「ありがとう」笑顔で毒入りギョウザ差し出し家族の仇を取る ギャング40人を処刑
2025/06/12 (木曜日)
痛烈な報復だった。5月、カリブ海の島国・ハイチでギャング約40人が腹痛を訴え、死亡した。原因は「守ってくれて感謝しています」と露天商の女性から差し出された揚げギョウザ「エンパナーダ」。治安悪化著しい無政府状態の同国で、家族を殺された女性による復讐劇だった。ギャングは病院にたどり着くことすらなく息絶えたという。複数の欧米メディアが伝えた。
事件を受けて、国連安保理は緊急議論を招集し、ハイチにおける治安部隊の強化と司法支援を要請しました。UNDP(国連開発計画)は、警察官の給与未払いが離職を招き犯罪温床化しているとの報告を踏まえ、安定的な報酬体系構築を支援するプロジェクトを立ち上げました。しかし資金の大半は内戦後の復興や災害対策に振り向けられ、司法改革・治安回復への投資が不足しているのが現状です。また、アメリカ、カナダ、欧州連合(EU)は経済制裁や人道支援を併用する一方、国内の政治腐敗をただす圧力が弱いとの批判もあります。
ハイチでは中央政府の統制力が弱体化し、地方ごとに有力な派閥やギャングが「公的秩序の代替者」として振る舞う構図が長年続いてきました。政治家や地方首長がギャングと結託し、選挙や政敵排除に武力を利用するケースもあり、住民は大規模な武装勢力の脅威にさらされています。国際社会はハイチ国家警察(PNH)への支援を拡大しつつも、「資金援助が汚職ルートに流用される」というジレンマに直面しています。
ハイチ政府は、警察官の人事や予算運用を透明化するため、外部の監査機関を設立し、上級警察幹部の任命プロセスを公開する措置を検討中です。さらに、米国国務省はPNHへの装備援助として治安維持車両200台を提供し、フランスは司法研修プログラムを通じて裁判官・検察官の能力向上を図っています。しかし現場では、警察官自身が恐喝や賄賂を行う「第二のギャング化」が問題視されており、内部統制の確立が急務です。
地元コミュニティでは、被害者とその家族に対するカウンセリングと生活再建支援が始まっています。医療NGOや心理ケア団体は、PTSD予防のためのグループセラピーを提供し、トラウマケア研修を地元医療従事者に実施しています。また農村部では「安全な村づくり」プロジェクトが進められ、GARD(国際農村復興開発団体)が住民とともに自警団を編成し、法的訓練を行うことで「村の警察」を育成しています。
治安回復には、若者の暴力への依存から芸術やスポーツを通じた建設的活動への参加を促す社会的プログラムが欠かせません。UNESCOは学校カリキュラムに「平和教育」と「人権教育」を組み込み、ギャングリクルートを防ぐ取り組みを支援。地元ラジオ局やコミュニティセンターでは、武装勢力に加担しないメッセージを伝えるラジオドラマや映画上映会を開催し、非暴力の価値観を広げています。
ハイチの経済復興は治安改善と表裏一体です。世界銀行とアフリカ開発銀行は「小規模ビジネス支援融資」を実施し、地元の仕立て屋や農家に無利子融資を提供しています。こうした職業訓練と雇用創出策は、ギャングに属する動機を減らし、社会的結束を高める効果が期待されています。ただし、融資の返済能力が低い地域では債務問題が新たな社会不安を生む懸念もあります。
ハイチの事例は、国家の統治能力が途絶えたときに「報復」が合理的選択肢とみなされる危険性を示しています。法治主義の枠組みを再構築し、住民の信頼を回復するには、①公的機関の透明性向上、②治安部隊と司法当局の専門性強化、③コミュニティ主導の社会復興、④国際社会の一貫した支援が必要です。特にギャング対策は単なる武力行使ではなく、社会的包摂の視点を取り入れた総合的アプローチが極めて重要です。
毒入りエンパナーダによる復讐事件は、ハイチの深刻な治安崩壊と司法制度の脆弱性を象徴しています。被疑者の動機は「家族の無念」を晴らすためでしたが、法的正義を逸脱する形で取られた手段は新たな悲劇を生みました。長期的な平和構築には、国家・地方・国際機関・市民社会が協力し、人権尊重と持続可能な開発を両輪で進めることが不可欠です。今回の事件を教訓に、法治回復と地域経済復興を統合した「暴力連鎖解消モデル」の構築が求められています。
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