小学校授業に中華民族学ぶ「人文科」 締め付け強化で「自由都市・香港」は「警察都市」に
2025/06/30 (月曜日)
国際ニュース
香港国家安全維持法(国安法)施行から30日で5年となった。この間、香港の政治、教育、経済は様変わりした。中国による締め付けが強まり、香港は「自由都市」から「警察都市」へと変貌した。
香港政府は2023年10月の施政報告で、小学校の「常識科」を廃止し、2025/26学年から「人文科」と「科学科」を導入すると発表した。人文科では従来の社会・公民的内容に加え、中国の歴史・文化・国家安全教育を組み込み、「中華民族への帰属意識」を養うことを目的とする。この動きは、近年の国家安全維持法(国安法)の施行に伴う言論・集会の制限強化の一環であり、“自由都市”としての香港から“警察都市”への転換を象徴している。
香港小学校人文科課程は以下の6つの学習範疇で構成される:健康と生活、環境と生活、理財と経済、社会と公民、国家と我、世界と我。うち「国家と我」では、「中華民族の歴史と文化」「愛国主義」「国家安全法の意義」「人民解放軍駐港部隊」といった項目が新設され、国家への帰属意識と安全保障意識の醸成が図られる。
香港では2012年に「道徳及国民教育(Moral & National Education)」導入が学界・市民の反発で撤回された歴史がある。しかし2020年以降、国家安全維持法のもとで教育の枠組みが大きく変容。自由な討論を重視してきた「常識科」は「国家意識教育」の障壁とみなされ、全面刷新に至った。今回の人文科導入は、そのリベンジ的措置ともいえる。
2020年の国安法施行から民主派活動家や言論人への逮捕・起訴が332人、165人の有罪判決と続き(2025年6月時点)、市民の集会・報道・司法の自由が急速に後退した。警察の役割も「都市治安」から「国家安全の守護者」へと拡大し、デモや言論を抑え込む根拠となっている。李家超行政長官自身が警察を「国安力量」と位置づけた発言もあり、市街地には治安部隊の姿が日常化した。
集会の事前許可制や厳格な路上規制、ヘリコプター監視、フェイスマスク禁止令など、警察の権限は拡大の一途をたどる。国安法下の初の大型祝日「十一国慶節」では市民の横断幕掲出や集会がほぼ全面的に禁止され、「警察都市」と呼ぶにふさわしい異様な光景が展開された。
教育における愛国主義強化は国際的にも批判を浴びる。欧米各国は香港の高度な自治と表現の自由が後退していると懸念を表明し、日本でも香港の学童向けに提供されてきた文化交流プログラムの継続が危ぶまれている。また、現地の保護者からは「子どもに政府批判を考えさせない教材を強制するのは祖国への愛情ではなく、思考停止を招く」との声も上がる。
「人文科」導入は一見、総合的学びを深める教育改革と見えるが、その核心には国家統制の強化と市民統合の狙いが透ける。自由な討論や多元的歴史観が重視されてきた香港の教育現場は、大きな転換期を迎えた。今後は、批判的思考を養う「自由都市」から、国家の枠組みと安全維持を最優先とする「警察都市」への一方的な移行が定着するか否かが、香港社会の未来を左右する重要な分岐点となるだろう。
コメント:0 件
まだコメントはありません。