カリスマ去ったダイキン 正念場
2025/06/17 (火曜日)
空調大手ダイキンを襲った“誤算”→カリスマ経営者が去って1年後・・・有望だった海外市場が急失速、業績停滞で株価は3年ぶり安値圏で正念場
「もっと収益性を重視して、ROEやROICを高めなければ、海外投資家の『ダイキン離れ』が起きるでしょう」――5月の決算説明会で飛び出した外資系証券アナリストの予言が現実になりつつあります。2025年6月12日終値で1万6,485円と5年ぶり安値水準に沈んだダイキン工業の株価。その要因は、かつて成長を牽引した海外市場の急失速と、カリスマ経営者退任1年後に訪れた業績停滞にあります。
ダイキンの株価は2023年7月の上場来高値3万1,330円をピークに下落基調へ。今年4月には節目の1万5,000円を割り込み、6月12日終値は1万6,485円。最高値からほぼ半値となり、3年ぶりの安値圏に沈んでいます。前2024年度の営業利益は前年同期比+2.4%の4,016億円にとどまり、計画の4,280億円を下回る実質的な減益着地が株価を直撃しました。
ダイキンの成長ドライバーだった海外売上比率は70%超。2012年の米グッドマン買収以来、北米をはじめアジア・欧州で毎年10%超の成長を続けました。しかし2025年度見通しでは、為替影響除き米州+13%、アジア+10%と過去水準を下回ります。特に北米では住宅用需要の低迷、欧州ではガス価格下落による補助金削減、中国経済減速による販売停滞が重なり、全市場で二桁成長が消えたことが急ブレーキとなりました。
ダイキンを世界一に押し上げた“中興の祖”井上礼之名誉会長は2024年6月に取締役を退任。約30年にわたるトップ体制が終わり、竹中直文社長(当時専務)が新たに舵を取りました。しかし、井上氏が築いた中国本格進出やソリューション事業への転換という宿題に対し、新体制下での海外市場回復は思うように進んでいません。退任直後の過剰期待が裏目に出た格好です。
2023年策定の中期経営計画では、2025年度営業利益5,000億円を目標としましたが、会社見通しは4,350億円程度と大幅未達見込み。一部アナリストは「今年度も営業利益4,100億円程度にとどまる」と予想を下方修正しており、竹中社長は「需給前提からの変化を除けば実質達成」と弁明するものの、市場の信頼回復には至っていません。
1994年の社長就任以降、井上氏は2006年のマレーシアOYL、2012年の米グッドマン買収で海外拡大を加速。日本の空調市場をはるかに上回る高収益体質を構築し、2024年3月期には売上高4.4兆円、営業利益率8.9%を達成しました。しかし、グローバル化の深化に伴う市場環境の変化は想定を超え、過去の投資リターンが今や負担となる局面を迎えています。
竹中社長は今後、①高付加価値ソリューション事業へのシフト強化、②北米・欧州での現地パートナーとの協業深化、③電動車(EV)用空調システムなど新領域開拓、④内部コスト構造の見直し――を柱に再建を図る方針です。ただし、投資家心理回復には収益性指標(ROE・ROIC)の改善が不可欠であり、短期的な業績反転と中長期戦略の両立が最大の正念場となるでしょう。
カリスマ経営者退任から1年、有望とされた海外市場の急失速と業績停滞は、ダイキンにとって想定外の“誤算”でした。株価が3年ぶりの安値圏に沈むなか、新社長の手腕が問われる正念場です。グローバルNo.1の座を維持するため、収益性重視の戦略転換と新興分野への攻勢が急務といえます。
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