レアアース輸出再開に習氏同意 米
2025/06/07 (土曜日)
国際ニュース
レアアース対米輸出再開に習主席が同意、トランプ大統領が明かす
2025年6月6日、ドナルド・トランプ米大統領は、習近平中国国家主席がアメリカ向けレアアース(希土類元素)の輸出再開に同意したと発表しました。両首脳は前日の5日に電話会談を行い、米中貿易摩擦の焦点のひとつだった戦略物資のひとつ―レアアースをめぐる対立に関して合意に至ったことになります。本稿では、今回の合意が成立するまでの経緯や、レアアースの重要性、歴史的背景、今後の貿易交渉への影響を詳しく解説します。
レアアースとは、ランタンやネオジム、ジスプロシウムなど17種類の希少金属の総称です。スマートフォンや電気自動車のモーター、風力発電機の永久磁石、航空機エンジン、ミサイル誘導システムなど、先端技術製品の製造に欠かせず、「産業のビタミン」とも呼ばれます。一方で、精錬過程で大量の毒性廃水が発生し、環境負荷が高い点も課題となっています。
世界全体のレアアース生産量のうち、中国は約80%以上を占めています。2010年には日本との外交摩擦を背景に、国内企業への輸出許可を制限し、世界市場で価格が約6倍に急騰した経緯があります。また、2018年以降の米中貿易戦争では、トランプ政権が中国製品に高関税を課したことへの報復措置として、レアアースの輸出規制に言及しましたが、国際的な批判と代替調達の動きが強まり、実効性は限定的でした。
トランプ政権は2018年7月に中国製品に対する第1弾関税(対象約340億ドル)を発動し、その後も段階的に拡大しました。中国は報復として、米国産大豆や自動車に高関税をかける一方で、レアアース規制をちらつかせ、交渉カードとして活用しました。米国は安全保障上のリスクを強調しつつ、ベトナムやオーストラリアからの輸入拡大や国内生産復活に向けた投資支援策を打ち出しました。
6月9日のロンドン会合に先立ち、米中は5月にスイス・ベルンで財務長官、商務長官、USTR代表らによる閣僚級協議を実施しました。ここでは主に関税措置の緩和や非関税障壁、産業補助金について議論が行われ、レアアースについては「市場安定化のための条件調整を継続する」との合意文言にとどまっていました。
6月9日にロンドンで開かれる閣僚協議は、スイス会合以来の直接対面での協議となります。財務長官ベッセント氏、商務長官ラトニック氏、USTR代表グリア氏ら実務責任者がそろい、レアアース再開の具体的条件や関税撤廃のスケジュール、法的枠組みの整備について詳細な詰めを行う見込みです。英国開催はEU復帰後のロンドンのプレゼンス向上策としても注目されています。
これらの条件が合意されれば、米国企業は安定的な部材調達が可能となり、対中国依存の緩和につながります。
レアアースを巡る米中の緊張は、2010年の日本向け輸出規制以来二度目。日本はその後、代替資源の確保やリサイクル技術の開発を進め、現在では南アフリカやオーストラリアなどからの輸入比率を高めています。米国も1980年代にレアアース鉱山を閉鎖して以来、再稼働を検討し、2021年にはインドと共同開発協定を結ぶなど多国間協力を強化しました。
トランプ大統領と習主席の合意は、米中貿易戦争の重要局面を乗り越える一歩となる可能性があります。レアアースは「ポスト・コロナ」「グリーンエネルギー」「軍需技術」など複数の産業分野に直結する戦略資源であり、両国の政策動向が世界市場に大きく影響します。今後のロンドン閣僚協議での合意内容の具体化や、第三国を巻き込んだ多角的サプライチェーン形成が注目されるでしょう。
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