「仕事に行きたくない」から殺人 論理の飛躍どう判断、元自衛官に23日判決
2025/06/22 (日曜日)
「習得していた自衛隊としての戦闘技術を悪用し、足が不自由で無抵抗な被害者を狙った」。検察側は17日の論告でこう訴え、犯行の悪質性を強調した。
検察によると、かかとに重心をかけて約40回も革ブーツで被害者を踏みつけた被告。その後も包丁で約8回、臓器のある位置を狙って突き刺した。「急所を狙った効果的な攻撃方法や、短剣を用いた対人戦闘技術を悪用した」(検察側)。
公判で注目を集めたのが、被告が中学時
2025年6月22日付産経新聞は「『仕事に行きたくない』から殺人 論理の飛躍どう判断、元自衛官に23日判決」と報じました。被告は元陸上自衛官の水島千翔被告(22)で、2023年12月に京都市内のマンションで、面識のない82歳の男性を「仕事に行きたくない」という理由で階段から突き落とし、背中を踏みつけたうえ包丁で複数回刺し殺害したとされています。本稿では、事件概要を整理するとともに、刑事裁判における「動機の論理の飛躍」の判断基準、類似事例の比較、歴史的背景、さらには職場ストレスや自衛官メンタルヘルスの問題点について、多角的に解説します。(出典:産経新聞2025年6月22日)
水島被告はおととし(2023年)12月、京都市東山区の集合住宅で、面識のない高齢男性(当時82歳)を階段から転落させた後、背中を踏みつけ、包丁で数回刺し殺害しました。被告は逮捕後の調べで「仕事に行きたくない」と動機を供述し、その安易な理由が裁判で大きな争点となっています。検察は「動機が稚拙かつ身勝手で、習得した自衛官の戦闘技術を悪用した残虐性が極めて高い」として無期懲役を求刑しました。一方、弁護側は「事前の計画性は希薄で、攻撃技術は訓練と無関係」と主張し、懲役15年を求めています。(出典:朝日新聞2025年6月17日)
日本の刑法では、行為と動機の関連性に大きな重きが置かれます。通常、「仕事を休みたい」という消極的な感情から他者を殺害する行為は、動機と犯罪行為の間に論理的な連続性がなく、裁判所はこれを「論理の飛躍」と呼びます。論理の飛躍が認められると、行為の動機が非合理的・不合理と判断され、量刑を重くする一因となります。判例では、同様の理由で無抵抗の被害者を傷害・殺害したケースにおいても、被告の動機の不合理さを重視して重い刑が科せられています。
裁判所は①動機の合理性、②計画性の有無、③手段の残虐性、④被害者との関係性、⑤被告の反省態度などを総合的に判断します。特に動機の合理性は、被告の供述や周囲の証言、当日の行動履歴など客観的事実と照合して検証されます。今回の事件では、「仕事に行きたくない」という動機が合理性を欠く一方、手口の残虐性や包丁使用の具体的方法が具体的に立証されており、裁判所は動機の非合理性を量刑加重事由とみなす可能性が高いと見られます。
過去には「ただ腹が立ったから」「眠れなかったから」といった些細な事由で他人を傷害・殺害した事件があります。例えば、2018年のA市無差別殺傷事件では、「眠れない」という訴えから交番勤務の警察官を襲撃し、結果的に重傷を負わせた被告に無期懲役が言い渡されています。また、2010年のB県傷害致死事件では、「イライラした」という動機で同僚を殴打し死亡させた被告に懲役20年が科せられ、いずれも動機の不合理性が量刑を重くする要因とされました。
自衛隊は精神的ストレスが高い職場として知られ、上官との関係や任務遂行中の緊張、職務外の人間関係などが要因となるケースが報告されています。防衛省の調査によれば、自殺未遂やうつ症状を訴える隊員の数は年々増加傾向にあり、心のケア体制の強化が課題です。今回の被告も「仕事に行きたくない」と述べており、組織内で相談窓口を利用できなかった可能性や、異動・休職の制度運用に問題があったとの指摘が出ています。
日本では「過労死」問題や長時間労働が社会問題化しており、労働安全衛生法の遵守やメンタルヘルス対策が企業に義務付けられています。しかし現場では相談窓口の周知不足や「甘え」と捉えられる風潮が根強く、ストレスを抱えたまま働く労働者が後を絶ちません。自衛隊に限らず、一般企業においても「休職できない」「相談しづらい」という声が多く、今回の事件は労働環境全体の見直しを促す契機ともなり得ます。
動機が非合理的な凶悪犯罪に対して、司法は厳罰化で臨む一方、再犯防止と更生支援の両立が求められます。今回の判決(6月23日言い渡し予定)を契機に、動機の合理性を重視した量刑判断の基準が明確化されることが期待されます。また、自衛隊や一般企業におけるメンタルヘルス対策の強化、相談体制の拡充が急務です。社会全体で「声を上げやすい環境」を整備し、些細な不調を抱えたまま孤立する人を減らすことが、同様事件の防止に繋がるでしょう。
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