2025年6月12日付毎日新聞は、SNSで「コメ騒動は誤解だらけ」と訴える農業インフルエンサーでコメ農家の草野拓志さん(36)の本音を伝えた。消費者目線では「高すぎる」と批判されるコメ価格も、農家にとっては生産を維持するために不可欠な水準であり、需給バランスを崩せば「安定供給が困難になる」と警鐘を鳴らしている(出典:毎日新聞/turn9search0)。
昨年からの天候不順や円安、人手不足が追い打ちをかけ、2024~25年シーズンのコメ価格は5kg当たり約4,500~5,000円と10年前の1.5倍超に上昇した。多くの消費者は「米価が高すぎる」と感じるが、農林水産省統計によると、米の生産費(60kg当たり)は平均約13,000円前後で、一方の粗収益は約12,900円にとどまり、作付規模や地域によっては赤字も発生している(出典:農林水産省「令和4年産米生産費統計」/turn11search2)。この差額を補うため、生産者は1反(10a)当たり数万円の直接支払交付金に頼る構造だが、2018年以降の政策改革で交付金額が縮小・廃止され、農家の収益環境は一層厳しくなっている(出典:農林水産省「米政策改革」/turn12search0)。
ネット上には「JAの手数料が高いので米価が上がる」といった誤解が広がるが、草野さんは「JAの販売手数料は民間業者の相場(5~8%)と大きく変わらない」と説明。JAは店舗流通・貯蔵・検査・販売をまとめて行う機能提供型組織であり、生産者への配分割合は価格交渉力に応じて決まる。価格下落リスクを肩代わりする相互扶助の役割が大きく、単純に“中抜き”をしているわけではないと訴える(出典:毎日新聞/turn9search0)。
日本のコメ政策は2018年に「生産数量目標による分配」から「需要に基づく生産・販売重視」に転換し、水田活用の直接支払交付金や米価変動補填交付金が導入された。しかし2018年度の直接支払金額は10a当たり15,000円から7,500円に半減され、2018年度末に廃止された。これにより、減反政策下で維持されてきた最低価格保障が失われ、農家のリスクは政府保護から自己責任へとシフトしている(出典:農林水産省「水田活用交付金等の見直し」/turn12search5)。
過去、コメ価格急騰による混乱は1918年の「米騒動」や1993年の「冷夏米騒動」と呼ばれる事態として表面化した。1918年の米騒動では全国的な暴動となり政府が生産調整と輸入拡大を迫られ、1993年には異例の冷夏で生産激減とデマ買い占めが重なり、政府が緊急放出や輸入で対応した(出典:Wikipedia「Rice riots of 1918」/turn10search20, 「Rice riots of 1993」/turn10search19)。今回の「コメ騒動」も同様に供給不安を引き金に短期的な価格変動が起こりやすい構造を浮き彫りにしている。
世界最大のコメ輸出国インドは、最低支持価格を設定し、生産過剰時には国営買入れを行う一方、輸出制限で価格安定を図る。ベトナムやタイは生産性向上支援と併走して市場開放を進め、世界的なコメ市場に統合されている。日本は長年「米価高維持」が農家保護策とされてきたが、消費動向や観光需要の変化、人口減少を背景に「輸入比率の見直し」「消費拡大策」の検討が必要との声が高まっている(出典:Reuters「Against the grain」/turn10news9, FT「Rice shortage」/turn10news10)。
政府は既に2025年6月、緊急備蓄米60万トンを随意契約で放出し、5kg袋を2,000円で販売した結果、米価は2週連続で低下し、5kgあたり4,223円を記録した(出典:Reuters「Japan release emergency rice」/turn10news11)。しかし放出のみで需要構造の改革には至らず、本質的な価格問題の解消には「需要側の意識改革」「食育・地産地消の推進」「新技術による生産コスト低減」が求められている。
草野さんは「現場の声を政策に活かしてほしい」と訴え、消費者にも「米はただの食材ではなく、文化であり社会インフラ」と理解を求めている。生産者の現場から出るリアルなコスト情報を可視化し、透明性ある価格形成メカニズムを構築することが、消費者と生産者の溝を埋める第一歩となるだろう。
「コメ騒動は誤解だらけ」という草野拓志さんの主張は、消費者と生産者の認識ギャップを示すとともに、日本農業政策の根本的な見直しを促す呼びかけでもある。歴史的事例や国際比較を踏まえつつ、需給バランスを崩さない適正価格の維持と、生産コスト削減の両面から、持続可能なコメ供給体制の構築を目指す必要がある。
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