ウズラ卵で小1窒息死 親が市提訴
2025/06/06 (金曜日)
給食のウズラの卵をのどに詰まらせ小1男児が死亡した事故 遺族が慰謝料など6000万円の支払いを求めて福岡県みやま市を提訴
2024年2月、福岡県みやま市の小学校で、小学1年の男子児童(当時7)が給食で提供されたウズラの卵をのどに詰まらせて死亡した事故で、6日、男子児童の父親がみやま市に損害賠償を求める訴えを起こしました。
ウズラの卵の危険性について指導等が欠如していた、窒息事故について発見・救命措置の遅れがあったなどとして慰謝料など6000万円の支払いを求めています。
2024年2月26日、福岡県みやま市の小学校で小学1年生の男子児童(当時7歳)が給食で提供されたウズラの卵を誤ってのどに詰まらせ、窒息死した事故を受け、6日、児童の父親がみやま市を相手取り慰謝料など6000万円の損害賠償を求める訴えを福岡地方裁判所に提起しました。原告側は、「ウズラの卵の危険性に関する指導が欠如していた」「窒息事故発見後、救命措置の遅れがあった」などと主張しており、学校給食における安全管理の在り方が改めて問われる形となっています。本稿では、事故の経緯や第三者委員会の検証結果、ウズラの卵と窒息事故の危険性、過去の類似事例、学校運営責任と法的背景、再発防止策などについて解説します。
事故は2024年2月26日のお昼休み、みやま市内の小学校で発生しました。その日の給食メニューは「みそおでん」。具材として麩や大根に混ざってウズラの卵が提供されていました。男子児童はおでんに入ったウズラの卵を丸ごと口に含み、嚥下がうまくいかず、喉に詰まらせてしまったとされています。教室内で児童がむせるような様子を見せたものの、担任教諭は当初状況を深刻に把握できず、その場で適切な救命措置を開始しませんでした。校長や保健室への連絡、緊急通報の判断にも時間を要し、救急隊到着時にはすでに意識を失っており、搬送先の病院で死亡が確認されました。
学校側は後日設置された第三者委員会により、児童の健康状態には特段の問題がなく、事故発生要因は特定できないと結論づけられましたが、事故防止および対応過程における指導・管理の不備が指摘されました。具体的には、児童が食べる前にウズラの卵の丸飲みリスクを教えていなかった点、むせた直後に気道確保のための適切な救命措置が行われなかった点、通報までに時間を要した点などが挙げられています。
ウズラの卵は小ぶりで殻が柔らかく、栄養価も高いため、学校給食では彩りや栄養バランスの一環として用いられることがあります。しかし、そのまま提供された場合、形状が肉眼では卵かどうか判断しにくく、嚥下動作の未熟な低学年児童にはのどに詰まらせる危険性があります。特に、丸ごと一個をかぶりつくと咀嚼・嚥下の際に気道をふさぎやすく、誤嚥性肺炎だけでなく窒息死にもつながりかねません。厚生労働省の「学校給食衛生管理基準」では、平成以降、アレルギーだけでなく誤嚥防止の観点からも「提供具材の形状や大きさに留意し、低学年の児童には刻んだり潰したりしてから提供すること」が推奨されていますが、実際の現場で必ずしも徹底されていないケースが散見されるのも事実です。
事故校では、献立表に「ウズラの卵」を明記していたものの、担任教師への事前研修や児童への注意喚起は不十分だったと見られています。新任教諭や給食業者が十分な情報共有を受けずに提供作業を行った可能性もあり、「提供前のリスク周知」「低学年向けに形状を工夫した調理」などが後手に回ったことで、事故発生に至ったと考えられます。
学校給食で起きた窒息事故は全国的に年間数件程度報告されており、特に低学年児童が小さな固形物を丸ごと飲み込んでしまうケースが多いです。例えば、2015年に神奈川県内の小学校で同様にウズラの卵をのどに詰まらせて搬送された事例や、2018年には長野県で煮豆を丸ごと飲み込んだ小学1年生が窒息状態となったケースがあります。文部科学省の調査によれば、給食で提供される食品による誤嚥・窒息事故はここ10年で増加傾向にあり、その多くは「小児の食事マナー指導の不足」「施設内での目配りが不十分」「緊急時対応マニュアルの周知不足」が背景に挙げられています。統計的にみると、給食回数(年間約200回)に比して致命的なケースは稀ですが、一度の事故が重大な結果を招くため、学校運営側には常時徹底した安全管理と事前対策が求められています。
日本の学校では、児童の安全確保を義務付ける法律として「学校教育法」「学校保健安全法」「地方公務員法」などが関連します。これらの法令では、教職員が「職務上知り得た危険を予見し、回避する努力」を求めており、過失が認められた場合には地方自治体(学校設置者)に賠償責任を負わせる判例が多く存在します。たとえば、1990年代以降、給食による誤嚥事故で児童が死亡・重傷を負ったケースで、裁判所は「提供前に形状や大きさの危険性を周知すべきだった」「担任が窒息兆候に気づきながら即時救命措置を行わなかったことに過失がある」として、市町村側に損害賠償を命じた事例が複数あります。
今回の原告側が「ウズラの卵の危険性に関する指導が欠如していた」「担任の救命措置が遅れた」などを主張する背景には、これら過去判例の蓄積があります。みやま市側は「事故原因が特定できない」「教職員は当時適切な対応を試みていた」と反論する見込みですが、法的には「過失相殺」や「合理的注意義務違反」が焦点となり、最終的にどのような基準で学校側の責任が認定されるかが注目されます。損害賠償訴訟では、慰謝料や逸失利益などが算定対象となりますが、今回の請求額6000万円には精神的苦痛に対する慰謝料や将来得られたはずの教育機会損失などが含まれていると推測されます。
事故後、みやま市立小学校は第三者委員会を立ち上げ、事故原因の究明や再発防止策の検討を行いました。2024年8月に公表された報告書では、以下のような点が指摘されました:
これらを受け、市は教職員研修の拡充、給食提供前の安全確認強化、窒息時の現場対応マニュアル整備などを再発防止策として提言しました。しかし、原告側はこれらの対策が「事故後の改善策」であり、事故当時点での注意義務違反が招いたものだとして、改めて損害賠償責任を追及する構えです。
今回の事故を教訓に、全国的に学校給食安全の制度見直しが進められています。具体的には以下のような再発防止策が提案・実装されています:
これらの対策は、すでに文部科学省や厚生労働省が出している通知・指針を基に、各自治体や学校独自の実践マニュアルとして取り込まれつつあります。今後、事故原因調査報告書に示された指摘点が全国的に共有されることで、類似事故の防止につながることが期待されます。
給食に起因する児童窒息事故の法的責任を巡る判例としては、以下のような事例があります:
いずれの事例でも、教育現場における「リスク認識」と「迅速な救命対応」が欠如していた点が共通しており、法的にも学校運営者に相当の注意義務違反があったと判断されています。今回のみやま市事故も同様の構図にあり、父親側が学校側責任を厳しく追及している背景には、過去判例が示す「学校事故における適切な安全管理義務の重さ」があります。
原告側は、以下の請求内容を明記しています:
みやま市側は「事故原因が特定できず、第三者委員会で学校側に重大な過失は認められなかった」として争う構えですが、実務的には「過失相殺」「賠償額の妥当性」「教員研修状況」などが争点となるでしょう。第一審ではまず、学校運営者としての過失の有無とその程度が問われ、仮に過失が認定された場合には賠償金額の算定根拠が詳細に審査される見込みです。
なお、過去の事例では学校側が和解で示談金を支払うケースが多いのに対し、裁判で全額支払い命令を受けた判例は少数派です。みやま市側も過剰賠償を避けるために、和解交渉を並行して行う可能性があります。ただし、原告側が示す「児童の将来を奪った」という重い主張に対し、市側がどの程度の譲歩措置をとるかが注目されます。
今回の訴訟提起により、全国の学校関係者や自治体は改めて給食安全管理の見直しを迫られています。とくに以下の点が改めて議論の的になるでしょう:
これらの対策が全国的に広がれば、学校給食における窒息事故は大きく減少すると期待されます。また、保護者の不安を和らげるために、給食の内容や安全対策をウェブサイトや文書で公開し、透明性を高める取り組みも求められます。
2024年2月に発生したみやま市小学校のウズラの卵窒息死事故を機に、学校給食の安全管理や教職員の救命対応が改めて問われています。第三者委員会は事故原因を特定できなかったものの、指導・対応面の不備を指摘しました。父親による損害賠償訴訟は、全国の学校運営者に対し「危険認識を徹底し、迅速な対応力を磨くことが義務」であることを強く示唆します。今後は、ウズラの卵を含む窒息リスクの高い食材の提供方法見直しや、教職員の応急手当訓練の義務化など、具体的な再発防止策がさらに拡充される見込みです。学校は児童の安全を最優先に考え、給食を通じた学びの場を安心して提供できる環境づくりを進める必要があります。
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