トランプ政権、不法移民をアフリカ南部エスワティニへ追放 ベトナム出身者ら5人
2025/07/17 (木曜日)
国土安全保障省の高官はX(旧ツイッター)への投稿で、5人はいずれも有罪判決を受けており「出身国が引き取りを拒否した」と主張した。
米メディアによると、トランプ政権は関税交渉なども利用し不法移民の受け入れをアフリカ諸国に迫っている。5日には不法移民8人を南スーダンに追放したと発表した。(共同)
2025年7月16日、産経ニュースは、トランプ米政権が不法移民の出身国とは異なる第三国であるアフリカ南部のエスワティニ(旧スワジランド)に、不法移民の犯罪者5人を追放したと報じた。この5人はベトナム、ジャマイカ、ラオス、キューバ、イエメン出身で、児童強姦や殺人などの重罪で有罪判決を受けた者たちだ。彼らの出身国が受け入れを拒否したため、米国はエスワティニを追放先として選択した。この異例の措置は、トランプ政権の移民政策の厳格化を象徴する出来事として注目を集めている。本稿では、この事件の背景、歴史的文脈、類似事例、そして今後の影響について詳しく解説する。
[](https://www.sankei.com/)産経ニュースによると、米国土安全保障省の報道官は2025年7月15日、X上で「エスワティニへの不法移民犯罪者の追放便が到着した。対象となったのは、出身国が受け入れを拒否したほどの犯罪者だ」と発表した。追放された5人は、いずれも重罪で有罪判決を受けた不法移民で、出身国が受け入れを拒否したため、米国は第三国への追放という異例の手段を取った。この決定は、トランプ政権が不法移民問題に対して強硬な姿勢を貫く中で行われた。
トランプ政権は、2017年から2021年の第一期政権時にも、不法移民の取り締まりを強化する政策を推進していた。例えば、2017年に施行された大統領令13768号では、不法移民の強制送還を迅速化し、犯罪歴のある不法移民を優先的に追放する方針が打ち出された。第二期政権(2025年~)でも、この姿勢はさらに強化されている。今回のエスワティニへの追放は、出身国が受け入れを拒否する場合に第三国を追放先とする新たなアプローチを示している。この背景には、米国国内での不法移民問題に対する世論の硬化や、トランプ支持層の強い反移民感情があると考えられる。
エスワティニが追放先として選ばれた理由は明確ではないが、米国とエスワティニの外交関係や、エスワティニが政治的に安定した小国であることが影響した可能性がある。エスワティニはアフリカ南部に位置し、人口約120万人、絶対君主制を採用する国だ。国際的な注目を浴びることは少ないが、米国との間で特定の協定が存在する可能性も考えられる。ただし、この措置は国際法や人権の観点から議論を呼ぶ可能性があり、今後の外交関係にも影響を与えるかもしれない。
米国の移民政策は、歴史的に国内の政治状況や国際関係によって大きく変動してきた。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、米国は「開かれた門」政策を採用し、多くの移民を受け入れてきた。しかし、1920年代には移民制限法が制定され、特にアジアや東欧からの移民が制限された。第二次世界大戦後、冷戦期には政治亡命者の受け入れが積極的に行われた一方で、不法移民の取り締まりも強化された。
1990年代以降、不法移民問題は米国の政治議論の中心に浮上した。1996年の「不法移民改革および移民責任法(IIRIRA)」は、不法移民の追放を加速させる法的枠組みを確立し、犯罪歴のある不法移民の強制送還を優先する方針を打ち出した。2000年代に入ると、9/11テロ事件を契機に国家安全保障の観点から移民政策がさらに厳格化され、ICE(移民関税執行局)が設立された。ICEは不法移民の逮捕・拘束・追放を担当し、トランプ政権下でその活動が特に活発化した。
トランプ第一期政権(2017~2021年)では、メキシコ国境の壁建設や「ゼロ・トレランス政策」など、不法移民に対する強硬な措置が次々と導入された。ゼロ・トレランス政策では、不法入国した親子が分離拘束されるケースが問題となり、国際的な批判を浴びた。今回のエスワティニへの追放は、こうした強硬政策の延長線上にあるが、第三国への追放という点で新たな局面を示している。過去には、グアテマラやホンジュラスなど中米諸国が「安全な第三国」として追放先となる協定が結ばれた例があるが、アフリカの国が選ばれたのは極めて異例だ。
第三国への不法移民追放は、他の国でも見られる政策だ。代表的な例として、オーストラリアの「オフショア処理」政策が挙げられる。オーストラリアは2001年から、不法移民や亡命希望者をナウルやパプアニューギニアの離島に設置された収容施設に送る政策を実施している。この政策は、不法移民の流入を抑止する目的で導入されたが、人権侵害や非人道的な扱いとして国際的な批判を受けた。特に、収容施設の劣悪な環境や、難民申請者の長期拘束が問題視された。トランプ政権のエスワティニへの追放は、オーストラリアのオフショア処理と類似しており、同様の批判が今後高まる可能性がある。
欧州でも、類似の動きが見られる。2022年、英国はルワンダとの間で、不法移民をルワンダに送る協定を締結した。この「ルワンダ計画」は、不法移民の英国への流入を抑止し、密航業者を牽制する目的で導入されたが、欧州人権裁判所や国連人権理事会から強い反対を受けた。英国の最高裁も2023年にこの計画を違法と判断し、ルワンダへの追放は実施されていない。トランプ政権のエスワティニへの追放は、こうした国際的な事例と比較して、規模は小さいものの、同様の法的・倫理的議論を呼ぶ可能性がある。
X上の投稿では、このニュースに対する反応が速やかに広がった。あるユーザーは、AFPBB Newsの記事を引用し、「トランプ政権、不法移民犯罪者5人をエスワティニに追放『野蛮過ぎて祖国が受け入れ拒否』」と投稿し、賛否両論を巻き起こした。支持する意見では、「犯罪者を国外に追放するのは当然」「米国を守るための必要な措置」との声が見られた。一方、批判的な意見では、「人権無視の非人道的な政策」「エスワティニに押し付けるのは無責任」との指摘もあった。これらの反応は、移民問題が米国社会でいかに分裂的なテーマであるかを示している。
今回のエスワティニへの追放は、トランプ政権の移民政策が単なる国内問題にとどまらず、国際的な影響を及ぼすことを示している。まず、エスワティニとの外交関係に影響を与える可能性がある。エスワティニは経済的に米国に依存しているわけではないが、国際社会での立場や人権問題を巡る圧力を受ける可能性がある。また、追放された5人がエスワティニでどのような扱いを受けるのか、十分な監視体制がない場合、人権侵害のリスクが高まる。
国内的には、トランプ政権の支持層にはこの措置が好意的に受け止められる可能性が高い。トランプは選挙戦で「不法移民による犯罪の増加」を強調し、強硬な政策を約カしていたため、今回の追放は支持層へのアピールとなる。一方で、リベラル派や人権団体は、この政策を非人道的として強く批判するだろう。特に、米国が第三国に不法移民を「押し付ける」形は、国際的な責任放棄と見なされるリスクがある。
国際的には、国連や人権団体がこの措置を注視する可能性が高い。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、難民や不法移民の強制送還に関して、送還先の安全性を確保するよう求めている。エスワティニがこの基準を満たしているかどうかは不明であり、今後、国際的な調査や批判が強まる可能性がある。また、他の国々が同様の第三国追放政策を模倣する可能性もあり、グローバルな移民政策に新たなトレンドを生むかもしれない。
トランプ政権によるエスワティニへの不法移民追放は、米国が不法移民問題に対して強硬な姿勢を続ける中で、第三国への追放という新たな手法を採用した事例だ。この措置は、国内の反移民感情に応える一方で、国際的な人権問題や外交関係に波及するリスクを孕んでいる。歴史的に見ても、移民政策は国家安全保障と人権保護のバランスを巡る議論の中心であり、今回のケースもその一例だ。オーストラリアや英国の類似事例から学ぶべき教訓は多く、今後、米国がどのように国際社会と協調しながら移民問題を解決していくかが注目される。エスワティニへの追放は短期的には支持を集めるかもしれないが、長期的には人権や外交上の課題を克服する必要があるだろう。
[](https://www.sankei.com/)
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