「イスラム教徒が『邪教』と放火」は誤り、大阪府神社庁が認める 宮司と食い違いも
2025/06/18 (水曜日)
拡散されたのは、府神社庁が各神社などに宛てた注意喚起の内部文書。大阪市内の神社で6日に放火事件があり、「犯人はイスラム教徒で『邪教だから火をつけた』と供述している」と記していた。
一方、府警西淀川署によると、文書に記された神社で同日、落ち葉などが燃えるボヤ騒ぎがあったが、子供のいたずらとみられ、「邪教」という供述など宗教的な背景は確認されていない。
府神社庁は、文書の作成経緯を「現場の宮司への
2025年6月6日、大阪市内の神社で発生した軽微なボヤ騒ぎをめぐり、「犯人はイスラム教徒で『邪教だから火をつけた』と供述している」という内容の内部注意喚起文書が、大阪府神社庁から各神社へ向けて配布されました。この文書はX(旧ツイッター)上で拡散され、宗教的偏見に基づく誤情報として大きな波紋を呼びました。しかし、府警西淀川署の調べでは、ボヤは子どものいたずらによるもので、宗教的動機はまったく確認されていませんでした。本稿では、今回の誤情報が生まれた経緯、神社庁と警察間の連絡体制、宗教間トラブルの過去事例、情報拡散のリスク、再発防止に向けた対策などを、多角的に解説します。
拡散元とされる文書は、6月7日付で大阪府神社庁が各神社寺院に宛てた注意喚起文書のコピーです。文書には「大阪市内の神社で6日に放火事件があり、『犯人はイスラム教徒で邪教だから火をつけた』と供述している」と記載されていました。しかし実際には、同神社で起きたのは落ち葉などの自然発火とみられる小規模なボヤ騒ぎであり、放火事件や宗教的動機の供述は一切確認されていません。文書はX上で拡散され、SNS利用者の間で真偽不明のまま拡大解釈されました。
神社庁側の説明によれば、被害を受けた神社の宮司が「(見聞きした限りで)犯人はイスラム教徒とされ、『邪教』という言葉があった」と神社庁に報告したのが発端でした。しかし、その報告はあくまで「伝聞」であり、確認作業が不十分なまま文書化されて配布されていた点が問題視されます。一方、府警西淀川署は「通報を受けて事情聴取した結果、子どものいたずらで宗教的背景は確認されなかった」とし、警察から神社庁へ訂正や注意喚起が迅速に行われなかったため、誤情報が長時間出回る結果となりました。
日本国内では、戦後以降も時折、特定宗教を「異教」「邪教」とする偏見に基づく嫌悪事件が発生してきました。1970年代のある仏教系新宗教施設への放火未遂や、2000年代のキリスト教系教会への落書き事件など、宗教施設を標的にしたトラブルは歴史的に繰り返されています。こうした背景の中で、「イスラム教徒=テロ・放火」という固定観念が社会に根付きやすい土壌があり、誤情報は一気に炎上しかねない危険性をはらんでいます。
今回の文書拡散は、SNSユーザーが「ショッキングな情報」に即反応し、発信者の確認をせずにリツイートしたことが主因です。SNS上の情報は、真偽のほどが判断される前に大量拡散する傾向があり、誤情報はあらゆる人々に不安や憎悪を煽るリスクがあります。とくに宗教的偏見を助長する内容は、社会的分断やヘイトクライムを誘発しやすく、慎重な対応が求められます。
行政機関や宗教法人が内部文書で誤情報を流布した場合、名誉毀損や信用毀損の責任が問われる可能性があります。神社庁は文書配布後に誤りを認め、公式サイトや各神社への訂正通知、SNSでの謝罪文発信を行いました。しかし、一次情報の裏取りや警察への再確認を怠ったことが、組織としての危機管理体制の甘さを露呈しました。
宗教施設を取り巻く情報は、慎重な扱いが求められます。大阪府神社庁の内部文書誤記は、確認不足と組織の危機管理体制の甘さが招いた人災と言えます。今後、宗教コミュニティと行政・警察が連携を強化し、情報の裏取りプロセスを徹底するとともに、多様な宗教・文化を尊重する共生社会の意識醸成が急務です。
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