白亜紀の海はイカだらけ 研究発表
2025/06/27 (金曜日)
総合ニュース
白亜紀の海はイカだらけ 化石を3Dで取り出す技術で判明 北海道大
2025年6月26日、北海道大学の研究チームは、科学誌Scienceに発表した論文で、白亜紀(約1億年前)の海洋にはイカ類がアンモナイトを上回る勢いで繁栄していたことを報告した。これまでほとんど化石として残りにくかったイカ類の「くちばし」に着目し、岩石をまるごと高精度な三次元デジタルデータへ変換する装置を開発。従来の職人技に頼った手作業では見落とされてきた小型の化石を大量に発見し、古生物学の定説を塗り替えた。
古生代から中生代にかけて、海洋無脊椎動物の代表格だったアンモナイトは、炭酸カルシウム製の殻により化石として豊富に残る。一方、現生のイカ類は殻をほぼ失い、硬い部位はあご状の「くちばし」(キチン質)だけだ。従来はこのくちばしがもろく、岩石中から取り出すのが極めて困難とされ、白亜紀のイカ化石はごく僅かしか知られていなかった。
研究チームは北海道各地で採取された、1億~7千万年前堆積の海成岩35個を対象に、特殊な全自動撮影装置を用いて岩石の表裏から高解像度写真を連続撮影。これを積層してフルカラー3Dモデルを構築し、ソフトウェアによる形状解析でくちばし化石を検出した。この「デジタル化石発掘」手法により、岩石を削る手技的リスクを回避し、内部に埋もれた微小化石を損傷なく検出できるようになった。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
三次元データ解析の結果、長さ平均3.87mmのイカ類くちばし化石263個が確認された。形態的特徴から、ハボロテウティス科やスクトテウティス科を含む計40種(うち39種は新種と推定)に分類され、現生イカと同様の15~20cm級の体長が示唆された。また、同じ岩石からはアンモナイトやタコ科のくちばし化石も抽出されたが、イカ類が圧倒的多数を占めていた。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
従来の図式では、アンモナイトが白亜紀の海洋中で優勢を誇り、イカ類はアンモナイト絶滅後に急速に多様化したとされた。しかし本研究により、イカ類はアンモナイトと並存しながら既に多種多様に分化し、中~深層域の小型捕食者として重要な役割を担っていた可能性が浮上した。海洋生態系モデルの再検討が必要とされる。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
「デジタル化石発掘」は、これまで人間の目と手に頼っていた化石発見の概念を一新する。北海道大の伊庭靖弘准教授は「化石が岩石に埋もれていると判断され、人為的に見落とされてきた生物群の全貌が明らかになりつつある」と述べる。今後は同技術を地球史の他時代や陸成層にも適用し、未知の化石多様性を探る取り組みが加速すると期待されている。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
本成果は、化石資源のデジタル保存と共有を可能にし、研究者間の協力体制を強化する。化石データはオープンアクセスで配布予定で、世界中の研究者が解析できる。未来の研究は「実物を掘り出す」より「データを解析する」時代へと移行する可能性が高まった。
技術的課題として、より大規模な岩石ブロックへの応用や自動解析アルゴリズムの最適化が挙げられる。また、地質年代や産状の違うサンプルへの適用検証、AIによる化石パターン認識の導入も望まれる。これらを克服すれば、化石記録の偏在性を大幅に是正し、過去の生命多様性をより正確に再構築できるだろう。
北海道大学が開発した3Dデジタル化石発掘技術は、イカ類化石の大量発見を実現し、白亜紀の海洋生態系に関する通説を覆した。古生物学における新しい研究パラダイムとして、今後も多様な時代・地域での応用が期待される。
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