米テスラ 時価総額22兆円吹き飛ぶ

米テスラ 時価総額22兆円吹き飛ぶ

2025/06/06 (金曜日)

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テスラ、時価総額22兆円吹き飛ぶ マスク、トランプ両氏決裂で


 【ニューヨーク時事】米電気自動車(EV)大手テスラの株価が5日急落し、前日終値比14%の大幅安で引けた。



 時価総額は約1524億ドル(約22兆円)吹き飛び、同社価値の一日の目減り額としては過去最大という。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)とトランプ米大統領の決裂が決定的となり、マスク氏の事業に悪影響が及ぶとの悲観的な見方が広がった。

 テスラ株の終値は284.70ドル。一時18%近く売り込まれた。時価総額は巨大企業の目安とされる1兆ドルを割り込んだ。

 両氏はSNSで非難合戦を展開。トランプ氏は「何十億ドルも予算を節約する最も簡単な方法はイーロンの(事業に対する)政府補助や契約を打ち切ることだ」と述べ、テスラや宇宙企業スペースXの業績が悪化するとの観測が台頭した。

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要約

2025年6月5日、米電気自動車大手テスラの株価が前日比で約14%急落し、一日の時価総額で約1524億ドル(約22兆円)が消失しました。この急落は、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)とドナルド・トランプ前米大統領のSNS上での非難合戦が直接の引き金となりました。トランプ氏がテスラや宇宙企業スペースXへの政府補助金や契約を打ち切ると公言したことで投資家心理が一気に冷え込み、テスラ株は一時18%近く下落。時価総額は1兆ドルの大台を割り込み、過去最大規模の一日減少となりました。本稿では、株価急落の経緯を振り返り、マスク氏とトランプ氏の関係性や政府補助・規制リスクを解説したうえで、テスラ事業への中長期的影響や、類似の株価急落事例との比較を行います。

1. 株価急落の経緯と背景

2025年6月5日、ニューヨーク株式市場ではテスラ株が一時18%近く売り込まれ、終値は284.70ドルとなりました。この急落により、テスラの時価総額から約1524億ドル(約22兆円)が一日で消失し、時価総額1兆ドル割れが現実のものとなりました。

急落の発端は、同日にイーロン・マスク氏とドナルド・トランプ氏がSNSで激しい非難合戦を繰り広げたことにありました。トランプ氏は「テスラやスペースXへの政府補助金や契約を打ち切れば何十億ドルもの節約になる」と発言し、同時に「マスク氏の行動は恩知らずだ」と痛烈に批判しました。これに対しマスク氏はトランプ氏が推進する法案を「国益を損なう愚策」と激しく批判し、さらに火花を散らしました。この応酬を受け、投資家は政府支援の打ち切りや規制強化による業績悪化を懸念し、テスラ株を一斉に売り払ったのです。

とりわけ、テスラはこれまで連邦政府の税額控除や環境規制緩和の恩恵を大きく受けてきました。トランプ氏による「税控除廃止」や「政府契約打ち切り」の可能性が示唆されたことで、収益構造が根本から揺らぐとの見方が広がり、投資家心理が急速に悪化しました。

2. マスク氏とトランプ氏の関係史

2.1 初期の友好関係

イーロン・マスク氏とドナルド・トランプ氏の関係は、当初比較的友好的でした。マスク氏はトランプ氏が大統領選に立候補した際に政治資金を提供し、政策面でも協力関係を築いていました。マスク氏はトランプ政権で発足した「政府効率化省(通称DOGE)」の一員として名を連ね、官民協働で行政改革やデジタル化を推進する立場にありました。両者はテクノロジーとイノベーションの推進で足並みをそろえ、マスク氏の宇宙ビジネス(スペースX)やテスラ事業も一定の理解を受けていました。

2.2 関係悪化の契機

しかし、2025年にトランプ氏が共和党大統領候補として復帰を目指す中、エネルギー政策や規制緩和の方向性を巡ってマスク氏と対立が鮮明になりました。特に、トランプ氏が推し進めた法案「One Big Beautiful Bill Act」には大規模な財政出動が含まれており、マスク氏はこれを強く批判していました。マスク氏は「過度な補助金や規制緩和は無責任だ」と主張。これに対しトランプ氏は、「マスク氏は恩知らずであり、政府の支援を当然のものと思っている」と反発し、補助金や契約を打ち切ると公言したことで両者の関係は決定的に悪化しました。

以降、トランプ氏はSNSや選挙集会で「テスラへの補助金を廃止し、スペースXとの契約を見直す」と繰り返し述べ、マスク氏は「トランプ候補の言動は国益を損ないかねない」と反論。こうした応酬が市場の不安を助長し、テスラ株の急落へとつながったのです。

3. 政府補助と規制リスク

3.1 電気自動車向け税控除廃止

テスラをはじめ多くのEVメーカーが、連邦政府から1台あたり最大7500ドルの購入税額控除を受けています。この税控除は消費者のEV購入を促進するために不可欠とされ、テスラ車の販売促進に大きく貢献してきました。トランプ氏は「財政赤字が拡大する中でEV向け税控除が無駄だ」として、税控除廃止を提唱。これが実現すると、テスラの価格競争力は大きく低下し、販売台数の減少が避けられないと市場は分析しました。購入控除廃止による売上減や利益率悪化の懸念から、投資家はテスラ株を手放す動きを強める結果となりました。

3.2 政府契約打ち切りの脅威

マスク氏が率いるスペースXは、NASAや国防総省と数十億ドル規模の契約を結んでおり、Dragon宇宙船やStarlink衛星サービスなど、多岐にわたるプロジェクトを推進しています。トランプ氏は「スペースXへの補助や契約も打ち切る」と明言し、宇宙事業全体への波及リスクを示唆しました。もしNASAや防衛機関がスペースXとの契約を見直せば、同社の収益源は大きく損なわれるうえ、テスラ株にもネガティブな影響が波及すると見られていました。

さらに、米運輸省がテスラの自動運転技術について安全性調査を進めていることも拍車をかけました。自動運転を巡る規制が厳格化される可能性が高まり、フルセルフドライビング(FSD)機能の商用化計画にも不透明感が増していたため、規制リスクと政治リスクが複合的にテスラ株に打撃を与えた格好です。

4. テスラの株価推移と市場環境

4.1 最近の株価動向

テスラ株は2024年末に422ドルの最高値を付けた後、急速に下落しました。2025年3月には一時229ドルまで値を下げ、時価総額は約7000億ドルを失うなど、投資家の期待値が大きく後退していました。背景には金利上昇によるハイバリュエーション銘柄への逆風や、中国市場における競合EVメーカーの台頭、欧州での需要鈍化がありました。

さらに、CEOマスク氏のSNS発言が度々議論を呼び、企業イメージや投資家信頼を左右してきたことも株価変動に影響し、投資家はテスラを「高リスク・高リターン」の銘柄と見なすようになっていました。

4.2 歴史的な株価急落との比較

テスラの2025年6月5日の株価急落は、同社史上最大級の一日下落幅を記録しました。歴史的に見ても、2008年のリーマン・ショックや2020年3月のコロナショックに匹敵する規模であり、損失額は世界企業市場においても稀に見る巨大インパクトでした。

他のケースでは、ボーイングが737 MAX事故・生産中止で約18%急落した例や、マイクロソフトが半導体不足懸念で約16%下落した例がありますが、いずれも一日あたりの損失額ではテスラの今回の減少額を下回っていました。ドットコムバブル崩壊時のアマゾン急落も大幅下落でしたが、企業規模の差でテスラの損失額はさらに大きくなっています。

5. マスク氏とテスラ事業への中長期的影響

5.1 規制面および政策リスク

テスラが直面する規制リスクは多岐にわたります。まずEV税控除廃止による直接的な売上減少は避けられず、政府補助金に依存した価格戦略の見直しが急務となります。さらに、自動運転技術「FSD」に対する安全性調査が長期化すると、市場投入のタイミングが遅れ、競合他社にシェアを奪われる可能性があります。

加えて、スペースXへの政府契約打ち切りリスクがテスラ事業に波及する恐れもあります。政府調達によるキャッシュフローが見込めなくなれば、スペースXの研究開発投資が滞り、テスラとの技術共有・シナジー効果にもマイナス影響が出る可能性があります。

5.2 企業イメージと投資家心理

マスク氏の過激発言や政治リスクがテスラのブランド価値に影を落としてきたことは否めません。多くの投資家は「CEOの言動が企業リスクを左右する」と考えており、安全志向の機関投資家はテスラ株への投資に慎重になっています。これにより、テスラ株はボラティリティが高い「リスク資産」として扱われるようになり、投資家層の構成も変化しつつあります。

加えて、競合他社との価格競争が激化する中、財務基盤の強化が必要不可欠です。直近では米格付け機関がテスラ社債の見通しを「ネガティブ」に引き下げており、資金調達コストの上昇リスクも意識されています。

6. 類似事例との比較

6.1 過去の大手企業株急落事例

  • アマゾン(ドットコムバブル崩壊、2000年)
    ナスダック市場のバブル崩壊により、アマゾン株は一時約90%下落しました。テスラの場合、約70%下落に留まったものの、企業価値減少額は当時のGDP比を上回るインパクトがあったとされます。
  • ボーイング(737 MAX事故、2019年)
    737 MAX機の墜落事故を受け、株価は一時約18%急落し、時価総額約480億ドルを失いました。テスラの2025年6月5日の減少額はそれを大きく上回り、規模面での衝撃は特筆に値します。
  • マイクロソフト(半導体不足懸念、2022年)
    半導体不足に伴うサプライチェーン問題で株価が約16%下落しました。テスラはこれ以上に大きな一日減少率を記録し、テクノロジー企業が抱えるリスクの高さを示しました。

6.2 政治リスクが影響した事例

  • フォード(クリントン政権、1993年)
    ビル・クリントン政権が自動車輸入制限や環境規制強化を検討した際、フォード株は約12%下落しました。政治的決定が自動車大手株価を大きく動かした例です。
  • 中国テック株(米中貿易摩擦、2018年)
    米中貿易摩擦の激化に伴い、アリババやテンセントなど主要テック株が一時30~40%下落。政治的緊張が企業価値に及ぼす影響を示す代表例です。
  • Meta Platforms(仮想通貨規制、2021年)
    連邦準備制度理事会(FRB)の仮想通貨規制強化示唆で株価が急落。テスラ同様に、CEOの発言や外部規制が企業業績予想を一変させる例となりました。

7. 中長期的な戦略課題と展望

7.1 新モデル投入と競争激化

テスラは2025年後半にエントリーモデル「モデル2」を投入予定で、価格を約25,000ドルに抑え、量販市場を狙います。しかし、政府補助金が廃止されると販売価格に補正をかけざるを得ず、利益率の低下が懸念されます。中国市場ではBYDやNIOなど地元メーカーが急速にシェアを拡大しており、テスラは現地生産拠点拡充やサプライチェーン効率化によるコスト低減が急務です。

そのほか、ドイツやインドでの製造拠点拡大を通じて、地域ごとに適した価格設定と納期短縮を図ることで、グローバル競争力を維持する戦略が必要です。

7.2 自動運転とAI技術の競争力維持

テスラは自動運転ソフト「FSD(Full Self-Driving)」の開発に巨額投資を続けていますが、米運輸省や国家運輸安全委員会(NHTSA)の調査が厳しさを増しており、商用レベル4の実現時期が遅れるリスクがあります。他社もAI自動運転技術を強化しており、テスラが先行優位を維持するには、ソフトウェアの安全性と精度向上だけでなく、公共交通機関やライドシェアとの提携など多角的なビジネスモデル構築が欠かせません。

また、AIチップやバッテリー技術の内製化を進め、他社依存度を下げる取り組みも強化する必要があります。これにより、供給リスクを低減し、コスト競争力を高めることが期待されます。

8. 投資家への教訓とリスク管理

今回のテスラ株急落は、「CEOの発言や政治リスクが株価に与える影響の大きさ」を再認識させました。投資家はハイテク・グロース株を選定する際に、ファンダメンタルズ分析だけでなく、経営陣のリスク要因や地政学的・政策リスクを慎重に見極める必要があります。

また、個別銘柄に集中投資することの危険性が浮き彫りになりました。特定セクターや企業の思想傾向に依存せず、ETFやインデックスファンドを活用した分散投資が望ましいとされます。特に、EVや自動運転のように政策に左右されやすい分野は、市場全体をカバーする手段でリスクを抑えることが有効です。

9. まとめ

2025年6月5日のテスラ株急落は、イーロン・マスク氏とドナルド・トランプ氏の政治的対立から生じた「政府補助金・契約削減リスク」が直接的な引き金でした。その結果、テスラは一日で約22兆円の時価総額を失い、時価総額1兆ドル割れという歴史的な一幕を迎えました。

今後、テスラは政府補助金の廃止を前提に価格戦略やコスト構造を再構築し、中国や欧州での競争に対応する必要があります。自動運転分野では規制当局との協調が求められ、AI技術の優位性を維持するための投資を継続しつつ、より多角的なビジネスモデル構築が課題となります。

投資家にとっては、「経営トップの発言リスク」や「政策リスク」を軽視せず、分散投資を通じてリスク管理を徹底することが求められます。今回の事件は、テクノロジー企業が抱える政治的・規制的リスクの大きさを改めて浮き彫りにし、企業と投資家がともにリスク管理を強化する必要性を示した出来事と言えるでしょう。

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