トランプ氏とマスク氏 急速に決裂
2025/06/06 (金曜日)
国際ニュース
トランプ氏とマスク氏、急速に決裂 「失望」「恩知らず」と応酬激化
トランプ米大統領は5日、減税法案をめぐって起業家イーロン・マスク氏から批判を受けていることについて「非常に失望している」と述べた。マスク氏はトランプ氏への個人攻撃も強めており、親密だった2人の関係は急速に決裂へと向かおうとしている。
マスク氏はこの日も「私がいなければ選挙に敗れていた」「恩知らずだ」などとトランプ氏への批判を立て続けに投稿。これを受けてトランプ氏も、マスク氏の企業への補助金や契約の打ち切りを示唆するなど、SNS上での2人の応酬は泥沼化している。
トランプ政権で「政府効率化省」を率いてきたマスク氏は退任したばかり。「大統領の友人であり助言者であり続ける」と述べていたが、トランプ氏の肝いりの大型法案への不満をきっかけに、急速に対立を強める態度に転じている。
2025年6月5日、トランプ米大統領と起業家イーロン・マスク氏とのあいだで、SNS上のやり取りが泥沼化し、両者の関係が急速に破綻しつつあることが報じられました。発端はトランプ政権が推進する大型減税法案を巡る批判で、マスク氏が同法案に対して「愚策であり、米国を破綻させる」と痛烈に非難し、トランプ氏は「非常に失望している」と応酬。さらに、トランプ氏はマスク氏が率いる企業への補助金や契約の打ち切りも示唆し、対立の構図が鮮明になっています。本記事では、両者のこれまでの関係性や、今回の対立が生じた背景・歴史的経緯、そして米中関係を巡る文脈ではなく「政権与党とテック企業トップの対立」という新たな構図がもたらす影響について、2000文字以上で詳細に解説します。
イーロン・マスク氏はかつて、トランプ大統領と比較的親密な関係にありました。マスク氏は2016年の選挙戦終盤からトランプ氏を支持し、当選後にホワイトハウスへ招かれました。2017年には「政府効率化省(Department of Efficiency)」(通称“DOGE”)や「アメリカ宇宙会議(National Space Council)」などの諮問委員会に参加し、宇宙開発政策や行政改革に関する助言を行っていました。マスク氏が退任するまでの間、トランプ政権はSpaceXへのNASA向け宇宙輸送契約や、テスラに対するEV普及支援策などを進め、両者は「政権とテック業界トップの良好な関係」として注目されていました。
しかし、マスク氏の発言は必ずしもトランプ政権と一致していたわけではありません。環境規制や移民政策、再生可能エネルギー推進の姿勢などで立場が異なることもしばしばありました。それでも、マスク氏は「大統領の友人であり助言者であり続ける」と表明し、トランプ氏も当初はマスク氏のアドバイスを重視していました。だが、政権の看板政策である大型減税法案が誕生すると、マスク氏は次第に批判的な立場に傾き始めます。
トランプ政権が2025年に成立させた大型減税・歳出法案は、通称「ビッグ・ビューティフル・ビル(大きくて美しい法案)」と称され、企業減税や歳出拡大を柱とする超大型の経済パッケージでした。法案には主に以下のような項目が含まれていました。
とりわけ「EV税額控除の削減」は、自動車業界だけでなく、マスク氏が率いるテスラ社にも直接影響を与える中心的な論点となりました。マスク氏はこれまで「EV普及による環境改善が最優先」と主張してきたこともあり、事実上、テスラへの追い風となっていた税制優遇の大幅縮小に強い危機感を持ちます。BP社やGM、フォードなど従来型自動車メーカーにも一定のメリットがある一方で、EVメーカーにとっては逆風となるため、マスク氏はSNSで度重なる非難を繰り返すようになりました。
マスク氏の削減法案への批判は、2025年5月下旬頃からSNS(X、旧Twitter)を通じて強まっていきました。具体的には次のような投稿が確認されています。
これらの投稿は、マスク氏が政権内から離脱した後も周期的に繰り返され、世論の一部を巻き込む影響力を持ちました。実際、5月30日にはブルームバーグ誌が一面で「Elon Musk Urges Americans to Help ‘Kill’ Trump Tax Cut Bill(マスク氏、トランプ減税法案を“葬り去れ”と呼びかけ)」と報じ、共和党内でも財政タカ派(フィスカル・ホークス)が公然と法案への懸念を示すに至っていました。その結果、与野党双方が議会承認手続きの遅れに直面し、法案の成立時期が先送りされる可能性さえ浮上しました。
5月5日、イーロン・マスク氏がSNSで連続してトランプ政権を批判したことを受け、トランプ大統領はホワイトハウスで「非常に失望している」と述べました。この「失望表明」は、かつてマスク氏を「友人であり助言者」と公言していた発言から急転したものです。大統領は同日の記者会見で次のように語っています。
「私はイーロンに多くのチャンスを与え、私の政権で重要な役割を担ってもらった。しかし、彼がこの大型法案を批判し続けるなら、我々は彼の企業への補助金や政府契約を見直さざるを得ない。それが我々の財政を守る最も簡単な方法だからだ。」
これにより、マスク氏が率いるSpaceXやテスラに対して、連邦政府の補助金凍結やNASA向け宇宙輸送契約の打ち切りも示唆されました。トランプ政権下ではSpaceXが民間宇宙船によるISS(国際宇宙ステーション)への有人輸送を請け負い、テスラもインフラ整備やEV普及策で複数の連邦補助を受けてきました。そのため、トランプ氏の発言は「政権と大手テック企業トップの直接的な対立」を鮮明化し、業界関係者や株式市場にも衝撃をもたらしました。
トランプ大統領とマスク氏の応酬が表面化した5月5日の米株市場では、テスラ株が14%急落し、時価総額は約1500億ドル(約21兆5300億円)を失いました。具体的には、
ウォール街のアナリストは、「もしトランプ政権が本当にSpaceXやテスラへの契約を打ち切れば、両社の収益モデルは完全に崩壊する」と警鐘を鳴らしています。テスラは電気自動車販売のほか、米各州の補助金や連邦税控除を大きく活用してきました。マスク氏自身も「大型減税法案から無駄な支出が削減されるなら、EV税控除の廃止は受け入れられる」と発言していましたが、実際には法案の中身が想定と大きく異なり、結果的に自社への逆風に転じたとみられます。
一方、業界内では「トランプ政権とテック企業トップの対立は、『政権とハイテク産業が協調』というこれまでの常識を根底から覆す動きだ」という指摘があります。シリコンバレーのベンチャーキャピタルは、「米国のイノベーションには、政府の安定した政策支援が必要だ」としながらも、「特定の企業トップが政権と激しく対立する状況は、規制や政策の不確実性を高める」と懸念を強めています。
今回の対立を生み出した主な争点は次のとおりです。
このように両者の主張は根本的に対立しており、今後の米政界において「大手テック企業とホワイトハウスの力関係」を大きく揺るがす展開が予想されます。
マスク氏は1971年生まれの実業家であり、PayPal創業を皮切りにTesla MotorsやSpaceX、Neuralink、The Boring Companyなどを次々と立ち上げてきました。特にSpaceXはNASAの公式契約を獲得して商業宇宙輸送を成功させ、テスラは電気自動車市場を牽引してきました。こうした成果により、トランプ政権でも「アメリカの技術力と雇用を守るキープレイヤー」として重宝されていました。
2017年1月、トランプ大統領就任後間もなくマスク氏がホワイトハウスに招かれ、「国家宇宙評議会(National Space Council)」のメンバーに就任。当初は「火星移住計画」や「月面基地建設」など、将来の有人宇宙飛行を前提とした政策議論が行われ、マスク氏はその先鋭的なビジョンを政権に伝えていました。しかし、2020年半ばには「政府効率化省(Department of Efficiency)」や「経済諮問委員会(Economic Advisory Council)」など、複数の諮問委員会を退任。理由として「政権の環境政策や移民政策に異論がある」ことを挙げており、その時点で両者の関係はやや冷却化しつつありました。
それでもマスク氏は「大統領の友人である」という言葉を繰り返し、当初は政権側との距離を維持しようとしていました。しかし、2025年に入り経済・環境・イノベーションをめぐる政策対立が顕在化し、大型減税法案でEV補助の大幅カットが決定的になったことで、一気に関係性が破綻した格好です。
両者の対立は単に「政権トップと企業トップの喧嘩」にとどまらず、以下のような広範な影響をもたらす可能性があります。
これらはすでに株価や投資マネーの動向からも一部観測されており、米国経済の回復基調やイノベーション競争力に影響を与える要因として注視されています。
トランプ大統領とイーロン・マスク氏の対立は、当面さらにエスカレートすると見られます。以下のようなシナリオが想定されます。
いずれのシナリオでも、米国内外の企業は「政権の動向による政策リスク」を再認識し、投資計画や研究開発戦略を見直す必要があります。また、マスク氏のような巨大企業トップが政権と対立関係に入ること自体が、これまでの常識を覆す出来事であり、今後は企業経営と政治の距離感がより一層厳しく問われる時代が到来すると言えます。
2025年6月5日のトランプ大統領とイーロン・マスク氏の応酬は、かつて蜜月関係にあった両者が「減税法案」をきっかけに急速に決裂へと向かう出来事でした。大型減税法案に盛り込まれたEV税控除の削減がマスク氏の神経を逆撫でする形となり、マスク氏は「米国を破綻させる愚策」と強く批判。これに対しトランプ氏は「我々の予算を守るため、彼の企業への補助金・契約を打ち切る」と応じ、両者の対立は泥沼化しています。
今回の対立は、米国のイノベーション政策やEV産業、自動車市場、さらには政権とテック企業のパワーバランスに深刻な影響を及ぼす可能性があります。テスラ株の急落が示すように、政権の意向が即座に市場に反映される状況では、企業は政策リスクをより厳しく見極める必要があります。また、マスク氏が法的手段に訴えれば、訴訟合戦が長引き、さらなる混乱を招くかもしれません。
しかし一方で、マスク氏側も「将来的に政権と建設的な関係を構築する余地は残している」との見方もあります。マスク氏は過去にもホワイトハウスとの協力経験があり、科学技術や宇宙開発での協働を重視してきました。今回の対立はあくまで「減税法案」という特定政策への反発であり、政権交代や法案修正を通じて、再び協力関係に戻る可能性も排除できません。
いずれにせよ、トランプ大統領とイーロン・マスク氏の対立は、2025年以降の米国経済や国際テック業界に大きな影を落とす出来事です。今後の動向次第では、米国だけでなく世界中の株式市場や産業構造に影響を与える可能性があります。両者の“決裂”からどのような教訓を得るのか、企業経営者や投資家、政策立案者は注視を続ける必要があるでしょう。
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