バカ女と言われ 介護カスハラ実態
2025/06/08 (日曜日)
経済ニュース
9割の介護士「経験あり」“カスハラ被害”の実態は?当事者「バカ女!と言われたり、杖で叩かれたり…」 業界特有の実情どう対策?
近年、介護現場で働く約9割の介護士が「カスタマーハラスメント(いわゆる“カスハラ”)」を経験しているとの調査結果が報告されています。利用者や家族から「バカ女!」などと罵倒されたり、杖で叩かれたりする暴力行為も後を絶ちません。高齢化社会の進展とともに需要が増す一方、現場の過酷さが顕在化し、職員の離職率上昇やサービス質の低下を招く要因として問題視されています。
「カスハラ」はカスタマーハラスメントの略称で、介護サービスの「お客様」に当たる利用者やその家族から、業務上不当な要求や暴言・暴力行為を受けるハラスメントを指します。飲食店や小売業で問題視されてきたクレーム型のハラスメントが、高齢者ケアの現場にも広がりを見せています。
介護サービスは「利用者本位」の理念が強く、職員が利用者の尊厳を最優先に配慮する一方で、利用者・家族の要望に応えようと過度な我慢を強いられる風土があります。人手不足が慢性化し、一人ひとりの負担が増す中で、業務時間外までクレーム対応に追われるケースも少なくありません。
1970年代に始まった在宅介護サービスから、1990年代の介護保険制度導入で訪問・通所サービスが急増。社会保障費抑制の旗印の下、サービス拡充と効率化が同時に求められ、介護職の専門性と負担が増大しました。しかし賃金や待遇面では他産業に比べて遅れをとり、「低賃金で重労働」というイメージが定着。利用者側も職員への尊重よりコスト意識を優先しやすく、クレーム対応の過酷さを助長しました。
多くの介護事業所では、職員への研修やマニュアル整備、相談体制の構築が進められていますが、現実には人手不足ゆえに研修時間の確保が難しく、マニュアルが形骸化するケースもあります。また、管理職自らが利用者や家族に直接対応しなければならないため、職員の“相談先”を形式的に設けただけにとどまっている事業所も少なくありません。
介護現場でのカスハラ被害は、職員の心身を疲弊させる深刻な社会課題です。利用者本位のサービスを守りながら、職員が安心して働ける環境を整備するには、法制度の強化、財政的支援、人材育成・処遇改善など、官民を挙げた包括的な対策が不可欠です。今後も継続的に実態を把握し、現場の声を政策に反映させる仕組みを築くことが求められます。
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