英で観光公害 自宅を黒く塗る住民
2025/06/07 (土曜日)
国際ニュース
「ノッティングヘルだ」 カラフルな家を黒く塗る住民 ロンドン
ノッティングヒルはロンドン西部ケンジントン・アンド・チェルシー区に属する地区で、19世紀後半からヴィクトリア朝様式のテラスハウスが建ち並ぶ住宅街として発展しました。第二次世界大戦後は家賃の安さから移民や芸術家が集まり、1958年のレース騒乱を契機にカリブ海系英国人らが定住、コミュニティを形成。地域の治安と多文化共生を訴えたカーニバル前身イベントが翌1959年に開催され、1966年から現在のストリートカーニバルとして定着しました :contentReference[oaicite:0]{index=0}。
ノッティングヒルの代表的風景であるパステルカラーの外壁は、住民が自宅を個性的に彩ることで地域のアイデンティティを演出したことが始まりとされます。1970年代以降のジェントリフィケーション(高級化)の波とともに、アートギャラリーやカフェが増加し、外観の美しさが街のブランド価値を高める要因となってきました :contentReference[oaicite:1]{index=1}。
1999年公開のロマンティック・コメディ映画『ノッティングヒルの恋人』は、ジュリア・ロバーツ演じるハリウッド女優とヒュー・グラント演じる書店主の恋を描き、撮影にも実際のポートベローロードなど地区内のロケ地が使用されました。興行収入約3.6億ドルの大ヒットを受け、世界中から観光客が殺到し、「映画の舞台訪問」が街の新たな魅力として定着しました :contentReference[oaicite:2]{index=2}。
近年はInstagramやTikTokをはじめとするSNSで「#NottingHill」「#ColorfulHouses」などが拡散され、インフルエンサーや観光客が写真撮影を目的に訪れるようになりました。ハッシュタグ効果によりコロナ禍以降も急増した訪問者は、プライベートな住宅街の雰囲気を壊し、ごみの放置や私有地への侵入、騒音などの問題を引き起こしています :contentReference[oaicite:3]{index=3}。
観光客のマナー違反や大量訪問は「オーバーツーリズム」と呼ばれ、ヨーロッパの人気観光地で深刻化しています。ノッティングヒルでは、狭い路地に行列ができるほか、住民が写真撮影のために玄関や窓の前に長時間居座る事例も頻発し、日常生活や通勤通学に支障をきたしています :contentReference[oaicite:4]{index=4}。
こうした状況に対し、ノッティングヒルの一部住民は自宅の玄関周りや外壁を黒く塗りつぶす動きを開始。黒色を選ぶことで写真映えを抑え、「見た目を変えればインフルエンサーも来なくなるはず」という意図が込められています。住民グループは「私有地であることを主張するサイン設置」「スマートドアベルやフェンス設置」と合わせて啓発活動を行い、地元議会にも対応を求めています :contentReference[oaicite:5]{index=5}。
欧州ではベネチアやアマルフィ海岸の町々でもオーバーツーリズム対策として入場料導入や観光客制限が議論され、イタリアの村では観光ガイド付きツアーのみを許可する試みも行われています。日本でも京都や奈良など伝統的街並みで訪問マナーを呼びかける取り組みが行われ、地域と観光の共生モデル構築が求められています。
ノッティングヒルでは、観光客と住民の利益を両立させるために「住民主体の観光ルール策定」「SNSプラットフォームとの連携によるマナー告知」「周辺エリアへの流動誘導」が検討されています。行政は「プライベートプロパティ」の明確化や「観光課税」を視野に入れつつ、地域ブランドの維持と住民生活の尊重を両立させる新たなガバナンスを模索しています。
コメント:0 件
まだコメントはありません。