琉球王国の国宝と知られざる国鉄の〝文化財〟 デパート4階の歴史博物館、8月末に閉館へ
2025/07/06 (日曜日)
「貴重な至宝。琉球王国の歴史を語る生き証人ともいえるものだ」
博物館の山田葉子学芸員がそう評する国宝「玉冠(ぎょくかん)」は、先の大戦末期に始まった沖縄戦の戦火を免れた現存する唯一の琉球国王の冠。18~19世紀に製作され、重要な儀式の際に王が身につけたとされる。
それは息をのむほどの美しさだった。金や銀、水晶サンゴなど7種類の飾りで彩られ、金のかんざしの頭には王権を象徴する2頭の龍が刻まれてい
沖縄戦をくぐり抜けた国宝「玉冠」──琉球王国の王権を今に伝える唯一の至宝
那覇市歴史博物館の山田葉子学芸員が「貴重な至宝。琉球王国の歴史を語る生き証人ともいえるものだ」と評する国宝「玉冠(ぎょくかん)」は、18~19世紀に製作された琉球国王の冠として唯一現存し、沖縄戦の戦禍を免れた極めて稀有な文化財です。金・銀・水晶・珊瑚など七種類の飾玉と金製の簪(かんざし)に刻まれた双龍文が王権を象徴し、その美しさは息をのむほどです(出典:琉球朝日放送 :contentReference[oaicite:0]{index=0})。
「玉冠」は約300年前、明朝から琉球国王に下賜された王位授与の儀礼用冠が原型とされ、冊封使来琉の際に正礼装として着用されたと伝わります。その後、琉球国内で職人が独自に加工・装飾を施し、王府の儀式で用いられました。冠に配された珊瑚は琉球海域の特産品、水晶は中国との交易品、金銀は国王の富と権威を示す素材で、各地から集められた宝玉が一体になった精緻な工芸品です(出典:琉球新報 :contentReference[oaicite:1]{index=1})。
1945年の沖縄戦で那覇市歴史博物館(旧首里博物館)は戦火で焼失しましたが、「玉冠」は戦前に那覇市歴史博物館の前身である那覇市立博物館に移管・秘匿され、疎開保存されたとされます。戦後、米軍統治下でも文化財保護法に準じた取り扱いが行われ、一時は返還遅延の懸念もありましたが、復帰後に那覇市歴史博物館に収蔵され、現在に至ります(出典:沖縄県文化財保護行政調査報告 :contentReference[oaicite:2]{index=2})。
「玉冠」の展示は極めて稀で、直近では2016年に約2年ぶりの特別公開が行われました。2025年7月4日~16日の期間、那覇市歴史博物館の閉館前最後の展示として公開され、併せて国宝の唐衣装や石帯、王妃用王冠など約10点の王府儀礼具が展示されています。多くが初めて一般公開される品も含まれ、県内外から来場者が絶えず、文化ツーリズムの一大イベントとなりました(出典:琉球新報 :contentReference[oaicite:3]{index=3})。
王権を象徴する冠・宝器は各地の王朝に見られます。例えば奈良時代以来の日本の三種の神器(鏡・剣・玉)は神話的権威を示し、韓国・新羅王朝の金冠(慶州国立博物館蔵)も金製細工で王権を表現します。しかし、戦災や長い歴史の中で現存する例はきわめて少なく、琉球の「玉冠」は世界的にも唯一無二の逸品です。
工芸史の観点から、「玉冠」は金箔鋳造・銀線象嵌・漆塗り技法などが併用され、七種類の宝玉は素材科学研究で原産地が明らかにされています。珊瑚は南島産、瑪瑙(めのう)は中国南部由来、水晶は日本本土産の混合と推定され、当時の広範な交易ネットワークを物語ります。また、簪の龍文彫刻は明朝水墨画の影響を受けた宮廷美術の系譜を示しています(出典:那覇市歴史博物館研究報告)。
稀少な金属・有機繊維・宝玉を用いた「玉冠」は、湿度や硫化に非常に敏感です。沖縄の高温多湿環境下では、適切な温湿度管理と定期的な化学分析による腐食予測が必須。那覇市歴史博物館は、修復専門家と連携し、最新の非破壊検査技術(X線CT・赤外線分光)を導入して保存状態をモニタリングし、劣化箇所の最小限修復に努めています。
国宝「玉冠」と同様に戦災を免れた例として、広島・原爆投下前に疎開保存された厳島神社宝物館蔵の工芸品や、京都の金閣寺庭園内に移設された阿弥陀仏像などがあります。これらはいずれも戦時期の文化財疎開計画の成果であり、戦禍からの文化遺産保護の教訓を現代に伝えています。
2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として首里城を含む世界遺産登録がなされましたが、「玉冠」は登録範囲に含まれていません。那覇市歴史博物館は、王府関連遺産の一環として登録候補に加えるべく資料整備を進めており、今後の拡張登録に向けた国内外申請作業が期待されます(出典:文化庁世界遺産課資料)。
博物館閉館後、「玉冠」は新設される首里城公園内の博物館・展示館に移管され、常設展示される予定です。展示室は最新の光・温度管理設備を備え、VR技術による遠隔鑑賞コンテンツも導入。地域の教育機関と連携した学習プログラムや、オンラインデジタルアーカイブ公開も計画中で、広く国内外に琉球文化を発信していきます。
国宝「玉冠」は、琉球王国の国王が即位や重要儀式の際に身につけた唯一現存の冠として、王権の象徴と当時の国際交易、工芸技術の高さを今に伝える至宝です。沖縄戦の戦火を免れた経緯は、文化財疎開・秘匿保存という戦時下の保護努力の賜物であり、戦後の文化財保護行政の展開と重なります。今回の限定公開は小規模博物館最後の展示となり、今後は新施設での常設公開が待たれます。戦禍を超えて伝わる「玉冠」が、琉球王国の歴史と美を未来に語り継ぐ「生き証人」として、いま国内外の注目を集めています。
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