コメの業者間相場 2割近く急落

コメの業者間相場 2割近く急落

2025/06/07 (土曜日)

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経済ニュース



コメ卸売業者の間で銘柄米を取引する「スポット市場」が急落している。

 農林水産省が随意契約方式による政府備蓄米の売り渡しを開始したことで、割高な銘柄米の人気低下を見込んだ業者が一斉に買いを停止。これにより、5月21日の小泉進次郎農水相就任の直前に比べ、主要銘柄は2割近く値を下げた。昨秋から高騰していた業者間相場の沈静化が、小売価格の低下につながるかが注目されている。

 政府は3月以降、3回の競争入札で計31万トンの備蓄米を放出。一方、スポット市場では、新潟県産コシヒカリ(一般)の60キロ当たりの価格が1月下旬から4万円台後半を維持し、5月には約5万円に上昇した。これは前年同時期の約2倍の水準だ。

 そこで、小泉氏は競争入札を中止し、随意契約への切り替えを決定。スーパーなどに直接引き渡すことで、小売価格は5キロ当たり2000円程度と、5000円を超えることも珍しくない銘柄米に比べて大幅に安い水準となり、消費者が殺到して完売が相次いだ。

 安い備蓄米が行き渡れば、高いコメの購買意欲は鈍る。「これまではスポット市場で買い手だった有力卸ですら、2024年産米を手放すようになった」(流通業界幹部)といい、相場の雰囲気は一変。小泉農水相の登場から約2週間で新潟コシヒカリの業者間相場は4万1000円前後まで下落した。

 「聖域なく、あらゆることを考えて、コメの価格安定を実現していく」とする小泉氏は、緊急輸入の可能性にまで言及。スポット相場にはさらなる下落圧力がかかる。

 ただ、これまでに高値で仕入れた卸業者には、直ちに値下げしにくい事情もある。農水省によると、5月19~25日の備蓄米も含めたコメの全国平均店頭価格は4260円。「当面は下落してもせいぜい数百円」(米穀商団体)との見方が依然として根強い。 

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はじめに

2025年6月上旬、コメ卸売業者の間で銘柄米を取引するスポット市場が急落しました。背景には、農林水産省がこれまで競争入札方式で売り渡してきた政府備蓄米を、スーパーなどへの随意契約(直接交渉)方式に切り替えたことが大きく影響しています。割高な銘柄米の人気低下を見込んだ卸売業者が一斉に買いを停止し、主要銘柄は就任直前と比べて2割近く値を下げています。本稿では、今回の急落をめぐる経緯と背景、歴史的経緯を整理し、国内外の事例との比較や今後の市場への影響を解説します。

政府の備蓄米政策とこれまでの経緯

日本の米政策は、戦後の食糧管理制度(現・食糧法)に端を発し、価格安定と需給調整を目的に国が備蓄米を保有してきました。米価が大きく変動した際に備蓄を放出することで、農家の収入と消費者の負担を同時に守る仕組みです。これまでにも、2008年の世界的な米価高騰時や2011年の東日本大震災後には、備蓄米を緊急放出して市場を安定させる措置が取られました。

スポット市場と契約市場の違い

コメ流通の取引形態は大きく二つに分かれます。

  • スポット市場:卸売業者間で銘柄米を即時決済で売買する市場。価格は需給動向に素早く反応しやすい。
  • 契約市場:小売店や外食産業などとの長期的・定期的契約に基づく取引。価格交渉に時間を要するが、安定供給が図られやすい。

今回、政府が契約市場に近い随意契約方式で備蓄米を直接スーパーに引き渡したことで、消費者向けには価格が大幅に抑えられ、小売市場の需要シフトが起こりました。

今回の急落の主な要因

  1. 随意契約方式への切り替え
    従来の競争入札を中止し、スーパーなどに直接売り渡すことで、5kgあたり約2,000円という安価な価格帯が実現。消費者の購買意欲が高まり、完売が続出したことで、業者間の銘柄米需要が急減しました。
  2. ブランド米価格の高騰
    今春までに、新潟県産コシヒカリ(一般)は60kgあたり約5万円まで上昇。前年同期の約2倍という過去最高水準であったため、卸売業者は在庫を確保し続けるリスクを回避する動きに転じました。
  3. 緊急輸入への示唆
    小泉農水相が「聖域なく価格安定を図る」として緊急輸入の可能性に言及。今後、さらに下落圧力がかかるとの警戒感が、市場心理を一層冷やしました。

過去の在庫放出と市場への影響比較

過去の例と比較すると、2008年の世界的コメ価格高騰時、タイ政府が輸出規制を行ったことで一時的に国内価格が上昇し、日本も備蓄米を放出しましたが、当時は少量放出にとどまり市場への即効性は限定的でした。2011年の東日本大震災後には、被災地支援を主眼に大量の備蓄米が供給され、流通逼迫が緩和された一方、翌年には価格が底を打った事例があります。今回のように、競争入札から随意契約へと方針を大転換し、小売店に大量供給した事例はきわめて異例です。

小売価格への波及と卸業者の課題

農林水産省の発表によると、5月19日~25日の備蓄米も含めた全国平均店頭価格は4,260円。この水準は依然として卸売市場での高値仕入れ分を吸収しきれず、当面は「下落しても数百円程度」との見方が根強い状況です。高値で仕入れた卸売業者は在庫を値下げしにくく、利益圧迫が避けられません。また、契約締結済みの出荷先との価格差調整や、新たな販路開拓など、業者間での調整コストが今後の大きな課題となります。

今後の展望と政策的示唆

  • 政府としては、在庫回転率を高めつつ、需給予測の精度向上が喫緊の課題。
  • 緊急輸入を含む外部供給の活用により、価格下支えと消費者負担軽減のバランスを模索。
  • 卸売業者側は、リスク分散のための長期契約比率の見直しや、ブランド価値の維持策(付加価値訴求)を強化する必要。

まとめ

今回のスポット市場急落は、政府備蓄米の販売方式変更という政策判断によるものであり、国内の米価安定策としては画期的な転換点です。ただし、卸売業者や生産者は高値仕入れ分の損失リスクを抱え、短期的な市場混乱は避けられません。中長期的には、需要構造の変化やブランド米の付加価値強化、さらには輸入米との競合環境の変化を見据えた総合的な政策設計が求められるでしょう。

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