観光バブルで家賃倍増 宮古島の今
2025/06/09 (月曜日)
経済ニュース
宮古島“観光バブル”の代償──倍増した家賃、住めなくなる地元民……変わりゆく現実
ここ数年で「観光バブル」とまで呼ばれるほど急激に観光客が増えた沖縄県・宮古島。人口わずか約5万人の島に年間100万人超の観光客が訪れ、ホテルやリゾート開発が相次いだ一方で、地元住民の暮らしには深刻な影響が出ています。本稿では、宮古島観光ブームの歩みと背景、家賃・地価高騰を中心とした「バブル」の代償、地域社会や環境への影響、そして今後の展望を詳述します。
宮古島観光の転機は2015年の伊良部大橋開通です。この橋の開通で本島―宮古島―伊良部島が一続きとなり、これまで不便だった陸路アクセスが劇的に改善しました。その結果、観光客数は年間約100万人を超え、2022年までの10年間で宿泊施設数は約2.5倍の450軒超に増加。国内外の航空路線増便や新規リゾート開発、高級ホテル進出も相次ぎ、観光収入は市財政を大きく押し上げました。
ホテル・飲食・土産物・マリンレジャーなど多岐にわたる分野で雇用が創出され、若者のUターン・Iターン就職も増加。一部では「島に新しい産業が根付き始めた」と評価されています。
一方、建設作業員や観光業従事者の流入で賃貸需要が急増し、家賃は数年で倍増。ワンルームで月額10万円、2LDKで25万円と、那覇市や大都市並みの水準となり、地元の若者や子育て世帯が「家賃を払い切れず退去を余儀なくされる」ケースも発生しています。
住宅不足に加え、観光シーズンの交通渋滞も常態化。島一周の国道では観光バスやレンタカーが連なる状況が続き、定期バスやタクシーの運賃高騰と人手不足がサービス維持を難しくしています。ゴミ収集や医療・福祉サービスも混雑の影響を受け、住民からは「観光の恩恵よりも不便の方が大きい」との声が上がっています。
天然ビーチやサンゴ礁は最大の魅力ですが、マリンアクティビティの過剰利用によるサンゴの白化や生態系へのダメージが深刻化。世界的に名高い「宮古ブルー」を守るため、立入制限やガイドルールの策定が急務となっています。また、観光客向け店舗の乱立で島文化や商店街の景観が変質し、伝統行事への参加者も減少。地元の文化継承が危機に瀕しています。
宮古島市は2024年12月、市長が県に公営住宅整備の要望書を提出。県職員住宅の拡充や公営住宅の新設などを通じ、「家賃高騰で若者が住めない」状況への対応を求めました。県は民間住宅借り上げ制度を拡大し、入居支援を開始したものの、根本的な住宅供給不足には依然課題が残ります。
観光振興と住民生活の両立には、以下の施策が鍵を握ります。
小笠原諸島、屋久島、奄美大島などでも同様の「島のジレンマ」が問題化。先行事例では「入島定員制」「エコツーリズム」「住民優先施策」で改善が見られ、宮古島でも同様の「限界を超えない観光管理」が求められています。
伊良部大橋開通以降の「宮古島観光バブル」は、島経済に一時的な潤いをもたらしたものの、住宅・交通・環境・文化面で深刻な代償を伴いました。今後は官民連携による住宅施策、観光キャパシティ管理、環境保全、地元参画型プログラムを強化し、観光による豊かさを島民と共有する「サステナブルツーリズム」の構築を目指す必要があります。
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