投げ銭感覚でチップ 飲食店で導入
2025/07/06 (日曜日)
客からスマホで「チップ」 飲食店で導入進む 1カ月で7万円受領も
飲食店でスマホチップ導入進む──投げ銭感覚が生む新サービス潮流
飲食店でスマートフォンを通じて客が店やスタッフに「チップ」を送れる仕組みの導入が広がっている。接客やサービスに満足した客がQRコードやモバイルオーダー画面から任意の金額を選んで送金でき、2025年6月に始まった「チップ」機能では、1カ月で7万円を受け取った店舗もあるという報告がある。
スマホチップには大きく二つのタイプがある。2020年から「推しエール」として提供されているサービスでは、客が接客のいいスタッフのプロフィールを選び、アイテム感覚で投げ銭を送る仕組みを採用。2025年6月からは、飲食代の25%以内で自由に金額を設定できる「チップ」機能を追加。これらの機能はモバイルオーダー導入店の約13%で利用され、導入数は増加傾向だという。
名古屋市中村区の居酒屋店長(21)は「頑張りが見える化できるので、アルバイトのモチベーションが上がった」と語り、中区の焼き肉店では客から「満足のいくサービスなら送ってもいい」と好評を得ている。スタッフ間で成果が共有されることで、接客品質の向上にも寄与するとの声が出ている。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
キャッシュレス決済に慣れた客層にとっては現金の用意が不要で手軽に送金できることが最大の利点だ。店舗側はチップ全額をスタッフに還元する/社内懇親会費に一部充当するなど運用ルールを自由に設定でき、人手不足解消や離職率低下にもつながるとする調査もある。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
日本では歴史的にチップ文化は定着せず、ホテルや高級飲食店での「心付け」やサービス料が例外的に存在する程度だった。法的にもチップは任意であり、サービス料と異なり明確なルールはない。一般的には「おもてなし」の一環として無償提供されるべきという考え方が根強く、別途チップを渡す習慣はほとんど浸透していない。
米国や欧州ではキャッシュレス化とともにQRコードやアプリでのチップ送付が普及しつつある。企業や個人事業主向けプラットフォームで、チップの分配比率を明示してサーバーやキッチンスタッフへの公平な配分を実現する例が増加中だ。こうした「キャッシュレスチップ」は、現金を持ち歩かない若年層や海外旅行客にも支持されている。
飲食店以外でも、SNSライブ配信(Super Chat/投げ銭)、オンラインコンテンツ(Patreon/サポート機能)など、利用者が創作者に対価を直接送金する仕組みが広がる。飲食店のスマホチップ導入は、こうした“投げ銭感覚”をリアル店舗に持ち込んだ新たな試みといえる。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
一方で、客がサービス料と勘違いするケースや、スタッフ間で配分ルールを巡るトラブルが起きる可能性もある。さらに、QRコード決済の遅延や未設定による送金ミス、通信環境の脆弱性による決済失敗など、運用面の整備も不可欠だ。文化的には「渡す側の気持ち」「受け取る側のプライド」といった微妙なバランスも考慮しなければならない。
国内外のキャッシュレス決済インフラ整備が進む中、スマホチップは飲食店スタッフの評価指標としての側面や顧客ロイヤルティ向上策としての活用が期待される。自治体や業界団体によるガイドライン策定、プラットフォーム事業者による手数料設定の透明化、店内Wi-Fiの整備など、運用ルールと技術サポートの両輪で定着度が左右されるだろう。
スマホを介した飲食店チップ導入は、従来のサービス料一律請求とは異なる「顧客の裁量」を重視し、スタッフのやる気向上や顧客体験の深化に寄与する新潮流だ。しかし、日本に根強い「おもてなし無償提供」文化や、プラットフォーム手数料、QRコード決済トラブルなど、解決すべき課題も少なくない。
今後は、①運用ガイドラインの整備・普及、②導入店舗への技術・手数料面の支援、③顧客への十分な説明とマナー教育、④トラブル発生時の対応フロー確立、⑤スタッフ間の配分ルールの明確化といった多面的な対応が求められるだろう。
最終的には、「お客様の感謝を可視化し、評価と報酬を直結させる仕組み」としてスマホチップが受け入れられるかにかかっている。その成否は、サービス業の働き方改革や顧客満足度向上策の一環として、飲食業界のデジタル化をさらに加速させる可能性を秘めている。
今後もしっかりとした運用基盤と透明性を担保しつつ、飲食店と客が相互にメリットを享受できる新たな注目サービスとして定着するかに注目が集まる。
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