密告奨励、急増する監視カメラ 香港で消えていく自由 中国本土並みの「監視社会」へ
2025/06/30 (月曜日)
国際ニュース
中国の習近平政権が香港の民主化運動などを取り締まる目的で、「香港国家安全維持法(国安法)」を導入・施行してから30日で5年となった。同法違反など国安関連で332人が逮捕され、165人に有罪判決が下された。中国・香港政府は「愛国者治港」(愛国者による香港統治)が進んだと統制強化を正当化する。しかし香港市民にとっては「国安治港」の下、一国二制度で認められていた〝自由・香港〟のシンボルが消えていく5年だ
2025年6月30日で、習近平政権が香港の民主化運動取り締まりを目的に導入・施行した「香港国家安全維持法」(以下「国安法」)から5年を迎えた。中国・香港政府は、国安法違反で332人を逮捕、165人に有罪判決を下したと発表し、「愛国者治港」の進展を強調している。しかし市民の間では、言論・集会・報道の自由が次々と制限され、一国二制度下の「自由香港」が急速に凋落した五年間だった。
2019年の大規模民主化デモに対応し、香港政府は2020年6月30日に国安法を全国人民代表大会常務委員会で可決・公布。翌7月1日未明、香港政府はローカル法として即座に施行した。民主派議員の資格剥奪や取締り権限の中央政府移譲、秘密法廷の設置など、立法・司法・行政の三権にわたり強権的枠組みを導入した。
2020年7月以降、民主派立法会議員や活動家、学生リーダーらが次々と逮捕・起訴された。ジョシュア・ウォン氏やアグネス・チョウ氏をはじめ、新聞「蘋果日報」創業者ジミー・ライ氏は「外国勢力と結託」として収監。弁護士や学者、ジャーナリストも標的となり、約9割の主要民主派政治家が国外亡命や引退を余儀なくされた。
国安法適用で、批判的メディアは相次ぎ閉鎖に追い込まれた。親中派資本に買収された新聞社がプロパガンダ機関と化し、国際特派員のビザ更新拒否やSNS上の投稿削除要請が常態化。市民は自己検閲を強いられ、政府批判を公然と口にできない状況となった。
香港教育局は2021年から「国民教育」を義務化し、小中学校の教科書に「祖国愛」を刷り込む内容を導入。民主化運動を肯定的に扱った書籍は検閲・撤去され、教師は「愛国者以外教壇に立つな」と通達された。若年層の意識形成に対する統制が強まり、自由な学びの場が消えつつある。
多くの企業が「政治リスク」を懸念して香港から本社機能を移転し、金融機関も人材流出に直面。国安法下での取引リスクを避けるため、欧米企業の撤退やリスクプレミアム上昇が続いた。結果、2020年のGDPは前年比6.1%減、2023年までに回復基調にはあるものの、国際金融センターとしての魅力は大きく損なわれた。
米国やEUは制裁対象を拡大し、米国は香港人の入国査証自由化や金融制裁を実施。英国は「香港市民居住権」を創設し約40万人の移住を支援。日本政府も入管政策で特別滞在資格を付与する検討を行ったが、立法措置は未完。国際的な孤立が深まる一方、中国は「内政干渉」として反発を強めた。
基本法に規定された高度な自治と市民の自由は、国安法の施行で事実上解体された。立法会選挙は親中派のみが参加する形に再編され、司法の独立も揺らいでいる。香港人の声を反映する政治制度は名目的にしか残っておらず、「一国二制度50年」の期限が迫る2047年までに、自由と自治が完全に消失するとの懸念が強い。
香港国家安全維持法の施行5年は、一国二制度の理想が現実に圧殺された五年間でもあった。332人の逮捕、165人の有罪判決は、政府に異を唱えるすべての市民を萎縮させる威嚇の数字だ。言論・集会・報道・教育への統制は、市民生活の隅々にまで及び、香港を「あるべき自由」を奪う都市に変貌させた。国際金融センターとしての地位は揺らぎ、香港人の大量移住が続く中、一国二制度の後退は不可逆的と言っても過言ではない。今後、国際社会が香港の自由をどう支援し、香港人がいかに自らのアイデンティティを再構築していくかが、残された最重要課題となるだろう。
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