実写版「スティッチ」ヒット 背景
2025/06/08 (日曜日)
過小評価をくつがえした「リロ&スティッチ」 大コケ「白雪姫」との対比に見るヒットの新法則
2025年春、ディズニーの最新実写映画として公開された『雪白姫(Snow White)』は、製作費約2億5000万ドル(約350億円)を投じながら北米興行収入わずか8700万ドル(約120億円)にとどまり、大赤字を計上した。一方、同時期に公開された『リロ&スティッチ』実写版は、製作費1億ドル(約140億円)+マーケティング費7500万ドル(約105億円)という控えめな予算で、世界6億1000万ドル(約850億円)の爆発的ヒットを記録。ここでは、この両作を対比しながら、実写化ヒットの新法則を探る。
ディズニーはここ数年、名作アニメの実写化を推進してきた。『美女と野獣』(2017)、『アラジン』(2019)、『ライオン・キング』(2019)はいずれも10億ドル超えの大成功を収めたが、2025年公開の『白雪姫』は久々の大コケに。
製作費と仕様
原作アニメ(1937年)の世界観を一新する意図で、推定2億7000万ドル(約390億円)規模のプロダクションを敢行。主役の白雪姫には『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)で注目のラチェル・ゼグラー、邪悪な女王にはガル・ガドットを起用した。
ストーリー改変と政治的配慮
原作の小人たちを一人のドワーフ俳優と多様な背景の役者で構成し直すなど、ポリティカル・コレクトネスを意識した改変が賛否を呼んだ。また主演女優の発言や政治的立場が公開前から物議を醸し、一部観客のボイコット運動にもつながった。
マーケティングのミスマッチ
過去作の成功体験を踏襲しすぎた大規模なプロモーションにもかかわらず、肝心の「物語への期待感」が形成できず、公開初週末の興行収入は4300万ドル(約60億円)、日本でもオープニング4日間3.2億円と不調。
元は配信向けオリジナル
2018年、低予算配信映画として企画されたが、Disney+向けのコンテンツ強化策の一環で製作が決定。2024年10月、メモリアルデー公開の劇場作品に格上げされた。
予算と制作効率
制作費1億ドル、撮影期間わずか2カ月の迅速なロケを実施。CGキャラクターのスティッチに要するコストを考慮しても、無駄を省いた賢い予算配分がなされた。
異例のポストプロダクション期間
完成後のテスト上映で好反応を得て、CEO復帰後のボブ・アイガーが配信ラインナップ強化を支持。ポストプロダクションに時間をかけ、品質を徹底的にチューニングした。
2025年5月23日メモリアルデー週末に北米公開。公開初日1億4600万ドル、2週連続首位をキープし、6億1000万ドル超えを達成。日本公開が遅れたにもかかわらず、最終的に10億ドル到達の可能性も示唆されている。
マーチャンダイジング
スティッチのぬいぐるみやグッズが一般店頭にあふれ、関連商品の売上増加が続く。
サブスクリプション誘引
Disney+への誘導効果も大きく、劇場公開後の配信開始時には新規加入者数の顕著な伸びが見込まれる。
フランチャイズ化
続編制作の道が開けたことで、リスクを避けがちなスタジオにとって「頼れるシリーズ」として重宝される可能性が高い。
今回の成功から導き出せるポイントは以下の通り。
ディズニー実写化の次なる潮流は、単なる「懐かし再現」から「最適化された小予算×精緻マーケティング」へと移行しつつある。『リロ&スティッチ』は、従来の成功モデルを超えた新たな方程式を示した好例だ。逆に、『白雪姫』の大コケは「巨額予算×議論喚起型改変」の限界を露呈した。今後、実写化を志向するスタジオは、本稿で示した新法則を参考に、IP選定と投資配分、マーケティングのバランスを慎重に検討すべきであろう。
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