ドイツ下院「難民の家族呼び寄せ」2年間停止可決、メルツ新政権の移民政策厳格化の一環
2025/06/28 (土曜日)
国際ニュース
対象となるのは、国連難民条約で保護の対象とならないものの、人道上の理由で滞在が認められた難民。シリア難民など約38万人に上るとされる。未成年者や健康上の理由など特別な事情がない限り、原則2年間、家族を呼び寄せることができなくなる。
ドイツは2015年の欧州難民危機を受け家族の呼び寄せを制限しており、現行では月最大千人の上限を設けていた。
メルツ政権は先月、移民排斥を掲げ台頭する右派政党の支持層
2025年6月27日、ドイツ連邦議会(下院)は「補完的保護(Subsidiary Protection)」を受ける難民約38万8千人を対象に、家族呼び寄せを最長2年間停止する法案を賛成多数で可決した。賛成444票、反対135票の大差で可決され、参議院(連邦参議院)を経て7月にも発効する見通しだ。内務相アレクサンダー・ドブリントは「難民流入の抑制と密輸ネットワーク防止が目的」と説明したが、人道上の懸念も強い。
1991年のEU難民条約実施後、ドイツは難民保護法を整備し、難民認定(難民条約該当)と「補完的保護」の二階建て体制を導入。補完的保護は紛争地域出身者などを対象に人道的理由で認められ、難民認定ほど強固ではない。これまで補完的保護者には年間最大1,000人の家族呼び寄せが認められ、定住と統合を支えてきた。
今年5月に就任したクリスティアン・メルツ首相(CDU)は選挙戦で「移民の抑制、治安回復」を掲げ、野党時代から主張してきた厳格路線を政権運営に反映。内務相ドブリント(CSU)と連携し、国境管理強化、申請手続き迅速化、仮放免者の居住制限などを次々打ち出している。家族呼び寄せ停止は「合法的移民ルートを閉ざすことで密入国を減らす」という政府の意図が色濃く表れた一手だ。
EUとしては1997年家族結合指令(Directive 2003/86/EC)で「家族統合権」を認める一方、加盟国に例外規定を許容。フランスやスイスも難民庇護者の家族呼び寄せ制限を実施してきたが、完全停止は異例。英国ではすでに2016年に「最低所得要件」を導入し、所得水準未達者の呼び寄せを抑制している。
中道左派・緑の党や社民党は「家族分断は縮むべきでなく、国の名誉に関わる」と非難。北部バイエルン州では市役所前で抗議集会が開かれ、数百人が「難民は歓迎」とプラカードを掲げた。一方、極右・AfDは「政策は不十分」と更なる制限強化を要求し、政治的対立が一層鮮明化している。
メルツ政権は来年末までに「難民法全体改革」を計画し、難民審査の迅速化、滞在資格の細分化、統合プログラムの義務化などを検討中。家族呼び寄せ停止の運用後、「難民コミュニティの分断」「ポスト停止期間後の一斉申請集中」など二次的影響が懸念される。欧州全体の移民政策動向とも連動し、ドイツの試みが他国のモデルとなる可能性もある。
2年間の家族呼び寄せ停止は難民支援を大きく後退させる政策であり、ドイツ社会の分断と国際的批判を招くリスクを孕んでいる。メルツ新政権は「管理可能な移民」を目指すが、家族統合を通じた統合支援の重要性を再検証する必要があるだろう。
コメント:0 件
まだコメントはありません。