ピットブルに犬殺され 飼い主が涙
2025/06/12 (木曜日)
愛犬を米兵のピットブルにかみ殺された飼い主「胸が痛い」 逃げた時、県警に通報あれば…
2025年5月30日午後11時半ごろ、沖縄県金武町の民家で、73歳の飼い主女性が飼い犬の雑種「ライム」(オス・10歳)を小屋から連れ出そうとしたところ、隣家の米海兵隊員が飼育するピットブルが突然犬小屋に頭を突っ込み、ライムの首輪チェーンを引きちぎったうえで首元を咬みつき、数メートル引きずった末に咬み殺しました。飼い主が緊急通報(110番)すると、ピットブルは近くの路上をうろついた後、5月31日午前1時ごろ、石川署員によって保護されました。
謝罪の場で、海兵隊員は「憲兵隊から『日本の警察には逃げたことを報告しないように』と指示された」と明かし、米軍憲兵隊や所属部隊には連絡したものの、県警への通報を怠っていたことを認めました。飼い主は「すぐに警察に知らせていれば、愛犬を救えたかもしれない。胸が痛い」と憤りと後悔を語りました。
在日米軍に関する事件・事故発生時の通報手続きは、1997年の日米合同委員会合意に基づき、米軍側から日本側へ「日本人に実質的な傷害を与える可能性がある事件」は直ちに通報することと定められています。しかし、今回のピットブル逃走・咬殺事件では、米軍内部の指示が優先され、日本の警察への連絡が後回しにされた実態が浮き彫りとなりました。
日本には「特定犬種」の全国的飼育禁止規定はありませんが、多くの自治体がピットブルなど攻撃性の強い犬種に対し飼育届出や柵・リード義務を課しています。動物の愛護及び管理に関する法律ではすべての犬に適正飼養が求められ、飼い主には登録・狂犬病予防接種・放し飼い禁止などの義務が課されていますが、犬種ごとの統一的規制はなく、事故抑止には至っていません。
沖縄県内では近年、大型犬による咬傷事案が相次いで報告されています。2024年には同町内で放し飼いの大型犬が通行人を咬む事故が発生し、自治体が特定犬種飼育者への研修を義務付ける緊急措置を導入した経緯があります。また、2023年にも米軍属の飼い犬が散歩中に住民を咬み、米軍側の通報遅れが問題となりました。
日米地位協定(SOFA)では、米軍人・軍属が日本国内で犯罪を犯した場合、当該者の身柄は憲兵隊が拘束し起訴決定までは米軍側が管轄します。民事責任については日本の民法が適用されるものの、SOFAによる司法権行使の制約から、米軍側の自主的通報と対応が事故防止の鍵を握っています。今回のように憲兵隊の指示で県警通報が抑制される事例は、SOFA運用の問題点を浮き彫りにしています。
動物愛護管理法は2020年に改正され、虐待禁止や終生飼養義務が強化されましたが、危険犬種の管理は主に都道府県条例に委ねられています。金武町を所管する沖縄県は、2025年4月に「特定犬飼育基準」を策定し、庭柵高さや二重扉設置など厳格な管理を義務付けましたが、米軍家族には適用外とされ、法の適用範囲の曖昧さが指摘されています。
今回の事故を受け、沖縄県警は米軍憲兵隊との情報共有強化を日米合同委員会に要請するとともに、基地周辺の危険犬種飼育者に対する定期的な立入検査と講習会を義務付ける方針です。また、住民向けには「犬の安全マナー講習」と放し飼い防止用の補助金制度を創設予定で、地域全体で咬傷事故を防ぐ仕組みづくりが急務となっています。
愛犬を咬み殺すという痛ましい事件は、SOFA運用の不備と危険犬種管理の制度ギャップが重なった結果です。米軍側の通報義務と日本の警察権の適切な行使、危険犬種飼い主の責任強化、自治体条例の適用拡大を組み合わせた多層的な対策が、再発防止と地域の安心・安全につながるでしょう。
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