東京の病院 初の内密出産が判明
2025/06/11 (水曜日)
東京の病院で初の内密出産が判明 3月の制度スタート以降に数件
2025年3月31日より、日本全国の医療機関で導入が始まった「内密出産(匿名出産)」制度は、妊産婦が病院に身元を明かさずに出産できる仕組みです。これまで妊娠・出産を巡る経済的・社会的プレッシャーから、匿名で出産を選ぶ「孤立出産」や命を脅かす「赤ちゃんポスト」利用が後を絶たず、児童遺棄事件も相次いでいました。内密出産は、妊産婦と新生児の命を守る最後の砦として、医療と行政が一体で取り組む国の新たな子ども・子育て支援策です。
過去10年間の児童相談所への通告件数は増加傾向にあり、未婚や経済困窮、虐待への恐怖などを理由に妊娠を隠して出産し、その後子どもを遺棄するケースが後を絶ちませんでした。2016年の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)初設置以降も、母子の孤立は深刻化。厚生労働省や地方自治体は匿名相談窓口の設置や養子縁組支援を強化してきましたが、妊産婦自身が病院を訪れるハードルは高く、匿名での安全な出産環境整備が急務とされていました。
2025年6月11日、東京都墨田区の賛育会病院で、内密出産の初事例が確認されました。関係者によると、匿名を希望する20代女性が3月31日制度開始直後に同病院を訪れ、身元を秘匿したまま母子手帳や健康保険証なしで受診、計画的な医療ケアを受けて出産しました。母子ともに健康状態は良好で、医療スタッフは「行政や児童相談所と連携し、匿名での養育希望状況や家庭環境に応じた支援プランを策定した」と説明しています。
賛育会病院は赤ちゃんポスト設置医療機関としても知られ、匿名出産後に親元での養育が困難な場合は、病院に併設されたポストで新生児を匿名で受け入れる体制があります。内密出産と赤ちゃんポストは相互補完の関係にあり、「出生直後の命の安全確保」を最優先に、母子支援と乳幼児養育の多様な選択肢を提供するモデルケースとされています。
2025年3月以降、内密出産を開始した医療機関は東京・熊本・福岡・大阪など全国で約20カ所。熊本市の慈恵病院が制度導入第1号となり、同病院内でも既に数件の匿名出産が報告されています。賛育会病院の事例を含めて、3月末から6月初旬までに全国で「数件」の匿名出産が確認されており、今後さらに増加する見込みです。
内密出産制度は新たな取り組みであるため、以下の課題が指摘されています。
欧米各国では「匿名出産」は法制度として導入されている例があります。フランスでは「匿名出産法」により、母親は出生後8日以内に匿名を選択可能で、母子保護施設で出産後匿名養子縁組が行われます。ドイツでは「匿名相談出産」制度が整備され、医療保護や養育支援を一体的に提供。日本の内密出産制度はこれらを参考に、匿名性の確保と支援の手厚さを両立させた設計が特徴です。
内密出産は母子の命と人権を守る観点で評価される一方、「親子の絆形成」や「子どもの自己同一性」への影響を懸念する声もあります。匿名出産後に生物学的母親を知る権利をどう担保するか、成長後にアイデンティティに関する情報開示をどう扱うかなど、プライバシー保護と情報公開の均衡が重要な論点として浮上しています。
東京都は6月11日に、内密出産と赤ちゃんポストの運用状況を検証する「妊産婦支援チーム」を設置し、初期事例を分析後、制度改善策をまとめる方針を示しました。今後は全国的に運用マニュアルを統一し、医療・福祉・司法を横断する支援ネットワークを強化。匿名出産を選択した母子が安心して次の一歩を踏み出せる社会環境の構築が急務となります。
「内密出産」は、妊娠の秘密保持を希望する母親と新生児を社会的リスクから守る最後のセーフティーネットです。初の成功事例が確認されたことは、人命尊重の制度的進歩を示します。今後、医療現場・自治体・市民団体が連携し、匿名出産が選択肢として定着することで、母子ともに尊厳を保持した支援体制の確立が期待されます。
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