ispace 月着陸失敗との見解表明

ispace 月着陸失敗との見解表明

2025/06/06 (金曜日)

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総合 宇宙ニュース

ココがポイントispaceの月面着陸ミッションの結果はどうでしたか?



 宇宙企業ispace(アイスペース、東京)は6日、着陸船「レジリエンス」による月面着陸に失敗したとの見解を明らかにした。降下中に減速しきれず、月面に衝突した可能性が高いとみている。

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要約

2025年6月6日、東京拠点の宇宙ベンチャー企業ispace(アイスペース)は、小型月面着陸船「レジリエンス」による月面着陸に失敗したと発表しました。降下中の推進制御が不十分で、月面近傍で十分に減速できず衝突した可能性が高いとみられています。ispaceは、これまでに日本初の民間月探査を目指す「HAKUTO-R」ミッションを2回行っており、今回の「レジリエンス」はその後継機でした。本稿では、ispaceの設立経緯やミッションの歴史、今回の着陸失敗の経緯を詳述するとともに、世界の同様の月面探査企業との比較を行い、日本の民間宇宙開発の現状と課題について解説します。

1. ispace(アイスペース)の設立・沿革

ispaceは2010年に設立され、「月を、人類にとって身近な場所にする」というミッションを掲げる日本初の民間月面探査企業です。創業時から「HAKUTO」プロジェクトを推進し、独自に開発した小型月面探査ローバー「HAKUTO-R」を軸に、資金調達や技術開発を進めてきました。2018年にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)と提携し、CLPS(Commercial Lunar Payload Services:商業月面搭載サービス)プログラムの参画が決定。2022年末に初のHAKUTO-Rミッション(M1)を打ち上げ、2023年4月に月周回軌道には到達しながらも着陸段階での故障により着陸失敗に終わりました。

その後、ispaceは教訓を踏まえた改良を重ね、2代目着陸船「レジリエンス」を開発。2024年12月に準備を整えつつ、SpaceX社のファルコン9ロケットで打ち上げられました。月面着陸に成功すれば、日本の民間企業として初の快挙となる予定でしたが、2025年6月初旬の最終降下フェーズで高度制御に問題が発生し、減速できず衝突した可能性が高いと報告されています。

2. HAKUTO-Rミッションの歴史と技術的チャレンジ

ispaceの「HAKUTO-R」ミッションは、グーグル主催のチャンレンジ「Google Lunar XPRIZE」への挑戦を起源とし、2010年初期に参画が決定しました。Google Lunar XPRIZE自体は2018年に終了しましたが、ispaceは独自にミッションを継承し、JAXAとの協力でCLPSを利用した月面ミッションへとシフトしました。

初号機(M1)は2022年12月にアメリカ・ケープカナベラルからファルコン9で発射され、2023年4月に月周回軌道投入に成功。しかし月面着陸機の降下中にセンサー不具合が発生し、着陸に失敗しました。この経験を踏まえ、ispaceは2号機(M2:レジリエンス)の推進装置や地上管制システムを全面改修。推進システムには液体燃料エンジンを複数組み合わせ、冗長構成を採用。姿勢制御や高度計測のためのレーザーセンサーも追加しました。しかし、最終的には降下初期段階でセンサーと推進制御の連携が十分に機能せず、減速不足で月面に衝突した可能性が高いとみられています。

3. 世界の民間月面探査企業との比較

近年、民間企業による月面探査は欧米を中心に活況を呈しています。代表的な企業は以下の通りです。

  • Astrobotic Technology(アストロボティック・テクノロジー):米国
    ピッツバーグ拠点の企業で、NASAのCLPS契約を獲得。2023年には「Peregrine(ペレグリン)」着陸機の打ち上げ準備を進め、2025年前半に着陸を試みる計画です。
  • Intuitive Machines(インテュイティブ・マシンズ):米国
    ヒューストン拠点の企業で、2023年2月に打ち上げられた「Odyssey(オデッセイ)」着陸機が月面着陸に成功し、初の商業月面着陸を達成しました。科学実験装置や商業ペイロードの運用も行い、商業月探査の先駆者となっています。
  • Orbit Beyond(オービット・ビヨンド):米国
    かつてCLPS契約を獲得しましたが、資金調達の遅延によりミッションを断念し、現在は事業転換中です。
  • ispace(アイスペース):日本
    HAKUTO-Rミッションを通じてCLPS契約を取得し、2025年初頭に2度目の挑戦となった「レジリエンス」での着陸を目指しました。今回の失敗により、次期計画への課題が浮き彫りになりました。

このうち、Intuitive Machinesが2023年2月に商業月面着陸を果たしたことは大きな注目を浴び、以降は競合企業が続々と開発を加速させています。ispaceは技術面で後れを取っているわけではありませんが、過酷な月面着陸技術の確立にはまだ試行錯誤が必要であることが改めて示されました。現在は米国企業が先行していますが、ispaceは日本企業として唯一のCLPS参画組であり、独自の地上管制ネットワークやレーザー高度計測技術など強みも抱えています。

4. 日本の民間宇宙開発と政策支援

日本政府は2016年に策定した「宇宙基本計画」で民間宇宙ビジネスの育成を明記し、2018年には宇宙ベンチャー支援としてJAXAのCLPSプログラム参加支援をスタートさせました。総務省・経済産業省・文部科学省が連携し、技術開発補助金や打ち上げ費用補助、管制データ利用支援などが行われています。また、2021年にはデジタル庁の設立に伴う「宇宙×デジタル」政策が打ち出され、商業宇宙利用の推進が加速しました。

自治体レベルでも、相模原市や千葉県成田市などがispace支援に乗り出し、地元企業との連携や打ち上げ候補地の整備を進めています。さらに、日本の企業はJAXAとの共同開発による商業利用を視野に入れ、探査ロボットやサンプルリターン技術、衛星打ち上げサービスの展開を模索中です。2025年度予算には民間宇宙開発に対する補助金が約200億円計上され、in-spaceサービスやリモートセンシングデータ利用、月面開発技術の研究開発が本格化する見込みです。

5. レジリエンス着陸失敗の背景要因

ispaceが公表した報告によると、「レジリエンス」は以下の要因により減速不足となり、月面衝突に至った可能性が高いとされています。

  • リアルタイム推進制御の遅延
    降下中に搭載されたセンサー(レーザー高度センサーや慣性計測ユニット)からのデータ処理が想定より遅延し、推進システムへのフィードバックがタイムリーに行えなかった。
  • 燃料噴射制御系のトラブル
    液体酸素と液体メタンを燃料とするエンジンの制御系に微小なバルブ不具合があり、推力制御の精度が低下していた可能性。
  • 地上管制との通信途絶
    月周回から降下開始後、一時的に通信が途絶した時間帯があり、管制からの指示が反映されないタイミングが発生していた。
  • 月面データの不足
    着陸候補地点の地形データ(高解像度DEM)の精度に限界があり、質量特性の推定誤差が着陸機の制御モデルとずれを生んだ。

これらが重なり、最終的には目標地点から数百メートル手前で十分な減速が行えず、硬い月面に高速で衝突した可能性が示唆されています。ispaceは故障原因の特定と再発防止策として、センサー処理回路の高速化、推進システムの冗長化、通信リンク強化、地形データの精度向上を挙げています。

6. 比較:ispaceと米国企業の技術・戦略の違い

民間月面探査において、米国企業とispaceとの間には以下のような違いがあります。

  • 資金調達力とパートナーシップ
    Intuitive MachinesやAstroboticは、NASAとのCLPS契約に加え、ベンチャーキャピタルや既存の航空宇宙企業との提携が強固です。ispaceもJAXAとの連携や日本のVCからの資金調達に成功していますが、米国勢に比べ企業規模や資金量でやや劣ります。
  • 技術開発のアプローチ
    米国企業は宇宙機の高信頼性部品や設計を国内外から集積し、冗長性の高いシステムを構築します。一方、ispaceは比較的少人数の体制にもかかわらず、独自開発を重視し、コスト効率の高い設計を採用しています。両者は一長一短ですが、投資規模の差が開発速度や検証環境に影響を与えています。
  • ミッションの商業化戦略
    Intuitive Machinesは商業ペイロード輸送や月面データ販売を視野に入れたビジネスモデルを描いており、複数回のミッションを計画しています。ispaceも月面資源探査(宇宙探鉱)や月面物流サービスの提供を目指していますが、まずは着陸技術の確立が最優先であり、商業フェーズは次期段階に位置づけられています。
  • 規制緩和と法制度の差
    米国ではFAA(連邦航空局)やFAR(連邦航空規則)をベースにした商業宇宙活動向け規制が整備されており、比較的迅速に新規事業者が参入できます。日本では宇宙基本法の改正やJAXA中心のルール整備は進んでいますが、米国ほど規制緩和と迅速な許認可対応が整っているわけではなく、行政手続きに時間がかかる課題があります。

7. 今後の課題と展望

ispaceはレジリエンスの失敗を受け、技術的・組織的な課題を洗い出し、次期ミッション(M3)に向けて以下の対応を急務としています。

  1. 要因究明と改善策の徹底検証
    衝突原因となったセンサー・推進システム・通信系統の問題を詳細に解析し、設計改良を行う。第三者機関によるフェイルセーフ評価も導入する。
  2. 追加資金調達と人材強化
    新規投資ラウンドを実施し、開発チームの専門人材(軌道力学、ソフトウェア、推進工学)を強化。米国や欧州のパートナー企業との技術連携も視野に入れる。
  3. 地形データ精度の向上
    JAXAやNASA、商業衛星データを活用し、着陸予定地点の3次元地形データ(DEM)の精度を高める。AIを用いた地形分類アルゴリズムも導入し、着陸安全域の解析を自動化。
  4. 小型ローバーとの連動実証
    着陸後に小型探査ローバー(「MU‐ROVER」など)を展開し、月面詳細調査や資源探査の実証実験を行うための統合ミッション設計を行う。

また、日本政府は宇宙基本計画を改定し、民間月面探査に対する補助金や税制優遇措置を拡充する方針です。宇宙産業競争力向上の観点から、月面探査や衛星データビジネスを国家戦略に位置づけ、大学や研究機関との共同研究を推進する枠組みも整備されつつあります。さらに、アジア圏との国際協力により、日本企業の技術力をグローバルに展開する計画も模索されています。

8. 日本の民間宇宙開発の意義と今後の展望

日本はこれまでJAXAを中心とする国家プロジェクト型の宇宙開発を主導してきましたが、民間参入の動きが活発化することで多様なビジネスモデルが生まれつつあります。ispaceのようなベンチャー企業が月面着陸を目指すこと自体が、日本の宇宙産業エコシステムの成熟を示しています。政府は「宇宙産業ビジョン2030」で、2030年までに世界市場の10%を占める規模の宇宙産業を目標としており、民間企業の成長が欠かせません。

一方で、国際情勢の変化や地政学的リスクも念頭に置く必要があります。中国やインドなどアジア諸国も月面探査を競い合っており、資源開発や有人ミッションの動きが活発化しています。日本企業が独自技術を持ちながら国際競争力を維持するには、コスト競争力の向上や国際標準規格への適合、政府の支援体制の強化が急務です。

ispaceの着陸失敗は痛手ですが、民間企業が挑戦すること自体が意義深く、次期ミッションでの技術検証や実証実験が成功すれば、日本の商業月探査は一気に弾みをつけるでしょう。商業的には月資源探査や月面物流、宇宙インフラ構築サービスなど多様なビジネス機会が見込まれます。宇宙探査技術の成果は地球上の新素材開発やリモートセンシング産業にも波及し、日本の科学技術力向上につながる可能性があります。

9. まとめ

ispaceが2025年6月に「レジリエンス」の月面着陸に失敗したことは、日本の民間月探査にとって試練ですが、世界との競争環境の中で技術力を鍛え成長する契機ともなります。Intuitive Machinesなど米国企業の成功事例を参考にしつつ、日本企業は独自の強みを活かしたコスト効率の高い設計や高信頼性技術を磨く必要があります。

政府は官民連携を強化し、資金面・制度面での支援を充実させることで、ispaceの次期ミッションを支援するとともに、新規参画企業やスタートアップの成長を促進する体制を整備することが求められます。民間月面探査は宇宙産業の新たなフロンティアであり、日本がリーダーシップを発揮し、世界市場で競争力を示すことで、次世代の科学技術基盤を築く大きなチャンスとなるでしょう。

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